弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

帝王切開後の管理と死亡との因果関係 名古屋地方裁平成21年12月16日判決

名古屋地方裁平成21年12月16日判決(裁判長 永野圧彦)は,以下のとおり判示し,「帝王切開後の管理に過失がなければ,Aが現実に死亡した時点においてなお生存していた高度の蓋然性を認めるのが相当である。」と認定しました.
なお,これは私が担当した事件ではありません.

「6 争点(6)(因果関係)について
(1) 帝王切開後の管理における過失との因果関係について
ア 帝王切開から子癇発作が生じるまでの間に,血液検査が実施されていれば,上記認定のとおり,1月16日中には,HELLP症候群が発症したとの診断のもと,これに対する適切な管理を行えたはずである。また,遅くとも同日午後7時30分までに降圧剤が投与されていれば,PIHの更なる重症化を防げた結果 HELLP症候群が発症しなかった可能性を否定できず,仮に発症自体は防止できなかったとしても,その重症化を防止できた可能性は極めて高いというべきである。

イ この点について,被告は,Aについては1月17日時点において既に急激に腎機能や肝機能が悪化しており,1月16日中に降圧剤を投与したとしても,救命は困難であった旨主張する。
確かに,別紙臨床経過書のとおり,1月17日午前8時ころの採血結果によれば,腎機能や肝機能が極めて悪化しており,そのために同日午前10時ころに専門的治療を受けるために腎臓内科に転科しているほか,CTで脳浮腫が確認され,同日午後7時には脳浮腫が著明となっており,1月17日午前以後に急激な悪化を辿ったことは否定できない。しかし,HELLP症候群が進行した場合には死亡することもあるからこそ,帝王切開後も血圧の厳重な管理が必要であるとされていることは,既に判断したとおりであり,1月16日午後7時30分から翌日午前8時まで170/110㎜Hg以上(収縮期血圧は190を超えていることもあった)の高血圧が測定されながら,降圧剤の投与もされず,血液検査も行われず,必要な治療も検討されなかった結果,1月17日午前8時ころには極めて重症となったものであるから,過失がなければ,Aが現実に死亡した時点においてなお生存していた高度の蓋然性を否定することはできない。被告の主張は採用できない。
ただし,PIHやHELLP症候群の長期的予後に関し,一般的に,将来の腎疾患,心臓血管障害の発生の危険性があること,寿命,さらには糖尿病や高血圧といった生活習慣病との関連が指摘されており(甲B23・112頁 ),Aが急激に重症化しやすい病態であったことからすれば,1月16日午後7時30分から降圧剤が投与されたとしても,Aに,一定の腎疾患等の障害が残った可能性は十分考えられる。そのことは,因果関係の認
定を左右するものではないが,損害額の算定において考慮すべきものである。

ウ そうすると,帝王切開後の管理に過失がなければ,Aが現実に死亡した時点においてなお生存していた高度の蓋然性を認めるのが相当である。」


谷直樹

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by medical-law | 2021-12-21 23:16 | 医療事故・医療裁判