弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

市民病院,患者が手術中に出血して手術から2時間後に出血性ショックで死亡した事案で責任を認め和解(報道)


NHK「市民病院で医療ミス 死亡した女性の遺族に小牧市が損害賠償へ」(2021年11月24日)は次のとおり報じました. 

「愛知県の小牧市は5年前、小牧市民病院で腰の手術を受けた女性が出血し死亡したのは医療ミスが原因だったとして、女性の遺族に2500万円あまりの損害賠償を支払うことを決めました。

小牧市は24日開いた記者会見で、今月末から開かれる市議会の定例議会で損害賠償の支払いに関する議案を提出すると発表しました。
会見に同席した小牧市民病院の担当者の説明によりますと、5年前の2016年7月、病院で腰の手術を受けた愛知県内の80代の女性が手術中に出血して手術から2時間後に死亡しました。
病院から報告を受けた第三者機関の「医療事故調査・支援センター」が遺族の要望を受けて調べたところ、体内で大量の出血が認められたということです。
小牧市によりますとセンターの調査結果では死因は手術に伴う失血による出血性ショックで、手術中の出血管理が十分でなかったと指摘されたということで、市では「法的責任は免れない」として医療ミスを認め、遺族に2500万円あまりの損害賠償を支払うことを決めたとしています。
小牧市民病院の谷口健次院長はコメントを発表し「ご遺族に心からお詫びします。安心して医療を受けられるよう再発防止に努めます」としています。」


CBCテレビ「医療ミスを認め愛知・小牧市民病院が手術で死亡した女性の遺族と和解へ」(2021年11月25日)は次のとおり報じました.

「手術で死亡した女性。愛知県小牧市が医療ミスを認め、遺族に約2500万円の損害賠償で和解の方針です。
 小牧市によりますと、2016年7月、小牧市民病院で腰の手術を受けた80代の女性が手術中に大量出血し、輸血が行われましたが2時間後に死亡しました。
 遺族の要望を受けて第三者機関の「医療事故調査・支援センター」が調査したところ、女性の死因は出血性ショックで、手術中の管理が不十分だった病院側に責任があると判断しました。
 小牧市はこれを受けて医療ミスを認め、10月、遺族に2500万円の損害賠償を支払う方針を決めたということです。
 小牧市民病院は「ご遺族に心からお詫び申しあげる。再発防止に努めます」とコメントしています。」


上記報道の件は私が担当したものではありません.
和解の金額は市立半田病院の平成29年の例を参考にしたのかもしれません.

不用意に大血管を損傷しコントロール不能の術中出血を生じさせる行為は,多くの場合注意義務違反が認められてしかるべきと思います.

また,止血の過失については,肝臓手術の神戸地判平成14年4月22日などが参考になります.
「術中の出血によりショック症状が生じた場合には,その対処が遅れれば不可逆的症状を呈し死に至る危険性もあるのであり,だとすれば術前に術中出血が予想される場合にはその原因及び対処法を予め検討しておくべきであり,手術の場合の止血は患者の持つ止血機構に依存することが多く,特に血小板数は一次止血機能を営む重要な血中成分であること,また,肝切離術は出血を生じさせやすい術式であり,それによって血小板もまた相当程度流出することが当然予想されるのであるから,被告丁は,術前の血小板数を検査し,術中に大量出血を生じさせないように検討すべきであったというべきである。
に本件では,亡丙は,前記認定のとおり,30年以上前から肝機能の低下を指摘されるなど慢性的な肝硬変であったこと,肝機能の指標となるICG・R15分値は,6月6日には悪化していたこと,5月21日における血小板数が重篤な出血傾向を生じさせるか否かの基準となる5万個に近い5万5000個であり,また,術前に行われた血液検査の中で肝動脈塞栓術施行後の検査を除けば5月21日の数値が最も低い値であったこと,更には手術直前の血小板数の検査データがなかったことからすれば,手術直前の血小板数が5万個以下に低下していた可能性も否定できず,また,手術中の出血による血小板数の流出も併せ考えれば,本件手術前に術中に重篤な出血を生じさせかねないまでに血小板数が低下する可能性があることは十分予見可能であったと解される。そして,出血性ショックによる死亡という最悪の結果を回避すべき義務が被告らに存することは当然であるところ,5月21日以降本件手術開始まで亡丙の血液検査の数値が出ておらず,また,輸血用血液を発注してから実際に輸血を行うまでに2時間以上要すること,血小板の数的,質的異常に起因する出血に対しては血小板輸血が唯一の確実な治療法であること,血小板数が正常範囲内でも血小板機能が低下している場合には,一次止血が障害されて皮膚・粘膜の出血斑や血尿が出現したり,注射部位や手術創の止血が困難となるなど出血傾向が出現することがあること及び出血性ショックが生じた場合にはその原因を究明し早期に対処する必要があることからすれば,手術直前の血小板数の正確なデータがなかった本件においては,患者の死亡という最悪の結果を避けるべく,術前に血小板輸血の準備をしておくべき義務があるというべ
きであり,これを怠った被告丁には過失が認められるというべきである。
被告丁が日赤に輸血用血液を発注してから実際に輸血が可能になるまでに必要とする正確な時間を知らなかったとしても,知らなかったこと自体に過失がある。
よって,同被告には不法行為責任があり,被告県には債務不履行責任がある。」


なお,手術手技の具体的なミスを特定することが困難な場合も少なくありませんが,最判平成11年3 月23日(集民192号165頁,脳神経減圧手術脳ベラ事件)が参考になります.
「(1) 顔面けいれんは、顔面神経が動脈と接触することから生ずるものであって、それ自体、生命に危険を及ぼすような病気ではないところ、その根治手術である本件手術は、小脳橋角部において顔面神経と脳動脈の接触部分をはく離するもので、脳ベラで小脳半球を開排し、手術器具で後頭蓋窩深部の脳動脈に触れる手術であるため、慎重な操作が要求され、生命にかかわる小脳内血腫、後頭部硬膜外血腫等を引き起こす可能性のあることが指摘されている。
(2) 本件手術は、Fの右小脳を脳ベラで開排して右小脳橋角部において脳動脈に触れるなど、術中操作は小脳右半球及び右小脳橋角部に及ぶものであるところ、Fは術後間もなく、小脳上槽、小脳虫部の上部周辺及び第四脳室に血腫が生じ、神経減圧術によって引き起こされる可能性が指摘されている小脳内出血を起こしたことが認められるほか、翌日には、小脳右半球の突出が強く右側小脳ヘルニアが認められるなど、小脳橋角部の近傍部及び右半球の異常が確認され、遺体の病理解剖においても、小脳虫部及び右半球に出血壊死性変化が強く見られると指摘されるなど、Fの脳の病変が手術操作を行った側である小脳右半球に強く現われていることが明らかになっている。
(3) Fは、入院後三週間にわたり術前の諸検査を受け、手術の適応があると診断されており、内科においても、高血圧症とは認められず、手術には差し支えないとの診断を得ていたのであって、術前に本件手術中に高血圧性脳内出血を起こす素因があることを確認されていなかった。
(4) 高血圧性脳内出血のうちそれが小脳に発生する確率は、約一割程度にす
ぎない。
(5) 遺体の病理解剖によっても、Fの小脳に生じた血腫の原因となる明らかな動脈りゅうや動静脈奇形の所見は認めないとされている。
以上のようなFの健康状態、本件手術の内容と操作部位、本件手術とFの病変との時間的近接性、神経減圧術から起こり得る術後合併症の内容とFの症状、血腫等の病変部位等の諸事実は、通常人をして、本件手術後間もなく発生したFの小脳内出血等は、本件手術中の何らかの操作上の誤りに起因するのではないかとの疑いを強く抱かせるものというべきである。

ところが、原審は、右のとおりの事実関係を前提としながらも、原審の認定した血腫の位置から想定する限り、被上告人B1らの脳べラ操作の誤りにより血腫が生じたと認めることはできないとし、また、同被上告人らが本件手術中に血管を損傷したことをうかがわせる出血があったことを認めるに足りず、さらに、動脈硬化による血管破綻や高血圧性脳内出血等、本件手術操作の誤り以外の原因による予期せぬ高血圧性脳内出血が本件血腫の原因となったと推測しても不自然ではないから、本件手術中に血管の損傷があったと推認するのは相当ではないとしている。しかし、Fは一過性の高血圧を示したことはあるものの高血圧症とは認められていなかったのであるから、本件手術中に高血圧性脳内出血を起こす可能性自体低いと考えられる上、高血圧性脳内出血が小脳内に発生する確率は前記のとおり一割程度にすぎず、本件手術中ないし直後に偶然、Fに高血圧性脳内出血等が起きる可能性は実際上極めて低いといわざるを得ない。また、本件手術中に偶然、動脈硬化等による血管破綻が生じた可能性についての具体的立証がなされているわけでもないのである。結局、原審は、本件手術操作の誤り以外の原因による脳内出血の可能性が否定できないことをもって、前示のとおり、Fの脳内血腫が本件手術中の操作上の誤りに起因するのではないかとの強い疑いを生じさせる諸事実やその他の後記2の事実を軽視し、上告人らに対し、本件手術中における具体的な脳ベラ操作の誤りや手術器具による血管の損傷の事実の具体的な立証までをも必要であるかのように判示しているのであって、Fの血腫の原因の認定に当たり前記の諸事実の評価を誤ったものというべきである。

2 本件手術の総出血量は九〇六ミリリットルであるところ(なお、本件手術記録中には総出血量一〇〇〇ミリリットルとの記載もある。)、証人Gも、右出血量が通常に比して相当多量であることは認める旨の証言をしている。また、本件記録によれば、硬膜内において顔面神経とこれに接触する脳動脈をはく離するという本件手術の硬膜内操作中は、項筋からの出血は止血済みであり、メスによる切除、切開等、出血を伴う操作を行うものではないから、出血が生ずることはほとんどないはずであることがうかがわれるところ、本件手術記録には、少なくとも硬膜内操作中であることが明らかな午後一時一五分に一五〇ミリリットルの出血量が記録されているというのである。硬膜内操作中の手術器具による血管損傷の有無が争われている本件において、右記録を軽視することはできないというべきである。原審は、午後一時一五分時の出血量の記録は午後零時三〇分ころから始まった硬膜内操作中の出血とは限らない旨、測定値には血液のみならず生理食塩水や排出した髄液が含まれている可能性がある旨を説示し、硬膜内操作中に一五〇ミリリットルの出血量があったとは認められないとしたが、右測定記録に関する原審の認定は、右記録の読み方としては不自然である。
また、本件記録によれば、Fの家族である上告人Aらに対する本件手術終了後の結果説明は、本件手術終了から数時間経過した午後七時ころになってから行われ、また、被上告人B2は、その際、本件手術が順調に終了した旨報告することなく、今後、Fには脳浮腫、脳出血が生ずる危険があるなどと説明したことがうかがわれるのであり、右の事実は、被上告人B1及び同B2が、本件手術中に異常な事態が発生したことを認識していたことをうかがわせるものであり、本件手術中の操作によりFの生命に危険を生じさせたのではないかとの疑いを生じさせる。
 
3 その上、原審が本件において重視した血腫の位置と手術部位との関係等に関する認定には、次のとおりの問題がある。すなわち、原審は、小脳内に生じた血腫の位置を問題にし、血腫はほぼ小脳虫部に当たる小脳正中部及び傍正中部に形成されており、手術部位である小脳橋角部に血腫があるとは認められないと認定したが、原審の血腫の位置の認定は、CTスキャンの所見によると小脳正中部及び傍正中部に血腫があるとする鑑定人Gの鑑定及び同人の証言に依拠したものであることが原判決及び本件記録に徴して明らかである。しかし、証人Gの証言中には、CTスキャンを見ると血腫は小脳右半球に多く見られるとする部分もある上、診療録(乙第三号証の1、2)には、本件手術当日午後一一時三〇分に施行されたCTスキャンの結果について「後頭蓋窩の第四脳室から中脳水道、さらに脚間糟~迂回~上小脳槽に血腫あり」、翌五月一八日施行のCTスキャンの結果(検乙第三四号証)について「後頭蓋窩血腫は著変なし」「第四脳室周囲の血腫に著変なし」、同日施行された各手術の際の記録として「小脳半球の突出が左側より右側が大であり、右側の扁桃ヘルニアの所見を認めた」との各記載があるのである。これらの各記載と脳内の構造に照らせば、血腫は、小脳正中部及び傍正中部のみならず、手術部位である小脳橋角部を含む第四脳室周囲にもあることがうかがわれるのである。また、同じく診療録には、同月二〇日に施行されたCTスキャンの結果を表した見取り図があるが、この図には小脳右半球に血腫が存在する旨図示されている。

以上によれば、診療録中に血腫に関する前記記載があるにもかかわらず、これを検討することなく、鑑定人Gの鑑定及び同人の証言から直ちに、血腫の位置は小脳正中部及び傍正中部にあるとした原審の認定は、採証法則に反するものといわなければならない。また、本件手術の翌日には小脳右半球に強い突出やヘルニア等の異常が現われていたことが確認されていたことは前記のとおりであるところ、原審は、右の異常の部位と本件手術との関連性についても何ら検討するところがない。
 なお、鑑定人Gの鑑定は、診療録中の記載内容等からうかがわれる事実に符合していない上、鑑定事項に比べ鑑定書はわずか一頁に結論のみ記載したもので、その内容は極めて乏しいものであって、本件手術記録、FのCTスキャン、その結果に関する被上告人B1、同B2らによる各記録、本件剖検報告書等の記載内容等の客観的資料を評価検討した過程が何ら記されておらず、その体裁からは、これら客観的資料を精査した上での鑑定かどうか疑いがもたれないではない。したがって、その鑑定結果及び鑑定人の証言を過大に評価することはできないというべきである。

4 さらに、原審は、脳ベラの使用が原因となって血腫が発生するのは、脳ベラをかけた場所の直下あるいは近傍部であるが、そのような場所に血腫があったとは認められないとの理由で、脳ベラの操作の誤りにより血腫が生じたとは認められないとし、また、手術部位である小脳橋角部と血腫の位置は近接しているとはいえないとの理由で、手術器具により血管が損傷されて出血したものとは認めちれないとしている。しかし、鑑定人Gの鑑定及び証人Hの証言中には、脳ベラの操作によって血腫が発生する場所は、脳ベラをかけた部分あるいはその近傍部に限らず、離れた部位に発生することもあり得るとする部分も存するのであるから、脳ベラをかけた場所の直下あるいは近傍部に血腫が存することは認められないとの原審の認定を前提としても、脳ベラの操作と血腫の発生との関連性を一概には否定できないというべきである。

また、証人Gは、本件手術部位である右小脳橋角部と血腫が認められる第四脳室との距離がわずか一センチメートル余であると証言しているのである。
原審は、顕微鏡下での手術であること等を理由に、近接しているとはいい難いとしているが、手術部位と原審認定の血腫の位置との距離は、手術中の血管損傷等による血腫発生の疑いを否定し得るほどの距離とは評価し難い。

以上のとおり、血腫の位置等に関する原審の認定事実を前提にするとしても、血腫の位置をもって、脳ベラ等手術器具の操作上の誤りにより血腫が発生したものとは認められないと判断することはできないというべきである。

5 また、原審は、本件においては、小脳橋角部から出血したとすれば横にずれるはずの第四脳室の位置のずれが見当たらないから、小脳橋角部から出血したものではないと考えるとの証人Gの証言を引用した上、これに反して手術部位から出血したとする上告人らの主張を裏付けるに足りる証拠はないとしているが、かえって、診療録には、被上告人B2による「くも膜下出血(術創部)が脳室内に逆流して来たと考えられる」との記載があり、右は、被上告人B2が当時、上告人らの主張のとおり手術部位から出血したものと考えていたことをうかがわせる。

したがって、診療録に右記載があるにもかかわらず、これに触れることなく上告人らの前記主張を裏付けるに足りる証拠がないとした原審の判断は、採証法則に反するものといわなければならない。

以上によれば、本件手術の施行とその後のFの脳内血腫の発生との関連性を疑うべき事情が認められる本件においては、他の原因による血腫発生も考えられないではないという極めて低い可能性があることをもって、本件手術の操作上に誤りがあったものと推認することはできないとし、Fに発した血腫の原因が本件手術にあることを否定した原審の認定判断には、経験則ないし採証法則違背があるといわざるを得ず、右の違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。論旨は右の趣旨をいうものとして理由があるから、その余の上告理由について判断するまでもなく、原判決は破棄を免れない。そして、更に再鑑定等の必要な審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すこととする。」


また術後管理が悪く術後早期に患者が死亡した事案も基本的に有責と考えられます.
たとえば,福岡高判平成31年4月25日(矢尾渉裁判長 裁判所サイト)は,以下のとおり判示しています.
「術後の出血により比較的急速に血液が失われると,前記1(1)アのとおり,重要な臓器や組織への血流が不足し,組織での代謝が障害される出血性ショックに陥るおそれがあることからすれば,術後の出血に対する処置が遅れれば出血性ショックが生じる可能性を予見することもできたといえるから,本件手術後の急性期においては,術後出血によってショックが生ずる可能性を念頭に置いた術後管理を行う必要があったということができる。」(7頁)
「一般的に,出血に対して迅速かつ綿密な観察による病態診断,適切な処置・治療がされずに遷延すれば,重要臓器への血流量,酸素運搬が減少する結果,重篤な臓器障害が発生するところ,前記1(6)イのとおり,術後急性期においては,術後出血をあらかじめ起こり得る合併症として念頭に置き,早期発見,早期治療に努めるべきであるとされていることからすると,出血性ショックの診断と治療が速やかにされるような管理が求められるというべきであるから,医師が看護師に対して術後管理のための指示を行うに当たって,出血性ショックか否かを医師において迅速に判断できるような内容の指示を行う必要があるということができる。
特に,一審被告病院は,前記認定手事実(3)のとおり,各科ごとに当直医がおらず,入院患者の急変時においては,心肺停止等の緊急時を除き,当直医ではなく主治医に連絡するという体制であったところ,看護師が主治医への連絡の要否を逐一判断していたのでは,重篤な事態に陥る恐れがあるから,少なくとも出血性ショックを疑わせる重要なバイタルサインについては,主治医に連絡をすべき場合を具体的数値で示すなどした上で明確に指示することが求められていたというべきである。
加えて,本件においては,術後管理に係る医師である一審被告Iらがいずれも自宅に帰宅するとの判断をしたのであるから,医師が看護師からの連絡を受けて患者の下に到着するまでの時間も考慮して,より早期の徴候が生じた時点での連絡を指示することも求められていたというべきである。」(9~10頁)
「一般的に,病院においては,患者の病状が急変するおそれがない場合を除き,常に患者の容態を正確に把握し,その変化に即応して必要に応じて適切な処置をとる必要があるから,看護師には,直接又はモニター機器等により患者の容態を適切に看視し,患者の愁訴をよく聞き,その容態を冷静に観察して,その状態を判断した上,必要に応じて医師に報告すべき義務がある。
もっとも,術後の看護師による患者の経過観察は,医師による患者の診療を有効ならしめるために,医師に代わって患者を観察し,情報を収集するものでもあるから,『診療の補助』(保健師助産師看護法5条)の要素をも有し,術後の経過観察や医師への連絡の在り方について医師の具体的な指示があり,看護師がこれに従った場合には,原則として,それによって生ずる結果についての第一義的責任は,医師が負うべきである。
しかし,そのような医師の具体的指示が存在する場合でも,看護師がその当時一般的に有すべき専門的知識・経験等に照らし,患者に重大な後遺障害が残存し又は生命に危険を及ぼすような異常が生じていると認識することが可能であった場合には,看護師には,直ちに患者の容態を医師に報告し,治療についての指示を仰ぐべき義務があるというべきであって,医師の指示が不適切である場合に漫然とこれに従ったというのみでは,看護師としての注意義務を尽くしたことにはならず,不適切な指示をした医師自身とは別に,看護師自身もまた過失責任を負うというべきである。」(14~15頁)



谷直樹

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by medical-law | 2021-11-26 00:56 | 医療事故・医療裁判