弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

静脈血栓塞栓症発症の予防に関する注意義務違反と結果との因果関係,損害 東京地裁平成23年12月9日判決

東京地裁平成23年12月9日判決(裁判長 森冨義明)は,以下のとおり,弾性ストッキング法も間欠的空気圧迫法も実施しなかった注意義務違反と結果(肺血栓塞栓症発症と後遺障害)との因果関係について,「肺血栓塞栓症は発症しなかったという高度の蓋然性があるとまで認めることはできない」とし,「弾性ストッキング法又は間欠的空気圧迫法が実施されていれば,肺血栓塞栓症が発症せず,原告Aに後遺障害が残らなかった相当程度の可能性がある」と認定し,慰謝料800万円を認めました.
なお,これは私が担当した事件ではありません.

「 (ウ) ところで,原告らは,弾性ストッキング法又は間欠的空気圧迫法が実施されていれば,肺血栓塞栓症を発症することも,原告Aに後遺障害が残ることもなかった旨の主張をする。
しかしながら,全証拠によるも,原告Aの肺血栓塞栓症の塞栓子となった血栓の形成時期及び形成部位は不明といわざるを得ないところであり,血栓が術前に形成されていた可能性や原告Aがショック状態に陥った後に形成された可能性,あるいは骨盤内に血栓が形成された可能性も否定できないことからすると(証人G),弾性ストッキング法又は間欠的空気圧迫法が実施されていれば,肺血栓塞栓症は発症しなかったという高度の蓋然性があるとまで認めることはできない。

もっとも,① 本件手術は予防ガイドライン等にいう中リスクの手術であり,肺血栓塞栓症発症の危険性が一定程度存在したことは否定できないこと,②医学文献(甲B7[653],甲B9[216],甲B31[28,29])上も,肺血栓塞栓症の多くは下肢に形成された血栓に起因するものであるとされ,また,術前に形成された小血栓が,術中術後に発育し,深部静脈血栓症を発症することもあるとされていること,③ 予防ガイドライン等において,上記中リスクの患者につき,術後,弾性ストッキング法を実施することにより,肺血栓塞栓症発症の確率は有意に減少し,また,間欠的空気圧迫法は弾性ストッキング法より効果が高いとされていること(甲B8[12~13])などからすると,弾性ストッキング法又は間欠的空気圧迫法が実施されていれば,肺血栓塞栓症が発症せず,原告Aに後遺障害が残らなかった相当程度の可能性があると認められ,原告AはG医師の注意義務違反により,上記可能性を侵害されたというべきである。

4 争点(3)(損害の有無及び損害額)
前記のとおり,G医師には,静脈血栓塞栓症発症の予防に関し注意義務違反があり,原告Aは,上記注意義務違反により,弾性ストッキング法又は間欠的空気圧迫法が実施されていれば,肺血栓塞栓症が発症せず,原告Aに後遺障害が残らなかった相当程度の可能性を侵害されたものといわざるを得ない。原告Aは,これにより相応の精神的苦痛を被ったものと認められるところ(なお,原告Aは,十分な予防措置が講じられず,その結果,重大な後遺障害が残ったことも理由の一つとして,慰謝料請求をするのであり,これには上記侵害に係るものも含まれると解される。),上記侵害の態様及びその程度,原告Aの年齢,後遺障害の程度等,一切の事情を総合考慮すると,原告Aに対する慰謝料は800万円と認めるのが相当であるが,原告C,原告D,原告B及び原告Eにつき個別に損害が発生したとまではいえない。」


谷直樹

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by medical-law | 2021-12-18 10:28 | 医療事故・医療裁判