術中画像記録が十分でない事案における因果関係認定 広島高裁令和3年2月24日判決
そして,「フレーミングは,フィリングコイルが瘤の内側を傷つけたり,瘤を破ったりすることのないよう瘤内にフレームを形成する工程である(前記(1)ア)から,上記部分までカバーする立体的なフレームが形成されていなかった場合に,上記部分をコイルが穿孔する可能性が高いのは当然というべきであり」とし,結果回避のための重大な義務違反があったことにより結果が発生したとの因果関係を認めました.なお,「一件記録を精査しても,上記部分までカバーする立体的なフレームが形成されていなかったこと以外には,上記部分をコイル5が穿孔した原因があったことを具体的に窺うことができず」と他原因の主張を排斥しました.
「本件手術中,コイルを挿入する度に画像を撮影するなど大量の画像を撮影し,当該画像は,撮影後1ないし2か月はハードディスクに保存されていたが,本件において提出されているものを除き,その後,放射線技師により消去されるところとなり,本件手術の画像が十分に保存されていないこと」も認定し,そのため被控訴人が「本件に即した具体的な指摘をすることができていない」としました.
「本件動脈瘤の術中破裂により生命に関わる事態や重篤な後遺症が残る可能性については,5ないし10%程度であったと説明されている」ことから,「上記注意義務違反がなければ,Gが死亡に至らなかった(また,重篤な後遺症が残ることもなかった)高度の蓋然性があった」と認定しました.
術中画像記録が十分でない事案における因果関係認定の方法として参考になる判例と思います.
なお,これは私が担当した事件ではありません.
「(3) Gの死亡との間の因果関係
本件再破裂の原因について,①控訴人らは,㋐本件左側構成成分のネック部分をコイル5が穿孔した(争点3の控訴人らの主張ウ,争点4の控訴人らの主張の第3段落,争点5の控訴人らの主張の第1段落),㋑カテーテル等の動きで血流の変化が生じて脆弱な上記部分が破裂した(争点3の控訴人らの主張ウ,争点4の控訴人らの主張の第3段落),㋒上記部分をカテーテル2が穿孔した(争点5の控訴人らの主張の第1段落)などと主張する一方で,②被控訴人は,コイル5が本件動脈瘤を穿孔した(争点3の被控訴人の主張ウ),コイル5が上記部分を穿孔した可能性が高い(争点5の被控訴人の主張の第1段落)と主張するところ,一件記録を精査しても,本件再破裂の原因が上記①の㋑,㋒であったことを認めるに足りる的確な証拠は存在しないから,本件再破裂の原因はコイル5が上記部分を穿孔したことと認めるのが相当である。
そして,I医師は,上記部分までカバーする立体的なフレームを形成することができなかったもので,I医師にはフレーミングについての注意義務違反があったと認められる(上記(2)エ)ところ,フレーミングは,フィリングコイルが瘤の内側を傷つけたり,瘤を破ったりすることのないよう瘤内にフレームを形成する工程である(前記(1)ア)から,上記部分までカバーする立体的なフレームが形成されていなかった場合に,上記部分をコイルが穿孔する可能性が高いのは当然というべきであり,また,一件記録を精査しても,上記部分までカバーする立体的なフレームが形成されていなかったこと以外には,上記部分をコイル5が穿孔した原因があったことを具体的に窺うことができず,さらに,被控訴人病院においては,本件手術中,コイルを挿入する度に画像を撮影するなど大量の画像を撮影し,当該画像は,撮影後1ないし2か月はハードディスクに保存されていたが,本件において提出されているものを除き,その後,放射線技師により消去されるところとなり,本件手術の画像が十分に保存されていないこと(弁論の全趣旨)などから,被控訴人においても,上記原因について,破裂動脈瘤には瘤壁の脆弱な箇所があり一定の割合で再破裂が起きることは避けられないなどという一般的な指摘をするにとどまり,本件に即した具体的な指摘をすることができていない。
以上によれば,本件においては,本件左側構成成分におけるフレーム形成に係る注意義務違反があったことから,フレームの形成が不十分であった本件左側構成成分のネック部分をコイル5が穿孔することで,本件再破裂が起こったと推認するのが最も合理的というべきであるところ,本件動脈瘤の術中破裂により生命に関わる事態や重篤な後遺症が残る可能性については,5ないし10%程度であったと説明されている(認定事実(2) の「5.治療」の部分。なお,破裂脳動脈瘤の破裂頻度を4.1%とする文献〔甲B26の117頁〕もある。)のであって,上記注意義務違反がなければ,Gが死亡に至らなかった(また,重篤な後遺症が残ることもなかった)高度の蓋然性があったということができるから,上記注意義務違反とGの死亡との間には相当因果関係があると認められる。」
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/258/090258_hanrei.pdf
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/258/090258_option1.pdf
谷直樹
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