弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

死亡原因の認定 仙台地裁平成29年7月13日判決

仙台地裁平成29年7月13日判決(裁判長 大嶋洋志)は,以下のとおり判示して,患者Dの死因について,深部静脈血栓症を発症した,後肺塞栓を発症し,呼吸不全により死亡したものと認定しました.解剖していない事例も少なくないことから,判決における死因の認定について参考になります.
「 呼吸困難,頻呼吸,頻脈及びチアノーゼといった肺塞栓を示す症状が出ている」,「 早朝,自宅のトイレで呼吸困難が起きたことも,肺塞栓の特徴的発症状況(安静解除直後の歩行時,排便・排尿時)と整合する」,VTEを発症する危険おあるOC(トリキュラー28,オーソM-21)の再度の使用開始から処方を受けて2か月弱後であること等を根拠しています.
宮城県産婦人科医会の意見書,被告の主張については,心肺停止後27分が経過した後に採取した血液で,肺塞により血液凝固因子を消費し肝臓が十分に機能していないと凝固因子が補給できずに血液凝固能が低下した可能性もあることに鑑み,肺塞栓であるとの判断を左右するものではない,としました.

「2 争点(1)(Dの死因)について

(1) 上記認定事実(3)ウ(イ)及び(ウ)によれば,急性肺塞栓には特異的な症状はないものの,主要症状として呼吸困難及び胸痛が,特徴的発症状況として安静解除直後の最初の歩行時,排便・排尿時,体位変換時が挙げられている上,頻呼吸や頻脈が高頻度で現れ,チアノーゼも肺塞栓を示すものとされているところ,上記認定事実(1)コのとおり,Dは,平成21年6月11日午前6時頃,自宅トイレ内で物音がした後にその扉が開いて崩れ落ちるように出てきて倒れ込んで息苦しそうな様子をしており,呼吸困難の状態にあったと認められるほか,救急車に収容された時には頻呼吸及び頻脈が,搬送先の仙台オープン病院では呼吸困難とチアノーゼが現れていたものである。このように,Dには,同日,呼吸困難,頻呼吸,頻脈及びチアノーゼといった肺塞栓を示す症状が出ている上,早朝,自宅のトイレで呼吸困難が起きたことも,肺塞栓の特徴的発症状況(安静解除直後の歩行時,排便・排尿時)と整合するということができる。
また,上記認定事実(3)ア(ウ)によれば,OCの服用により,血液凝固能が亢進し,VTEを発症する危険は3~5倍程度増加し,その危険は服用開始後3か月以内が一番高く,その後減少するが,非服用者と比べればその危険は高く,また,4週間以上の休薬期間を置き,再度服用を開始すると,開始後数か月はVTEを発症する危険が高くなるとされているところ,上記認定事実(1)イないしケによれば,Dは,平成20年8月16日以降,OC(トリキュラー28,オーソM-21)の処方を受けて服用するようになり,平成21年3月30日までの約7か月半の間,服用を続けた後,4週間未満とはいえ,同日から同年4月20日まで22日間程度の休薬期間を挟んで,同月21日から再びOC(オーソM-21)の処方を受け,再度の使用開始から2か月弱後の同年6月11日に上記のとおり呼吸困難の症状を発症して死亡したことが認められ,そうすると,Dが上記呼吸困難を発症した当時,Dは,OCの服用によってVTEを発症する危険が高まっている状態にあり,そのような状態の下で上記呼吸困難を発症したことが認められる。
これらの事情に加えて,肺塞栓は深部静脈血栓症と連続した病態であり,深部静脈血栓症の合併症ともいえること(上記認定事実(3)ア(ア)),独立行政法人医薬品医療機器総合機構は,Dが肺塞栓により死亡したことを前提に,原告Aに遺族一時金及び葬祭料を支給していること(上記認定事実(2)),Dの呼吸困難発症後死亡に至るまでの急激な経過を説明できる他の原因が存在しないことも併せ鑑みると,Dは深部静脈血栓症を発症した後,肺塞栓を発症し,呼吸不全により死亡したものと推認される。
したがって,Dの死因は肺塞栓による呼吸不全であると認められる。

(2) これに対し,被告らは,Dが死後に病理解剖されていない以上,Dの死因を特定することはできないと主張するが,DがOCを処方されてから死亡に至るまでの経緯等から,Dの死因が肺塞栓であると認めることができるのは上記(1)のとおりであり,被告らの主張は理由がない。
また,被告らは,Dの心肺停止後の出血・凝固検査において,PTの活性の低下,APTTの高度延長が見られ,これらは血液凝固因子が不足,欠乏し,むしろ出血をしやすい状態を示しており,肺塞栓の症状と整合しないと主張し,これに沿う内容の宮城県産婦人科医会の意見書(乙B18)を提出する。
医学的知見では,PT%が基準値である80~120%を下回る場合及びAPTTが基準値である25~40秒を上回る場合は,血液の凝固能低下を示すものとされているところ(乙B19-1,19-2),証拠(甲A3)によれば,Dが心肺停止した後である平成21年6月11日午前7時14分頃に行われた血液検査の結果,PT%が48%,APTTが56秒であったことが認められ,上記の血液検査の結果は,上記検査時点でのDの血液の凝固能低下を窺わせる数値であったといえる。
しかしながら,上記検査結果は,Dが心肺停止した同日午前6時47分から27分が経過した後に採取した血液に係るものであり,心肺停止による低酸素及び虚血の影響を受けたものと推認されるため(甲B16【3頁】),血液凝固能低下の有無を正確に推測し得るのか明らかではない。また,肺塞栓のように広範囲に血栓を生じると,それのみで体内の血液凝固因子を大量に消費するが,肝臓が十分に機能していないと凝固因子が補給できずに凝固因子不足に陥ることがあるところ(甲B16【8頁】),Dについても,肺塞栓の発症により広範囲に血栓を生じ(呼吸困難やチアノーゼは広範囲の肺塞栓を示すところ,Dにそれらの症状が見られたことは,上記認定事実(1)コ及び(3)ウ(ウ)のとおりである。),血液凝固因子を消費したにもかかわらず,27分間の心肺停止により肝臓に血液が供給されず,機能が停止して血液凝固因子が補給されず,血液凝固能が低下した可能性もあることに鑑みると,被告らが主張する血液検査結果の数値は,必ずしもDが上記呼吸困難に陥った時点における血液凝固能の低下を示すものとはいえないのであって,そうすると,Dの死因が肺塞栓であったという上記判断を左右するものではない。
したがって,被告らの上記主張は採用することができない。 」

谷直樹

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by medical-law | 2021-12-14 06:51 | 医療事故・医療裁判