弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

ハイリスク妊娠(妊娠高血圧症)における胎児心拍数モニタリング義務 京都地裁平成18年10月13日判決

京都地裁平成18年10月13日判決(裁判長 井戸謙一)は,以下のとおり,妊娠高血圧症の妊婦について,入院時モニタリングの結果,低酸素状態にあると認めるだけの根拠はないものの,胎児の状態が正常であると考える根拠もないことが明らかであり,その中間的パターンとして慎重な経過観察が必要であったことから, 医師は助産師に胎児心拍数モニタリングを連続的,あるいは断続的に実施することを指示すべき注意義務があったと認定しました.
妊娠高血圧症の妊婦の分娩監視について参考となる判決です.
なお,この事件は私が担当したものではありません.

「3 D医師に,午前9時57分ころ以降,原告Bの経過観察を続ける義務に違反する過失があったか(争点(2))
1の(1)ないし(4),2の(2)で認定した事実及び前提事実を踏まえると,次のとおりいうことができる。

(1) 妊娠中毒症は,かねて早剥の原因として重要視されてきたものであり,最近は無関係であるとの報告も多いとの指摘もある(1の(1)ウ)ものの,原告Bの本件分娩当時,その認識が医学界における一般的認識になっていたと認めるに足る証拠もないから,産科の医師としては,妊娠中毒症の妊婦の分娩については,ハイリスク妊娠として通常の分娩以上に慎重な分娩監視をする必要があったというべきである。
そして,原告Bについては,入院時から,血圧が150/100,尿蛋白陽性(++ ,手に浮腫があって妊娠中毒症の症状を備えていたのであるから,D医師としては,原告Bに対し,通常の妊婦以上に慎重な分娩監視をするべきであったということができる。

(2) 入院時モニタリングの結果及びそれに対する評価は,2の(3)イに記載したとおりである。すなわち,原告Bについては,心拍数基線こそ正常だったものの,一過性頻脈がみられず,基線細変動は乏しく,本件一過性徐脈がみられ,しかも本件一過性徐脈については,これが遅発一過性徐脈であるか,遷延一過性徐脈である可能性が否定できなかったというべきである。そうすると,胎児心拍数モニタリングについての近年の考え方(1の(3)カ)にしたがった場合,胎児が低酸素状態にあると認めるだけの根拠はないものの,胎児の状態が正常であると考える根拠もないことが明らかであり,その中間的パターンとして慎重な経過観察が必要であったというべきである。

(3) また,早剥の症状は,一般の切迫早産徴候と似ていることがあるので,その把握については慎重を要することを基礎的な医学文献が指摘している(1の(1)エ(ウ) 。)

(4) 以上を総合すると,D医師としては,原告Bが妊娠中毒症の状態にあることから,一般の妊婦よりも早剥発生の危険が高いことを念頭に置き,E助産師から入院時モニタリングの記録紙を見せられた時点で 同助産師に対し胎児心拍数モニタリングを連続的,あるいは断続的に実施することを指示すべき注意義務があったということができ,これを怠ったことについて,D医師に注意義務違反があったとの評価を免れないというべきである。なお,E助産師は,入院時モニタリングを中止した後,午前11時ころ分娩監視装置を使って,午後1時ころ胎児ドップラを使って,それぞれ胎児心拍数が正常であることを計測,確認したが,胎児心拍数の計測だけでは,徐脈や頻脈をとらえることはできても,胎児心拍数の一過性の変動や子宮収縮との関係はとらえることができないから,これでは経過観察として不十分であることが明らかである。」




谷直樹

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by medical-law | 2021-12-08 02:35 | 医療事故・医療裁判