弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

子癇発作に対する治療 名古屋地裁平成21年12月16日判決

名古屋地方裁平成21年12月16日判決(裁判長 永野圧彦)は,以下のとおり判示し,「医師の診察が1時間40分以上なされなかったことは,子癇発作が早朝に生じたことや,B医師による上記投薬指示がなされたことを考慮しても,患者の急変時に対応できるだけの態勢が取られていなかったというべきである。」,「標準的な維持投与量と比較しても,6分の1から3分の1に過ぎない量しか投与しなかった点については,過失が認められるというべきである。」と認定しました.
なお,これは私が担当した事件ではありません.

「(2) 子癇発作に対する治療について
ア 医師の診察について
Aは,1月17日午前6時20分に子癇発作が生じているが,これを確認した看護師が,本来の当直医とは別の医師のPHSに連絡したため,医師との連絡がとれず 主治医であるB医師の自宅に連絡をとったことから医師の診察を受け,血液検査を実施したのは,同日午前8時5分に至ってからであった(乙A3,証人C看護師)。この間,B医師の指示により,午前6時35分,生理食塩水100mℓにマグネゾール1アンプル(20mℓ中に硫酸マグネシウムを2g含有)を入れ,1時間に20mℓの速度で点滴投与が開始され 午前8時にはアプレゾリンの内服がなされている。
しかし,PIH患者が痙攣を起こした場合,患者の全身状態を細やかに把握し 子癇発作と脳出血等の他の疾患との鑑別を行う必要があるから (甲B2の2・73頁,乙B21・51頁) ,早急に医師の診察を受ける必要があるというべきである。にもかかわらず,医師の診察が1時間40分以上なされなかったことは,子癇発作が早朝に生じたことや,B医師による上記投薬指示がなされたことを考慮しても,患者の急変時に対応できるだけの態勢が取られていなかったというべきである。

イ 硫酸マグネシウムの投与について
(ア) 子癇発作を起こした患者に対する硫酸マグネシウムの投与について,初回は2~4gを20分から30分かけて点滴投与し,維持投与としては,1時間に1~2gの速度で点滴投与し,投与中は呼吸数,血圧,脈拍数,心電図等を連続的にモニターすることが標準的な投与法であると認められる(甲B2の2・71頁,甲B2の5・1447頁,甲B8・182頁,乙B11・83頁 。)
しかし,被告病院におけるマグネゾールの投与量は,上記のとおりであり,3時間で1gを投与する計算になるが,上記標準的な維持投与量と比較しても,6分の1から3分の1に過ぎないといえる。

(イ) 被告病院における上記投与量について,B医師は,Aが腎機能障害を起こしている可能性を考慮したものであると供述し,マグネゾールは腎機能障害のある患者に対しては,慎重投与とされる(乙24・2357頁)。
しかし,前記認定の医学的知見によれば,子癇は,PIHの存在下で発症することが多く,PIHでは腎機能障害が生じることもあるとされるところ,上記認定の標準的な硫酸マグネシウムの投与方法に関し,特に腎機能障害を発症している場合には,投与量を減ずるべきとする見解を本件証拠上に認めることはできない。
そうすると,投与量に関しては,医師の裁量が一定程度認められるというべきであるが,既に子癇発作を生じたAにとっては,連続的なモニタリングをしつつ,相当量のマグネゾールを投与することで再発作を防ぐことを第一に考えるべきであったといえるから,上記標準的な維持投与量と比較しても,6分の1から3分の1に過ぎない量しか投与しなかった点については,過失が認められるというべきである。」


なお,同判決は,患者Aが極めて重篤な状態にったことから,「Aが現実に死亡した時点においてなお生存していた高度の蓋然性を認めるのは困難と言わざるを得ない。」と判示しました.

「(2) 子癇に対する診療における過失との因果関係について
上記認定のとおり,1月17日午前以後における臨床症状や同日午前8時ころ実施の血液検査の結果からすると,PIHは極めて重症化しており,重度のHELLP症候群の発症も確認され,その上,子癇も合併しているから,同日午前8時ころ以後におけるAの全身状態は,極めて重篤なものであったといえる。
そうすると,子癇発作が生じた同日午前6時20分ころに適切な対応が取られていたとしても,Aが現実に死亡した時点においてなお生存していた高度の蓋然性を認めるのは困難と言わざるを得ない。」



谷直樹

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by medical-law | 2021-12-22 00:31 | 医療事故・医療裁判