弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

最高裁令和3年12月1日判決,合憲の多数意見に宇賀裁判官が反対意見

NHK「未成年の子いたら性別変更認めない規定は合憲 最高裁が初判断」(2021年12月1日)は次のとおり報じました.

「性同一性障害の人に未成年の子どもがいる場合、戸籍上の性別変更を認めない法律の規定について、最高裁判所は「憲法に違反しない」とする初めての判断を示しました。一方、裁判官の1人は「憲法違反だ」とする反対意見を述べました。

兵庫県に住む性同一性障害の54歳の会社員は、性別を適合させるための手術を受けたあと、戸籍上の性別を男性から女性に変更するよう裁判所に求めました。

会社員には、前の妻との間に現在10歳の子どもがいて、神戸家庭裁判所尼崎支部と大阪高等裁判所で行われた審判では、性同一性障害特例法で戸籍上の性別を変えるには「未成年の子どもがいないこと」と規定されているのは憲法違反だと主張しましたが、認められず、最高裁判所に抗告していました。

最高裁判所第3小法廷の林道晴裁判長は、未成年の子どもに関する規定について「憲法に違反しない」とする初めての判断を示し、抗告を退ける決定をしました。

平成19年に当時の性同一性障害特例法の規定をめぐって最高裁が示した「家族の秩序を混乱させ、子どもの福祉の観点からも問題が生じるないよう配慮したもので合理性がある」という判断を踏襲した形です。

一方、5人の裁判官のうち、宇賀克也裁判官は「規定は合理性を欠き、個人の権利を侵害していて憲法違反だ」と述べました。
裁判官5人のうち宇賀裁判官が反対意見
裁判官5人のうち、学者出身の宇賀克也裁判官は「規定は憲法違反だ」として結論に反対する意見を述べました。

宇賀裁判官は反対意見の中で「未成年の子どもに心理的な混乱や不安などをもたらすと懸念されるのは、服装や言動なども含めた外見の変更の段階で、戸籍の性別変更は、外見上の性別と戸籍上の性別を合致させるだけだ。子どもの心理的な混乱や親子関係に影響を及ぼしかねないという説明は、漠然とした観念的な懸念にとどまるのではないか」と疑問を示しました。

そのうえで「外見上の性別と戸籍上の性別の不一致で、親が就職できないなど、不安定な生活を強いられることがあり、その場合は、戸籍上の性別の変更を制限することが、かえって未成年の子の福祉を害するのではないか」と指摘しています。

さらに「性同一性障害の人の戸籍上の性別変更を認めても、子どもの戸籍の父母欄に変更はなく、法律上の親子関係は変わらない。大多数の家族関係に影響を与えるものでもなく、家族の秩序に混乱を生じさせないという理由についても十分な説得力が感じられない」としています。

そして、規定は合理性を欠き、幸福追求権を保障する憲法13条に違反しているとして、性別変更を認めるべきだと述べました。
「性同一性障害特例法」めぐる最高裁の判断
戸籍上の性別変更を認める性同一性障害特例法では、性別を変える要件として、
▽20歳以上であること、
▽現在、結婚していないこと、
▽未成年の子どもがいないこと、
▽生殖腺や生殖機能がないこと、
などを規定していて、これまでにも最高裁判所の判断が示されています。

このうち生殖機能をなくす手術を受ける必要があるとする規定について、最高裁はおととし1月「変更前の性別の生殖機能によって、子どもが生まれると、社会に混乱が生じかねないことなどへの配慮に基づくものだ」として憲法に違反しないとする初めての判断を示しました。

一方、この規定については、裁判官4人のうち2人が「手術は憲法で保障された身体を傷つけられない自由を制約する面があり、現時点では憲法に違反しないが、その疑いがあることは否定できない」とする補足意見を述べています。

また、去年3月には結婚に関する規定について「異性の間だけで結婚が認められている現在の婚姻秩序を混乱させないように配慮したもので、合理性に欠くとはいえない」として、憲法に違反しないと判断しました。

今回争われた「未成年の子どもがいないこと」という規定は、平成16年に法律が施行されたときには「子どもがいないこと」と規定されていましたが、子どもが成人した場合には性別を変更できるよう、平成20年の法改正で緩和されました。

改正前の規定については、最高裁が平成19年に「子どもがいる人の性別変更を認めると、家族の秩序を混乱させ、子どもの福祉の観点からも問題が生じかねないという配慮に基づくもので、合理性を欠くとはいえない」として、憲法違反ではないとする判断を示していて、今回はこの考え方を踏襲し、憲法に違反しないことは明らかだと結論づけました。

司法統計によりますと、特例法が施行されてから去年までに全国の家庭裁判所で性別変更が認められたのは1万301人に上り、当事者やその支援者などで作る全国組織「LGBT法連合会」では、規定の撤廃など法律の抜本的な見直しを早期に行うよう求めています。」


東京新聞「性同一性障害、戸籍の性別変更「未成年の子がいない」が要件なのは「合憲」 最高裁が初判断 1人反対意見」(2021年12月1日)は次のとおり報じました.

「戸籍の性別変更に「未成年の子がいないこと」を要件としている性同一性障害特例法の規定が、幸福追求権を保障する憲法に反するかが争われた家事審判の特別抗告審決定で、最高裁第3小法廷(林道晴裁判長)は「合憲」との初判断を示した。裁判官5人中4人の多数意見で、宇賀克也裁判官は「違憲」とする反対意見を出した。11月30日付。(小沢慧一)
 2004年施行の特例法は、変更の要件として①20歳以上②結婚していない③子がいない④性別適合手術を受けている―などと規定。08年に改正され、③は「未成年の子」に緩和された。
 申立人は前妻との間に長女がおり、性別適合手術を受けている。「未成年の子がいるだけで性別変更を認めないのは、自己同一性を保持する権利を侵害する」と主張したが、神戸家裁尼崎支部と大阪高裁はいずれも請求を退けていた。
 最高裁は07年、改正前の規定を巡り、子のいる場合の性別変更は「家族秩序を混乱させ、子の福祉の観点からも問題を生じかねない」と判示。今回の多数意見はこれを踏襲した。
 一方、宇賀裁判官は、自己同一性を保つことを保障する必要性は「生来的な女性であれ、医療的措置で身体的に女性となった者であれ、基本的に変わらない」と指摘。緩和によって子が成年なら変更が認められたことから「親子関係に影響を及ぼしかねないという説明は、漠然とした観念的な懸念にとどまるのではないか」と述べた。
 申立人の代理人の仲岡しゅん弁護士は「(③のような)要件があるのは世界でも日本だけで間違った決定。一方で、10年前ならきっと反対意見すら出なかった。少しずつ環境は変わってきている」と話した。
 性別変更は昨年末までに、全国の家裁で計1万301件が認められている。 」


上記報道の裁判を担当したのは私ではありません.大阪弁護士会の仲岡しゅん先生です.
多数意見の「家族秩序に混乱」とは何をいうのでしょうね.

【追記】
判決は以下のとおりです.

「主 文
本件抗告を棄却する。
抗告費用は抗告人の負担とする。

理 由
性同一性障害者につき性別の取扱いの変更の審判が認められるための要件として「現に未成年の子がいないこと」を求める性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律3条1項3号の規定が憲法13条,14条1項に違反するものでないこ
とは,当裁判所の判例(最高裁昭和28年(オ)第389号同30年7月20日大法廷判決・民集9巻9号1122頁,最高裁昭和37年(オ)第1472号同39年5月27日大法廷判決・民集18巻4号676頁)の趣旨に徴して明らかである
(最高裁平成19年(ク)第704号同年10月19日第三小法廷決定・家庭裁判月報60巻3号36頁,最高裁平成19年(ク)第759号同年10月22日第一小法廷決定・家庭裁判月報同号37頁参照)。論旨は理由がない。
よって,裁判官宇賀克也の反対意見があるほか,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。

裁判官宇賀克也の反対意見は,次のとおりである。
私は,多数意見と異なり,性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律(以下「特例法」という。)3条1項3号の「現に未成年の子がいないこと」という要件(以下「3号要件」という。)は,憲法13条に違反するものであるから,原決定を破棄すべきであると考える。その理由は,以下のとおりである。
もし,生まれつき,精神的・身体的に女性である者に対して,国家が本人の意思に反して「男性」としての法律上の地位を強制し,様々な場面で性別を記載する際に,戸籍の記載に従って,「男性」と申告しなければならないとしたならば,それは,人がその性別の実態とは異なる法律上の地位に置かれることなく自己同一性を保持する権利を侵害するものであり,憲法13条に違反することには,大方の賛成が得られるものと思われる。憲法制定当時は,医療技術が未発達であったため,精神的・身体的に女性である者は生来的な女性に限られていたが,現在においては,医療技術の発展により,生来的な女性に限らず,医療的措置によって,精神的・身体的に女性となった者が現実に生ずるようになった。本件抗告人も,既に性別適合手術を終え,現在,身体的に女性となり,女性の名前に改名しており,精神的・身体的に女性である者であり,社会的にも女性として行動している。しかしながら,その実態に反して,3号要件のゆえに,戸籍上の性別を女性に変更することができず,法律上は「男性」とされている。自己同一性が保持されていることの保障の必要性は,生来的な女性であれ,医療的措置により身体的に女性となった者であれ,基本的に変わるところはないと考えられる。精神的には女性であるにもかかわらず身体的には男性であった者が,医療的措置によって身体的に女性となった場合にも,戸籍上の性別との不一致を解消することを制限する3号要件の合憲性については,以下のように考える。
特例法3条1項3号は,平成20年法律第70号による改正前は,「現に子がいないこと」という要件であった。「現に子がいないこと」という要件が設けられた理由は,現に子がいる場合にも性別の取扱いの変更を認めることは,「女である父」や「男である母」の存在を認めることになり,男女という性別と父母という属性の不一致が生ずる事態は,家族秩序に混乱を生じさせ,また,子に心理的な混乱や不安などをもたらしたり,親子関係に影響を及ぼしたりしかねないことなど,子の福祉の観点から問題であるという指摘を受けたものであった。
しかし,平成20年法律第70号による改正により,特例法3条1項3号は,「現に未成年の子がいないこと」という要件に緩和されている。したがって,子が成年に達していれば,「女である父」や「男である母」の存在は認められており,男女という性別と父母という属性の不一致が生ずる事態は容認されていることになる。そうすると,上記改正後は,男女という性別と父母という属性の不一致が生ずることによって家族秩序に混乱を生じさせることを防ぐという説明は,3号要件の合理性の根拠としては,全く成り立たなくなったとまではいわないにしても,脆弱な根拠となったといえるように思われる。そうなると,「女である父」や「男である母」の存在を認めることが,未成年の子に心理的な混乱や不安などをもたらしたり,親子関係に影響を及ぼしたりしかねず,子の福祉の観点から問題であるという説明が合理的なものかが,主たる検討課題になる。
この点について,以下のような疑問を拭えない。性別の取扱いの変更の審判を申し立てる時点では,未成年の子の親である性同一性障害者は,ホルモン治療や性別適合手術により,既に男性から女性に,又は女性から男性に外観(服装,言動等も含めて)が変化しているのが通常であると考えられるところ,未成年の子に心理的な混乱や不安などをもたらすことが懸念されるのは,この外観の変更の段階であって,戸籍上の性別の変更は,既に外観上変更されている性別と戸籍上の性別を合致させるものにとどまるのではないかと考えられる。親が子にほとんど会っておらず,子が親の外観の変更を知らない場合や,子が親の外観の変更に伴う心理的な混乱を解消できていない場合もあり得るであろうが,前者の場合に子に生じ得る心理的混乱,後者の場合に子に生じている心理的混乱は,いずれも外観の変更に起因するものであって,外観と戸籍上の性別を一致させることに起因するものではないのではないかと思われる。
また,成年に達した子であれば,親の性別変更をそれほどの混乱なく受け入れることができるが,未成年の子については,混乱が生ずる可能性が高いという前提についても,むしろ若い感性を持つ未成年のほうが偏見なく素直にその存在を受け止めるケースがあるという専門家による指摘もある。さらに,未成年の子が,自分の存在ゆえに,親が性別変更ができず,苦悩を抱えていることを知れば,子も苦痛や罪悪感を覚えるであろうし,親も,未成年の子の存在ゆえに,性別変更ができないことにより,子への複雑な感情を抱き,親子関係に影響を及ぼす可能性も指摘されている。加えて,そもそも戸籍公開の原則は否定されており,私人が戸籍簿を閲覧することは禁止され,一定の親族以外の者の戸籍の謄抄本を私人が請求することも,原則として認められない(住民票の写しについても,同一の世帯に属する者以外の者の交付請求は原則として認められない。)。したがって,戸籍における性別の変更があったという事実は,同級生やその家族に知られるわけではないから,学校等における差別を惹起するという主張にも説得力がないように思われる(また,仮に親の性別変更により,学校等で差別が生ずるとすれば,それは差別する側の無理解や偏見を是正する努力をすべきなのではないかと思われる。)。
このように,3号要件を設ける際に根拠とされた,子に心理的な混乱や不安などをもたらしたり,親子関係に影響を及ぼしたりしかねないという説明は,漠然とした観念的な懸念にとどまるのではないかという疑問が拭えない。実際,3号要件のような制限を設けている立法例は現時点で我が国以外には見当たらない(なお,ウクライナは,18歳未満の子がいることを法令上の性別変更を禁止する理由としていたが,2016年12月30日にこの要件を廃止しているようである。)。他方で,親の外観上の性別と戸籍上の性別の不一致により,親が就職できないなど不安定な生活を強いられることがあり,その場合に,3号要件により戸籍上の性別の変更を制限することが,かえって未成年の子の福祉を害するのではないかと思われる。
平成20年法律第70号による改正後は,男女という性別と父母という属性の不一致が生ずることによって家族秩序に混乱を生じさせることを防ぐという説明の説得力が大幅に失われたことは前述したが,この点について,さらに検討すると,性同一性障害者の戸籍上の性別の変更を認めても,子の戸籍の父母欄に変更はなく,子にとって父が父,母が母であることは変わらず,法律上の親子関係は変化しないから,親権,監護権,相続権などにも影響を与えない。そして,社会的にごく少数と思われる性同一性障害者の戸籍における性別の変更は,我が国の大多数の家族関係に影響を与えるものでもない。したがって,3号要件が,我が国の家族秩序に混乱を生じさせることを防止するために必要という理由付けについても,十分な説得力を感ずることができない。
以上検討したように,3号要件は,憲法13条で保障された前記自己同一性を保持する権利を制約する根拠として十分な合理性を有するとはいい難いように思われる。未成年の子の福祉への配慮という立法目的は正当であると考えるが,未成年の子がいる場合には法律上の性別変更を禁止するという手段は,立法目的を達成するための手段として合理性を欠いているように思われる。
したがって,特例法3条1項3号の規定は,人がその性別の実態とは異なる法律上の地位に置かれることなく自己同一性を保持する権利を侵害するものとして,憲法13条に違反すると考える。
(裁判長裁判官 林 道晴 裁判官 戸倉三郎 裁判官 宇賀克也 裁判官 長嶺安政 裁判官 渡 惠理子)」

谷直樹

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by medical-law | 2021-12-02 07:17 | 司法