弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

髄液検査等の検査義務・抗結核剤投与義務と死亡との因果関係 徳島地裁平成14年7月5日判決

徳島地裁平成14年7月5日判決(裁判長 村岡泰行)は,「速やかに髄液検査等の検査を実施をした上で抗結核薬投与等の治療を実施していれば,高度の蓋然性をもってXの死の結果を回避することができた」と認定し,髄液検査等の検査義務・抗結核剤投与義務と死亡との因果関係を認めました.
なお、これは私が担当した事件ではありません.

「5 争点④(因果関係の有無)について

(1) 前記認定によれば,結核性髄膜炎の致死率は30パーセント程度であり,脳底髄膜炎が進行する以前であれば,完治させることが期待できるとされているところ,Xの髄膜炎を疑い得た平成8年10月18日ころの段階では,未だ髄膜刺激症状等は発症しておらず,重篤な状態には至っていなかったことからすれば,その時点において,速やかに髄液検査等の検査を実施をした上で抗結核薬投与等の治療を実施していれば,高度の蓋然性をもってXの死の結果を回避することができたということができる。
また,仮に,死因となった髄膜炎が結核性以外の病原菌によるもの(真菌性,ウイルス性等)であったとしても,上記の髄膜炎を疑い得た時点で髄液検査等の検査を実施した上でその検査結果に応じて適切な治療を実施していれば,Xの死の結果を回避し得た蓋然性は高いというべきである。

(2) これに対し,被告は,剖検時におけるPCR法等の諸検査によっても起炎菌の同定はできなかったのであるから,生前に髄液検査,血液培養検査等を実施していたとしても髄膜炎を疑わせる所見が出た可能性は低い旨主張する。
しかし,被告病院入院中の検査と死亡後の剖検では検査結果を左右する諸条件(菌量,阻害物質の程度等)が異なると考えられるから,直ちに被告の主張するようなことがいえるかどうか疑問というほかない。また,正常な髄液の外観は水溶透明であるのに対し(乙9の1),剖検時における髄液検査では髄液の混濁がみられたこと(証人A)からすると,生前においても髄液検査を実施していれば,髄液の外観等から髄膜炎を疑わせる程度の所見は得られた可能性は高く,その検査結果に応じた適切な治療を実施することは可能であったというべきである。したがって,被告の上記主張は採用できない。

(3) 以上によれば,被告病院担当医師の診療を怠る行為とXの死の結果との間に相当因果関係があったと認められ,他にこれを覆すに足る的確な証拠はない。」

谷直樹

ブログランキングに参加しています.クリックをお願いします!
  ↓
にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ


by medical-law | 2022-01-15 23:42 | 医療事故・医療裁判