子ども病院でバーコード照合・名前確認行わず異型輸血(報道)
「千葉県こども病院(千葉市緑区)は27日、昨年12月に心臓手術を受け集中治療室(ICU)に入院していた血液型A型の当時生後1カ月の男児にAB型の血液を輸血する医療事故があったと発表した。星岡明病院長は「患者や家族に心配や迷惑をかけた。深くおわび申し上げます」と謝罪した。男児に容体の悪化などはなく、今年1月中旬に退院したという。
同病院によると、男児は先天性の心疾患と診断され同病院で心臓手術を受けた。術後、ICUで看護師が男児の輸血容器を交換する際に、AB型の乳児のために準備していた容器と取り違え、約1時間40分間にわたって約5ミリリットル輸血した。AB型の乳児の輸血容器を交換する時に、容器が見つからなかったことから発覚した。
同病院は輸血する直前に容器と病床のバーコードを読み取り照合する決まりとなっていたが、読み取りを怠った上、容器のラベルに記載された名前の確認も行っていなかった。男児に事故による障害はなく、心疾患の治療後に退院した。男児の家族と和解が成立している。
同病院は外部委員も入れた事故調査委員会を立ち上げ、事故調の提言を受けて再発防止策を検討。輸血準備の見直しや手順の確認徹底などに取り組むとしている。県庁で会見した星岡病院長は「全ての病棟でしっかりとバーコードによる事前確認を行っていく」と話した。」
決められたルール,手順を守らせることは難しいとはいえ,ルール,手順を守らず異形輸血を行う職場風土が未だにあるようです.
「医療安全調査報告書 不適合輸血事案」は,「輸血の間違いは死亡事故に繋がるような重大な案件である。輸血の認証システムが導入されているにも関わらず、認証行為を実施しなかったということはあってはならない。小児特有の分注投与などの複雑さが取違えの誘因となったと考えられたが、よりシンプルな手順の確立が望まれる。」としています.
https://www.pref.chiba.lg.jp/kodomo/topics/documents/saisyuuhoukokusyo.pdf
「4.本件事故発生の原因調査の結果
1)事故の原因に関する検討結果
本項目は事故に至った結果から遡って検討する。
本件は間違った輸血シリンジを選択したことと、行為認証を怠ったことから発生した事故であるがその要因として以下のことが考えられる。
(1)輸血の分注について
日本赤十字社から供給される赤血球液は 1 単位 120ml・2 単位 280mlと量が多いため、小児(特に新生児)の場合、輸血バッグからシリンジに分割して投与する方法を用いる。当院の場合、赤血球液の分注の使用制限時間は、ICU の輸血手順書では 4 時間以内、院内の輸血マニュアルでは 6 時間以内と ICU と病棟に相違があった。当患児は、「赤血球液 3ml/hr」の指示があり、看護師は 4 時間を積算し、20ml シリンジに 12ml を分注した。一方、X患者は「赤血球液 5ml/hr」の指示があり、4 時間を積算し、20ml シリンジに 20ml を分注した。
X患者のシリンジは 2 本同時に準備をされていた。2 本同時に作成することで保管されている分注シリンジが複数存在することになり、間違いを起こしうる要素を形成したと考えられる。
(2)認証行為の未実施について
輸血の実施は、本来なら 2 人の看護師で確認し、バーコードによる認証行為をすることになっており、その認証行為さえ実施していればエラーが表示されたはずであり、誤認を防ぐことはできた。その手順を省略してしまった事は重大な違反である。この違反の背景として、同時間帯に ICU の他患者の呼吸状態が悪化しており、業務負荷を増やすための他看護師に声をかけにくい雰囲気があった可能性がある。また無意識に輸血の交換を先にして認証行為を省略した可能性も推測される。これまでも緊急時に使用する場合、あるいは輸液や薬剤などの投与時に認証を後回しにすることがあったのかもしれず、今回の輸血も同様の単純行動として無意識に逸脱してしまった可能性もある。
(3)冷蔵庫での保管について
ICU 内の冷蔵庫は、輸血専用冷蔵庫ではない。未使用の輸血に関しては、中央管理されている OPE 室にある共同冷蔵庫に保管している。
分注をした時点で ICU 内の冷蔵庫に保管する。ICU 内の冷蔵庫は小さく、輸血は患者ごとにトレイに入れて保管するが、遮光冷蔵庫になっており視認性も悪い。冷蔵庫の扉を開閉してから中身を確認することになっているがトレイの大きさは小さく不適切と考えられる。
冷蔵庫内は 2 段あるが、数人分の輸血を保管するときは、同じ段に置かれることもあり取り違えの危険性は高い。
2)事故要因に関する本委員会の結論
本件は分注した赤血球液を交換する際に、他患児の血液製剤を誤ってシリンジポンプに設置し、注入してしまった事故である。受け持ち看護
師の記憶には全く残っておらず、施行者を特定することは困難であった。
しかしながら取り違えを誘発する要因が複数考えられた。①輸血手順書が院内で統一されてはおらず、また細部までの記載がなく曖昧な部分が多かった。②輸血分注の方法にも問題があった。あらかじめ複数のシリンジに分注保存をして複数のシリンジが冷蔵庫に保管され、保存用冷蔵庫が貧弱で取違いを誘発しやすかった。③効率優先の風土を背景として認証行為をしなかった。
3)臨床経過、対応等に関する検討および評価
本項目では医療安全調査委員会の通例に従い、臨床経過に沿って検討した結果を述べる。
(1)輸血の適正について
本患児は、日齢 6 日目に大動脈再建・心室中隔欠損閉鎖・心房中隔欠損閉鎖術を受けて、術後 4 日目に抜管はできたが、胸腔ドレーンからは白濁した胸水が排出されていた。術後 2 週間目に発熱および CRP の上昇があり、血培 GPC 陽性のため、抗菌薬開始とドレーンを入れ替え炎症は軽快した。胸骨陥没による右室の圧排あり、術後24 日目に縦隔内廓清、胸骨形成を施行した。翌々日には、抜管し呼吸状態は安定し、抗菌薬の投与は終了となった。2 回の心臓外科手術の侵襲や、胸腔ドレナージ継続などから集中治療室での全身管理が必要な状況であり、赤血球液や新鮮凍結血漿などの輸血投与の適応に関しては妥当であった。
(2)輸血の指示について
輸血指示は診療科によっては、総量と流量両方の指示が出されていた。心臓血管外科の輸血指示は、状況が刻々と変わるため、今まで総量は記載していなかった。従って今回の指示も今までと特に変わるものではなかった。しかしながら診療科により指示が異なるのは混乱の元となるため、病院として、流量だけの指示にするのか、総量の指示にするのか、双方の指示を記載するのか、統一するべきである。輸血の場合は、分注するという作業が必要なため、総量と流量を記載することで、患者の体重に合った量やシリンジの選択ができることを考慮すると、指示として総量と流量の双方を記載することが望ましい。また分注する判断や量は看護師に一任されており、個々によって解釈も異なるため、早急に病院として標準化した手順を定めることが必要である。
(3)輸血の分注について
輸血は貴重なものであり、輸血の廃棄などを最小限に抑えるために、分注するという方法は小児病院の中では通常の方法と言える。当院の場合、赤血球液の分注の使用制限時間は、ICU と病棟に相違があり ICU の輸血手順書では 4 時間以内、院内の輸血マニュアルでは 6 時間以内となっている。日本輸血・細胞治療学会から出されている「血液製剤の院内分割マニュアル」を参考に院内の輸血マニュアルは 6 時間以内に使用と定めていたが、ICU は 4時間以内に使用する独自のマニュアルになっていた。病院全体で6 時間以内とされているため、統一することが望まれる。
今回X患者のシリンジは 2 本同時に準備をされていた。分注にあたり作成本数に関する明らかなルールはなかったが、このことは事故の要因として大きな意味がある。余分な分注シリンジが長時間冷蔵庫に保管されることは、そのシリンジが誤った患者に使用される機会を増すことにもなる。また、何 cc のシリンジを使用するかの決まりはなく、看護師個々で判断が異なっていた。また分注する初回投与の場合は、延長チューブ分の 1cc を多く吸い、延長チューブ分を満たし、2 本目からはシリンジのみを満たす、という手順が多く認められた。最終投与量を示すシリンジの印は、シリンジポンプに設定した時にマジックで線を引くのか、シリンジに吸った時に線を引くのかは人によって異なっていた。手順書にはそのような詳細は記載されておらず、看護師の個々の判断に一任されており、曖昧であった。
(4)分注した輸血の保管について
分注したシリンジを冷蔵庫に保管すると、冷たい輸血を投与することになり、患児の体温低下をきたすため、30 分~1 時間前にシリンジを取り出し常温に戻すという作業を行っているが、この作業は手順書通りであった。しかし冷蔵庫からシリンジを取り出すというステップがあるため、確認作業が増え、誤投与のリスクも高くなる。従って冷蔵庫に事前に保管しておくことが必要なのか早急に検討すべきである。また事前にシリンジを準備する場合、あらかじめ、ベッドサイドに置くという工程は不要と思われる。ベッドサイドに置くことによりアラーム直後に交換できるメリットはあるが、間違ったものが置かれていると、そのまま繋いでしまうリスクがある。直前に準備をして、交換するという手順の方がリスク回避になる。シリンジポンプの残量アラームが鳴った時点で、直前に冷蔵庫から輸血バッグを取り出し、シリンジに分注しても、延長チューブの 1cc 分の投与時間を鑑みると、体内に入るまでの間に常温になると思われる。
(5)認証行為の未実施について
バーコードによる認証行為を省略してしまった事は明らかな違反である。輸血は絶対に誤認を起こしてはいけないものであるが、医療事故情報収集等事業の集計でも、年間 3 件ほどは、輸血間違いが報告されている。輸血には確認事項が多く、実際に投与するまでの間、何回も確認作業がある。その最後の一番重要な患者認証が実施されていなかったことは重大問題である。今回の要因として、他看護師の業務負担への忖度や、輸血の交換を先にして、認証行為を省略するという慣習的な違反が推測される。また、これまでにも緊急時に使用する場合や輸液や薬剤などの投与時に、認証を後回しにすることがあったのかもしれない。そのために輸血も同様の単純行動として無意識に逸脱してしまった可能性がある。誰もがやっている行為で習慣化すると記憶には残らないことがある。その人だけの判断ではないとすると、職場風土の是正が必要となってくる。
(6)システムの複雑化
富士通の電子カルテと重症系電子カルテシステム(アクシス)の2つの電子カルテの導入により複雑化している。2 つのシステムは連携しておらず、確認作業がより複雑化している。重症系のシステムが導入されて 1 年になるが、導入前より複雑な手順となっている。
(7)情報共有の不備
A型とAB型の赤血球液が同時間帯に投与がされていたが、4 人の勤務者の中で情報共有がされていなかった。すべての診療ケアの情報を共有する必要はないものの、輸血投与中の患者が 2 人いる場合、お互いに気を付けようと声をかけるだけで、注意喚起となり、誤認防止に繋がったのではないかと思われる。多忙な業務環境においてもリスク回避に繋がる習慣を養えるような教育が必要である。
(8)ICU 内の勤務体制
当時 ICU には 5 人入室しており、重症者はいたが、決して忙しい状況ではなかった。しかし、処置が重なる時間はあり、一人が休憩時間をとっていると、実質勤務を行っているのは 3 人となった。
その中で、処置や確認事項が多く、ハイリスク薬の投与や薬剤量の微量計算など間違えてはならない確認作業が多い。今回の輸血を交換する際に声をかけなかったという行為とは齟齬が生じるが、ICU では確認作業が多い中でも、お互いに声をかけにくい雰囲気はない。必要があれば、A 看護師も先輩看護師に声をかけられており、パワーバランスは均衡に保たれていた。
(9)職員の精神的ケアについて
当事者は、直前の行動について記憶になかった。無意識の行動ともいえ、それは、非常に危険なことであった。集中治療を行う病棟では緊張感がありストレス度は高い。また他の ICU スタッフにとっても、自分たちも間違えた可能性や患児が失命した可能性を考え他人事には思えないことから、今回の事故によるストレス度は高い。部署内の精神的ケアとして、メンタルヘルスなどのケアを提供する機会を設けた。
4)事故に関する本委員会の判断
今回の不適合輸血の事故は行為認証を怠ったことが一番の要因である。しかし同時に輸血の指示が適切ではない、看護師の個々の判断で分注して投与するという行為が、より不適合輸血のリスクを高くしていると判断された。人的要因だけではなく、電子カルテの複雑化や環境によるシステム要因の問題があり、早急に改善をはかるべきである。
5.再発防止策の提言
臨床結果と原因調査の結果を踏まえ、以下に示す再発防止策を提言する。
1)輸血の指示について
診療科によって指示が異なるというのは、間違いを起こす要因となる。シリンジに吸い上げる量は、個々の判断や計算が入るため、できるだけ簡潔明瞭な指示とし、総量の記載は必須である。院内で統一できるような仕組みを早急に定める。小児の場合、準備する量も低用量となるため、プライミングさせる時の延長チューブの量も含めて適切な指示が必要である。
2)分注の手順について
院内の分注の手順を見直す必要がある。事前に準備する習慣を廃止し、できるだけ直前に準備し、作業をシンプルに行うことが望まれる。
3)認証行為について
認証行為のシステムに加え、何故その行為が必要なのかを手順書へ記載することとその教育が重要である。特に最後の認証行為の確認は、患者誤認防止のために最も重要なところであり改めて手順の見直しや教育体制を考えていかなければならない。
4)システム要因について
2 つの電子カルテが導入され、入力する事項が増えている。2 つの電子カルテの連携はないためより入力・確認漏れがないようにチェックリストに沿った入力方法を整備する必要がある。
5)環境要因について
当時、血液型の異なる 2 人の患者に輸血が投与されていた。その勤務帯の 4 人の看護師は同時期に輸血投与されていること、血液型が異なることなど間違えないように情報の共有ができていなかった。注意喚起のための気軽に声掛けを行うなどのリスク回避を図れるチーム環境が望まれる。
6)冷蔵庫の使用法について
取り違え防止のために、ICU のベッド毎の保管場所を明瞭にした輸血専用冷蔵庫を配置することが望ましい。現在使用の冷蔵庫は、輸血専用冷蔵庫ではないため、早急に購入を検討する必要がある。
6.結論
輸血の間違いは死亡事故に繋がるような重大な案件である。輸血の認証システムが導入されているにも関わらず、認証行為を実施しなかったということはあってはならない。小児特有の分注投与などの複雑さが取違えの誘因となった
と考えられたが、よりシンプルな手順の確立が望まれる。」
谷直樹
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