弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

福岡県弁護士会,「新たな訴訟手続」の新設に反対する会長声明

福岡県弁護士会は,2021年11月18日,「新たな訴訟手続」の新設に反対する会長声明を発表しました.

「1 令和2年6月以降、法制審部会の民事訴訟法(IT化関係)部会(以下「IT化部会」という。)では、訴状等のオンライン提出、訴訟記録の電子化、情報通信技術を活用した口頭弁論期日の実現など民事訴訟制度の見直しに関する継続的な調査・審議が行われ、同3年2月には、「民事訴訟法(IT化関係)等の改正に関する中間試案」(以下「中間試案」という。) が公表された。その中で、訴訟の審理期間を6か月に制限する「新たな訴訟手続」の新設が提案され、甲案・乙案の2つの具体的な制度案と、いずれの制度も新設しないとする丙案が示された。
中間試案については意見公募手続(パブリックコメント)が実施されており、「新たな訴訟手続」に関しては、甲案・乙案への賛成意見は少数に留まる一方で、いずれの制度も新設しないとする丙案に賛成する意見が消費者団体、労働団体、各地の弁護士会等から出され、最も多数となった。
ところが、上記結果にもかかわらず、法制審部会事務局は、令和3年10月15日、IT化部会に対して、「新たな訴訟手続」として、修正した新たな制度案(以下「本制度案」という)を提案した。本制度案は、賛成意見が少数に留まった従前の甲案と同じく、手続全体を一つの特則として法定するものであり、現在、審議が行われている状況にある。
しかるに、かかる法制審議会の姿勢は、パブリックコメントの結果を軽視するものであると言わざるを得ず、誠に遺憾である。

2 当会は、中間試案に対するパブリックコメントにおいて、「新たな訴訟手続」を新設しないとする丙案に賛成する意見を提出していた。
なお、日本弁護士連合会も、立法事実の精査の必要性、制度新設による弊害のおそれ、審理の充実を確保することの重要性等を指摘し、甲案には明確に反対していたところである。
この点、「新たな訴訟手続」が抱える重大かつ根本的な問題点については、既に、パブリックコメントでも各所から様々指摘されているところであり(① 憲法第32条が定める裁判を受ける権利を侵害するおそれ、② 裁判に熟したときに結審して判決を出すこととされている(民事訴訟法第243条)訴訟制度の基本原則に抵触するおそれ、③ 審理や判決が粗雑(ラフジャスティス)になり、誤判のおそれが増す危険性、④ 訴訟の知識・経験のない当事者本人が「新たな訴訟手続」の選択や遂行を見誤り、不当に権利を奪われかねない危険性、⑤裁判官が審理期間が制限されている「新たな訴訟手続」の進行を優先させた結果、他の通常事件が後回しにされるなど他の訴訟事件や訴訟制度全体に悪影響を及ぼすおそれ等)、本制度案に関しても、かかる問題点は解消されていない。
また、「新たな訴訟手続」が目指すように、審理期間の予測可能性を高め、審理の迅速化を図ることは、司法が取り組むべき重要な課題であると言えるが、そのためには、裁判官の増員や、情報・証拠の開示収集手続の拡充等も等しく必要となるのであり、単に審理期間だけを制限して迅速化を図ろうとすれば、当事者の主張立証の権利を制限し、拙速な判断を生み出しかねない制度となる。なお、現行法下においても、本制度案と同じく、当事者間の合意形成を基礎として、計画審理の制度(民事訴訟法第147条の3)等を活用することや、福岡地方裁判所(本庁民事部)から現行法の枠内での工夫例として提案され、平成22年11月1日から独自の運用が開始された「迅速トラック」を改めて活用することで、審理期間の予測可能性や迅速
化に向けた同様の効果を期待することができ、上記のような様々な問題点を抱えた制度新設の必要性を見出しがたい。

3 そもそも、「新たな訴訟手続」は、少額訴訟・手形訴訟・労働審判等とは異なり、対象となる紛争類型や実体法、訴額を制限せず、一般民事訴訟に広く適用することを想定しており(なお、消費者契約関係紛争・個別労働関係紛争については除外することが提案されている。)、このような制度は諸外国にも例を見ないにもかかわらず、法学上の検討・議論も未だ不十分であり、また、立法事実(制度の必要性)に関しても、企業の立場から要望が強いとの説明に留まっている。しかし、上記のパブリックコメントの結果に鑑みれば、少なくとも、利用者である国民一般から制度新設が求められている状況であるとは言いがたく、福岡地方裁判所(本庁民事部)において「迅速トラック」の活用が非常に低迷していることもこれを裏付けていると言える。上記で指摘した様々な問題点をも踏まえれば、十分な議論・調査も行わないまま、国の訴訟制度という重要な制度の新設を拙速に決めるべきでないことは明らかである。
以上の理由から、当会は、引き続き、「新たな訴訟手続」の新設及び本制度案に反対する。」


谷直樹

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by medical-law | 2021-11-25 00:25 | 弁護士会