患者からの症状の説明等を医師に伝え医師の指示に基づき対応するべき助産師の注意義務 京都地裁令和3年2月17日判決
「(1) 保健師助産師看護師法には,助産師は,助産又は妊婦,じょく婦若しくは新生児の保健指導を行うとの定めがある(3条,39条)一方で,助産師は,妊婦,産婦,じょく婦,胎児又は新生児に異常があると認めたときは,医師の診療を求めさせることを要し,自らこれらの者に対して処置をしてはならないとする定めがある(38条)。
j助産師は,本件患者からの電話を受けた助産師Aの話や本件患者から電話口で直接話を聞き,当日午前中にソリリスの投与を受けたこと,その後急激な悪寒があり39.5度の高熱があること,帰宅後授乳し乳房硬結は消失し,乳房の痛みや熱感はないこと,かぜの症状はないことを把握したことが認められる(前記2(1)キ,ク)。
上記の助産師の行うべき業務の内容及びj助産師が把握した本件患者の症状の内容からすると,助産師としては,患者からの症状の説明等を医師に伝え,医師の指示に基づき対応するべき注意義務があったといえる。
しかるに,j助産師は,医師の指示を求めることなく,乳腺炎の可能性が高いと自ら判断し,翌日まで様子をみるようにとの指示をしたことが認められる(前記2(1)ク)ところ,この行為は,助産師として行うべき業務(保健指導)の範囲を逸脱するものとして,上記注意義務違反の過失に当たるといえる。
(2) 被告らは,本件患者が上記電話の際に患者安全性カードの内容を伝えるべきであったのにこれを伝えておらず,その結果,j助産師が上記対応をしたのであるから,j助産師に過失はない旨主張する。
しかし,本件患者は,上記電話の際に,患者安全性カードの内容そのものについては伝えていないものの,当日にソリリスの投与を受けたことを伝えているし,仮にかかる情報伝達に不十分な点があったとしても,そもそもj助産師が医師に指示を求めずに自ら判断し,指示をしたことが正当化されるとは解されず,被告らの主張は上記(1)の判断を左右しない。
(3) したがって,争点3についての原告らの主張は理由がある。 」
上記判決は,以下のとおり判示し,助産師の注意義務違反(過失)と本件患者の死亡との間の因果関係を否定しました.
「ア 原告らは,j助産師が8月22日午後5時頃の時点で産科医師に指示を求めていた場合,その後の因果の流れとして,同医師が直ちに受診を指示して本件患者が受診し,同医師が髄膜炎菌感染症を疑って抗菌薬を投与するという経過をたどって本件患者を救命することができたと見込まれるから,j助産師の過失と本件患者の死亡との間には因果関係があると主張する。
イ しかし,j助産師が電話を受けた時点では,発熱等の症状が発生してからそれほど間がなかった上,本件患者が電話で伝えた情報(前記2(1)キ,クのとおり,当日午前中に血液内科でソリリスの投与を受けたこと,その後急激な悪寒があり39.5度の高熱があること,帰宅後授乳し乳房硬結は消失し,乳房の痛みや熱感はないこと,かぜの症状はないこと)を踏まえると,上記時点で相談を受けた産科医師の判断として,直ちに受診を指示したといえるかは定かでなく,本件患者がその時点で受診した可能性がどの程度あったかを明らかにする証拠はない。この点,本件におけるその後の実際の経過をみると,午後9時頃に本件患者の母からの電話を受けた産科のi医師が受診を指示し,午後9時55分頃に受診しているが,午後9時頃の時点では午後5時頃の電話の後の症状の推移をも聴取し,その間に症状が改善せずかえって悪化している可能性もあるとの情報も踏まえた上で受診の指示がされたものと考えられるのであって,上記の事情を欠く午後5時頃の段階でも受診を指示した可能性が高かったと推測するのは困難である。
以上に照らすと,j助産師が争点3の注意義務を履行し,午後5時頃の時点で産科医師に指示を求めていたとしても,産科医師が受診を指示して午後6時頃に受診した可能性がどの程度あったかは定かでないから,その後速やかに抗菌薬の投与を開始することによって本件患者を救命することができた高度の蓋然性及び相当程度の可能性があったと認めることはできない。
ウ よって,j助産師の過失と本件患者の死亡との間の因果関係及び生存の相当程度の可能性があると認めることはできないから,争点6についての原告らの主張のうち,j助産師の過失との間の因果関係に関する主張及び争点7についての原告らの主張はいずれも理由がない。」
患者の死亡との因果関係は認めていませんが,患者からの症状の説明等を医師に伝え医師の指示に基づき対応するべき助産師注意義務が確認されたことには大きな意味があると考えます.
谷直樹
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