弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

転倒事故防止のための付添看護義務 名古屋地裁平成18年1月26日判決

名古屋地裁平成18年1月26日判決(裁判長 佐久間邦夫)は,「看護師は,Aに対しナースコールをするように何度も指導していたことが認められるが,上記のAの状況,それに対する医師及び看護師の認識に照らして検討すると,被告病院の医師及び看護師は,ナースコールをするように指導しても,これに従わない,又は従うことのできない理由について十分に探索した上で本件転倒事故を防止するよう的確に対処すべきであったというべきである。」とし,「被告病院はAについて付添看護の措置を講ずべきであったと解するのが相当である。それにもかかわらず,この措置を講ずることなく,本件転倒事故を生起させた被告病院の医師及び看護師の責任は大きいといわざるを得ない。」と判示しました.
ナースコールをするように指導してもこれに従わ1人で行動する患者は転倒リスクが高く,転倒負傷したとき,その責任が問題になります.指導にに従わない,従えない理由について十分に探索し,転倒事故を防止するよう的確に対処すべきとした同判決は,参考になります.
なお、これは私が担当した事件ではありません.

「3 過失③(付添看護義務違反)について
(1) 前記前提となる事実(第2の1(4))及び乙A4号証によると,Aは,平成12年11月16日(以下,3項においては,平成12年については月日のみで表示する。)
に被告病院に入院した後,(a)11月22日午前0時前,(b)11月23日午後11時前,(c)11月24日午前1時20分ころ及び(d)11月26日午前9時30分前と,短期間の間に続けて転倒事故(以下,上記の被告病院内における転倒事故を「本件転倒事故」という。)を起こしており,上記(a)の際には病室のベッドサイド及び床並びに包布寝衣に出血汚染が見られ,本人の鼻腔,両手先及び右前腕にも血が見られ,(b)の際には左後頭部から出血し,左頚頂部に35mmほどの挫滅創を負い,それが骨膜に達しており,(d)の際にも鼻出血が見られたというのである。

(2) 被告は,本件転倒事故について,被告病院においては,家族による付添い及び患者負担による付添看護はいずれも原則として禁止しており,Aに対しては排泄希望時にはナースコールをすることを繰り返して指導し,更に午後5時から翌朝午前9時まで介護員を交代で配置し,頻繁にAのもとに訪室させるように指示していたのであるから被告病院の措置に過失は存せず,むしろ,上記の指導に従わないでナースコールをしなかったAに過失が存する旨主張する。
確かに,前記前提事実(第2の1(4))のとおり,看護師がAに対し,排泄をする場合はナースコールをするように繰り返して指導していたことが認められ,また,被告病院では,平成12年11月ころ,Aの入院していた病棟においては,午後5時から午前9時までの間,介護員一人が勤務し,(a)不穏患者の監視,話相手,(b)ナースコールに対応して看護師に要件を連絡するなどの業務についていたことが認められ(乙B7,11号証),また,患者の負担による付添看護は禁止し,家族などによる付添いも原則禁止とする方針を採っていたことが認められる(乙B7号証)。

(3) しかし,以下に検討するところによると,上記の被告の主張を採用することはできない。

ア 本件においては,前記前提事実(第2の1(4)),乙A4号証及び掲記の各証拠によると,次の(ア)ないし(オ)の事情が認められる。

(ア) Aは,11月16日に勤務先の会社の階段で転倒して受傷したことから被告病院に入院したものであり,看護師は,Aについて,夜間トイレ等に一人で行く可能性があるので,転倒が起こらないように注意していく必要のあることを認識しており,その旨を看護記録(乙A4号証122頁)に記載していた。また,診療録中に,「日中,夜間問わず,排泄希望時ナースコールしていただくよう説明していますが,ナースコールされない場合もあるため頻回に訪室してください。夜間介護員の協力を得てください。夜間は,徘徊コールと抑制を行ってください。」との記載(同113頁)も見られる。

(イ) 前記前提事実のとおり,(a)11月18日には,Aが深夜帯に看護師に対し,ラジオのスイッチが入っていないにもかかわらず,消してほしいと言ったり,尿器に何も入っていないのに尿器を片づけてほしいと言い,(b)11月22日には,多少痴呆の症状があると診断されている。これによると,被告病院の医師及び看護師は,Aには痴呆の症状が見られ,不審な行動をとることもあるのを十分に認識していたものと認められる。

(ウ) 前記前提事実のとおり,看護師は,Aにつき,(a)11月17日午前0時ころ,ベッドの足下側にたたずんでおり,トイレに行こうと思ってベッドから降りた旨を聞き,(b)11月18日午前6時前には閉まっていたトイレのドアが開いており,一人でトイレに行った様子であったことを知り,(c)11月24日午後5時40分には,ナースコールについて説明しても返答するだけで押す様子がなく,ベッドの柵をおろす動作を繰り返しているのを見ているのである。これらの事実によると,看護師は,ナースコールするように指導しても,Aがこれに従わないで,一人でベッドから降りてトイレに行くことを認識していたものと認められる。

(エ) 11月23日の転倒事故後,担当医師は,原告Cに対し,後頭部の傷が治るまで入院を延長させることにしたこと及び転倒などの事故のないように注意する旨説明した。

(オ) 原告Cは,被告病院の担当者に対し,Aが入院するに際し,同人がトイレに頻繁に行くが,足が弱っていて平衡感覚も大分衰えているので,ベッドの乗り降りや一人歩きで転倒するのが心配なので,家族が付き添うなり,常時の付添看護とすることの希望を伝えたところ,担当者は,完全看護であるから心配は要らない旨を答えた(甲A3号証)。しかし,この完全看護というのは,被告病院の看護体制に関する説明として誤りであった(この点,基準看護であったものを完全看護と誤って説明した点については被告も認める。)。
被告病院においては,上記のとおり,患者の負担による付添看護は禁止し,家族などによる付添いも原則禁止する方針を採っていたことが認められるが,(a)病状などにより,家族などが側にいないと精神的不安定の状態に陥り,療養の妨げになることが考えられる場合,(b)病状が極めて重く,かつ,患者家族から付添いの許可を求められた場合などにおいて,医師の許可を得て,患者の負担によらない付添いを認めることがあるとし,こうした付添看護に対する基本的な考え方と並んで,夜間の看護体制の検討も併せて十分に行い,昼夜を問わず,どうしても補助者が要る場合は,被告病院として補助者の確保をすることにしている(乙B7号証)。こうした方針を立てていた被告病院において,原告Cの上記の希望を拒絶しつつ,Aが4回も転倒する事態を招いたのは,看護体制の検討を十分に行っていなかったことを示すものといわざるを得ない。

イ 上記の事情を総合して検討すると,看護師は,Aに対しナースコールをするように何度も指導していたことが認められるが,上記のAの状況,それに対する医師及び看護師の認識に照らして検討すると,被告病院の医師及び看護師は,ナースコールをするように指導しても,これに従わない,又は従うことのできない理由について十分に探索した上で本件転倒事故を防止するよう的確に対処すべきであったというべきである。そして,Aの入院している病棟に夜間,介護員が勤務していたとしても,一人の介護員が病棟全体を担当しているのであって,当時のAの状況に照らすと,これをもって適切な措置が採られ
ていたものということはできない。
上記の経過に照らすと,被告病院はAについて付添看護の措置を講ずべきであったと解するのが相当である。それにもかかわらず,この措置を講ずることなく,本件転倒事故を生起させた被告病院の医師及び看護師の責任は大きいといわざるを得ない。
被告は,ナースコールをするように指導した以上,それに従わなかったAに過失がある旨主張するが,上記に検討したところによれば,到底採用することできない。」



谷直樹

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by medical-law | 2022-01-31 00:55 | 医療事故・医療裁判