添付文書の記載(禁忌)に違反して医薬品を処方した注意義務違反と死亡との因果関係 仙台地裁平成29年7月13日判決
「5 争点(4)(上記3の注意義務違反とDの死亡との間に因果関係があるか)について
(1) 被告Eには,上記3のとおり,平成21年4月21日及び同年5月18日に添付文書に違反してDにオーソM-21を処方した注意義務違反が認められるから,同注意義務違反とDが同年6月11日に死亡したという結果との因果関係の有無について検討する。
(2) 上記2で説示したとおり,Dの死因は深部静脈血栓症に続発した肺塞栓による呼吸不全であると認められる。
また,上記2で説示したとおり,OCの服用により,血液凝固能が亢進し,VTEを発症する危険は3~5倍程度増加し,その危険は服用開始後3か月以内が一番高く,その後減少するが,非服用者と比べればその危険は高く,また,4週間以上の休薬期間を置き,再度服用を開始すると,開始後数か月はVTEを発症する危険が高くなるとされているところ,Dは平成20年8月16日から平成21年3月30日までの約7か月半の間OCの処方を受けて服用を続けた後,同日から同年4月20日までの休薬期間を挟んで,同月21日から再びOCの処方を受け,再度の使用開始から2か月弱後の同年6月11日にVTEである肺塞栓を発症したという経過を辿っており,肺塞栓の発症当時,DはOCによって肺塞栓を発症する危険が高まっている状態にあったことが認められる。
さらに,上記3で説示したとおり,VTEとATEは,血栓の形成過程や原因において異なる点があるものの,いずれも血管内の血漿成分が凝固し,血栓を生じるという点で機序が共通しており,高血圧とVTEの関係性を否定することはできず,本件記載が防止しようとした「血栓症等」にはVTEが含まれると解すべきところ,同年4月21日及び同年5月18日の時点において,Dは,本件ガイドラインが則っているWHO基準の分類3(OCの使用を推奨できない。ただし,他に適当な方法がない場合を除く。)又は分類4(使用してはいけない。)に該当する程度の高血圧の状態にあった(分類3と分類4に規定する高血圧のいずれの基準とも本件記載が禁忌としている高血圧に該当することは,上記3(2)で説示したとおりである。)ことに鑑みると,Dが本件記載により禁忌とされるほどの高血圧であったにもかかわらず,被告EがDに対しOC(オーソM-21)を処方して服用させたことによって,DがVTEを発症する高度の危険を発生させたことが認められる。
これらの事情を総合すると,Dが同年4月21日及び同年5月18日に処方されたオーソM-21を使用したことによって,血液凝固能が亢進し,深部静脈血栓症を発症した後,肺塞栓を発症し,呼吸不全となって死亡したものと認められる。
そうすると,被告Eの上記注意義務違反とDの死亡との間には因果関係が認められる。
(3) これに対し,被告らは,Dが肺塞栓を発症した原因は,高血圧やOCの処方ではなく,肥満やうつ状態に伴う長期臥床,うつ病の薬パキシルの服用中断であった旨主張することから検討する。
ア 肥満について
弁論の全趣旨によれば,日本肥満学会では,BMI=体重(kg)÷(身長(m)×身長(m))に関し,25以上30未満を肥満1度,30以上35未満を肥満2度としているところ,証拠(甲A6【16頁】)及び弁論の全趣旨によれば,平成20年8月16日の時点で,Dの身長は152.5cm,体重は52.0kg,BMIは22.36であったことが認められ,上記基準に照らすと肥満とは評価されないものである。そして,同日より後のDの体重については,証拠(甲A14,15の1・2)及び弁論の全趣旨によれば,平成21年2月26日の時点で体重が6kg増加しており,その時点のBMIが24.94であったことが認められるものの,上記の肥満の基準には満たないから,Dが肥満であったと認めることはできない。
そうすると,Dに肺塞栓の危険因子として肥満が存在したとは認められないから,Dが肥満によって肺塞栓を発症したということはできず,上記(2)の判断を左右しない。
イ うつ状態に伴う長期臥床,パキシルの服用について
証拠(甲A14,15の1・2,乙B4の8・9)及び弁論の全趣旨によれば,Dは,平成20年12月8日から平成21年6月4日までの間,精神科の医療機関「広瀬通クリニック」を受診し,家事ができない,調子がよくないなどの症状を訴えていること,Dには,いずれもうつ病の薬であるデパスが平成20年12月8日から,パキシルが同月15日からそれぞれ処方されていることが認められ,これらの事実からすれば,Dが肺塞栓を発症した当時,長期臥床に近い状態にあった可能性を否定することはできない。
しかしながら,上記(2)で説示したとおり,高血圧であったDはOCの服用によって肺塞栓を発症する高度の危険を生じていたことに照らすと,仮にDが長期臥床に近い状態であったとしても,そのことのみを原因として肺塞栓を発症したとみることはできず,それらの要因が重なった結果として肺塞栓となったといい得るにすぎない。
そうすると,たとえDが長期臥床に近い状態にあった可能性があったからといって,高血圧であったDに対するOCの処方とDが肺塞栓を発症して死亡したこととの間の因果関係を否定することはできないというべきであり,上記(2)の判断を左右するものではない。
ウ したがって,被告らの上記主張は理由がない。」
谷直樹
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