医療事故情報収集等事業第63回報告書(2020年7月~9月)
「【1】リハビリテーションの際に発生した事例の分析」では,リハビリテーション実施中の転倒・転落が多いことが示されています.「リハビリテーション実施中の転倒・転落を防止するためには、患者の状態を評価して介助方法や運動量などを検討し、患者に応じた適切な予防策を実施することが必要である。」としています.
「【2】手術で切除した臓器や組織が体内に残存した事例」では,残存した臓器や組織を摘出するために再手術を行った事例が7件あり、患者に予定外の侵襲を与えていた,とのことです.
「腹腔鏡手術では、切除した臓器や組織を体外に取り出すため回収バッグに入れる操作があり、さらに、その回収バッグを体外に取り出す際に腹壁に挿入しているポートを抜く必要がある。そのため、切除した臓器や組織を入れた回収バックを一旦腹腔内に置いておき手術終盤に取り出すことがある。また、腹腔鏡手術は、カメラを通して見える術野の範囲が限られているため、切除した臓器や組織を一度見失うと、閉腹前に取り出すことを失念する可能性がある。報告された事例の中には、切除した臓器や組織だけでなく、それらを体外に取り出すための回収バッグとともに残存した事例が含まれており、体内に挿入したものの種類や数を手術に携わっている関係者で共有し、閉創前にそれらを取り出したことを確認することは重要である。また、核出した複数の子宮筋腫のうち1個が体内に残存した事例のように、切除した組織が複数存在する場合は、切除した数と体内から取り出した数、体内に置いている数が一致することを誰がどのように把握して共有するか手順を決めておく必要がある。 鏡視下手術の普及により、低侵襲で治療が行えるようになったが、体内への異物残存により再手術になると患者へ与える影響は大きい。特に腹腔鏡手術の際は、閉創前やサインアウト時に、切除した臓器や組織を取り出しているか確認することになっているか見直す必要がある。各医療機関において、切除した臓器や組織を体外に取り出したことを閉創前に確認することや、切除した臓器や組織の標本と取り出した個数をサインアウト時に確認する仕組みを構築することが望ましい。」とまとめています.
「【3】温めたタオルによる熱傷に関連した事例」では,「主な背景・要因として、患者の皮膚の状態や感覚障害に関するアセスメントが不足していたこと、温めたタオルの熱さを確認していなかったこと、温罨法開始後に皮膚の状態を観察していなかったことなどが挙げられていた。医療機関によっては、ホットパックや湯たんぽなどの他に温めたタオルを使用して温罨法や保温を行うこともあり、タオルの温め方など温罨法や保温に関する手順を統一して実施する必要がある。その上で、温めたタオルの温度や当て方、当てる時間が患者に適しているかをアセスメントし、実施中・実施後に皮膚の状態を定期的に観察する必要がある。」とまとめています.
また,再発・類似事例の分析 として,【1】 間違ったカテーテル・ドレーンへの接続(医療安全情報No.14),【2】画像診断報告書の内容が伝達されなかった事例(第26回報告書) -画像診断報告書の記載内容を見落とした事例w取り上げています.
「【1】 間違ったカテーテル・ドレーンへの接続」について,「報告された事例は、輸液チューブを動脈ラインや脊髄くも膜下ポートに接続したり、経腸栄養剤のチューブを腹腔内ドレーンに接続したりしていた。今回の分析対象期間は2014年1月以降のため、神経麻酔分野や経腸栄養分野の誤接続防止コネクタが導入される前に報告された事例も含まれているが、いずれの事例も共通して、投与する際に目的とするカテーテル・チューブであることの確認が不足していた。何の目的でどこから投与するかを明らかにしたうえで、実施することは基本である。また、患者に複数のカテーテル・ドレーンが挿入されている場合、各カテーテル・ドレーンにラベルなどの表示を付け、接続の際に目的としている箇所であるかカテーテル・チューブを辿って確認することが重要である。 神経麻酔分野や経腸栄養分野に関しては誤接続を防止するためのコネクタの製品に切り替えが進められているが、準備の段階で製品の選択を誤ると目的外のカテーテルやチューブに接続が可能となるため、その危険性を十分認識したうえで、使用する必要がある。」とまとめています.
「【2】画像診断報告書の内容が伝達されなかった事例」「について,「画像診断報告書の記載内容を見落とした背景・要因として、画像検査の目的に対する所見に注目し、他に記載されていた内容を確認しなかったことが複数の事例で報告されていた。また、重要な所見が他の文章に紛れていたことや報告書の下方に記載されていたことなど、画像診断報告書の視認性に関することも挙げられていた。画像検査の目的に対する所見だけでなく、画像診断報告書に記載されているすべての内容を確認することが必要である。そのため、画像検査で検査目的以外の重要な所見が発見された場合には、検査を依頼した医師に確実に情報を伝えることができるように所見を具体的に記載するとともに、重要な所見を画像診断報告書の最初に記載するなど記載場所を標準化することや、書式の構造を整えて報告書を定型化することなど、見落としを防ぐ工夫が望まれる。 本事業では、画像診断報告書の未確認に対して医療安全情報などの情報を提供して注意喚起を行ってきた。医療機関においても、未確認に対する仕組みとして既読/未読をチェックするシステムなどが構築されつつある。しかし、画像診断報告書の記載内容の見落としは、未確認に対する仕組みで防ぐことは難しい。画像診断報告書の記載内容の見落としに対しては、患者・家族の治療への参画の一環として、報告書を一緒に見ながら説明することで記載内容の見落としを防げる可能性がある。また、指摘された内容に対応して診療が行われているかを確認することが重要であり、放射線科医師が指摘した内容を担当医が確認して診療したことを、放射線科医師へ伝えるなどループになるような仕組みを作ることも有用であろう。」とまとめています.
谷直樹
ブログランキングに参加しています.クリックをお願いします!
↓

