弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

遅発一過性徐脈が複数回発生しかつ基線細変動の状態にも異常が生じているときの注意義務 名古屋地裁平成26年9月5日判決

名古屋地裁平成26年9月5日判決(裁判長 朝日貴弘 判時2244号65頁)は、「遅発一過性徐脈と評し得る徐脈が複数回発生し、かつ、基線細変動の状態にも異常が生じていることに照らすと、被告病院の助産師及び甲野医師は、遅くともこの時点で原告Aの胎児機能不全を疑い、少なくとも母体の体位転換、陣痛促進剤の投与停止をまず行い、並行して急速遂娩の準備を行うべき注意義務があった」、「母体の体位変換や陣痛促進剤の投与停止等により原告Aの状態が改善しない場合には、被告病院の助産師及び甲野医師としては、15時45分頃の時点において、急速分娩の処置をとるべき注意義務があった」と認定しました.
平成20年の事故ですが、遅発一過性徐脈が複数回発生しかつ基線細変動の状態にも異常が生じているときの注意義務の参考になります.
なお、これは私が担当した事件ではありません.

「(3) 15時40分頃の注意義務違反

原告は、15時40分頃から、基線細変動の減少ないし消失を伴う高度遅発一過性徐脈が現れてきたのであるから、被告病院の助産師及び甲野医師は、いかに遅くとも、この時点で、母体の体位転換、陣痛促進剤の投与停止をまず行い、並行して急速遂娩の準備を行うべき注意義務があったと主張する。
≪証拠略≫によれば、15時43分頃及び15時45分頃に遅発一過性徐脈と評価し得る徐脈が認められる。その時点における基線細変動であるが、基線を読むためには、本来、一過性変動の部分を除き、その部分が少なくとも2分以上続かなければならないところ(前提事実(3)ア(ア))、15時40分頃の原告Aの胎児心拍数図においては、一過性変動の部分を除いて2分以上続いている部分がなく、正確に基線を読むことができないほどに徐脈が頻発しているということができる。そして、その波形の様子は、15時40分までのものとは様相が異なり、明らかに振幅の程度が減少している。このように、遅発一過性徐脈と評し得る徐脈が複数回発生し、かつ、基線細変動の状態にも異常が生じていることに照らすと、被告病院の助産師及び甲野医師は、遅くともこの時点で原告Aの胎児機能不全を疑い、少なくとも母体の体位転換、陣痛促進剤の投与停止をまず行い、並行して急速遂娩の準備を行うべき注意義務があったと認めるのが相当である。

これに対し、小谷意見書には、「徐脈の出現だけでなく基線細変動の評価が胎児の状態を評価するには重要であり、」「基線細変動は正常であり、この時点では胎児のwell-beingが障害されているとは断定できない」との記載及び15時40分頃に酸素投与が開始されたことは適切な対応であった旨の記載がある。確かに、原告Aの出生後に発行されたものではあるが、ガイドライン2011にも、遅発一過性徐脈の出現のみで胎児のWell-beingが障害されていると判断するのではなく、基線細変動の状態と併せて判断する旨が記載されているところである。しかし,他方で前記(2)イ(ア)のとおり、遅発一過性徐脈は基線細変動の状態によらず胎児機能不全と診断されるとの医学的知見が日本産婦人科学会による「産婦人科研修医のための必修知識2007」に記載されており、遅発一過性徐脈は、それだけで直ちに胎児機能不全と診断し得るかどうかは措くとしても、その出現自体が胎児機能不全の発生について十分に警戒すべき重要な徴表であるということができる。そして、前記のとおり、15時40分頃以降の原告Aの胎児心拍数図には、2分以上続いている基線部分の消失、徐脈の頻発、振幅の程度の減少など、15時40分までのものとは様相が異なる波形が出現していたものであるから、これらの波形異常と遅発一過性徐脈の出現を併せ考慮すると、酸素投与のみでは不十分であったと認められるのが相当である。なお、小谷友美医師は、基線の細変動は徐脈が回復して基線が読めるところで評価するところ、その部分には6bpm以上の振幅が認められる旨証言するが、前記のとおり、遅発一過性徐脈の出現後、徐脈から回復した部分には、正確な基線が読み得るほど継続している部分がないのであって、僅かな部分に基線の振幅が認められるからといって、基線細変動が正常であるということはできない。したがって、小谷意見書の上記記載を採用することはできない。

(4) 15時45分頃の注意義務違反

原告は、15時45分頃には、基線細変動の減少を伴う2回目の遅発一過性徐脈が出現していたのであるから、被告病院医師は、遅くとも、この時点で、急速遂娩(緊急帝王切開)を実施すべき注意義務があったと主張する。
15時40分頃から15時45分頃の所見に照らし、被告病院の助産師及び甲野医師には、母体の体位転換、陣痛促進剤の投与停止をまず行い、並行して急速遂娩の準備を行うべき注意義務があったというべきことは、上記認定のとおりである。そして、母体の体位変換や陣痛促進剤の投与停止等により原告Aの状態が改善しない場合には、被告病院の助産師及び甲野医師としては、15時45分頃の時点において、急速分娩の処置をとるべき注意義務があったと認めるのが相当であり、また、そのような処置を行うことも十分可能であったというべきである。」


同判決は、「被告病院の助産師及び甲野医師が、15時45分頃の時点で、適切に原告Aの胎児心拍数図等を監視し、母体の体位転換、陣痛促進剤の投与停止をまず行い、並行して急速遂娩の準備を行い、状態が改善しない場合には急速分娩に踏み切るという注意義務を果たしていれば、15時45分に近接した時間において原告Aの上記胎児機能不全は解消された高度の蓋然性があるというべきである。被告病院の助産師及び甲野医師が上記注意義務を怠った結果、原告Aは、16時36分に出生するまで約48分間胎内で胎児機能不全の状態に置かれていたというべきであり、この間に原告Aの脳性麻痺が発症したと推認するのが相当である。」と判示し、因果関係を認めました.

「6 争点(5)(因果関係)について

(1) 本件においては、15時45分頃の時点で原告Aの胎児機能不全を示す所見が見られることは上記認定のとおりであり、原告Aは、そのころから胎児機能不全の状態に陥っていたと認められる。
そして、被告病院の助産師及び甲野医師が、15時45分頃の時点で、適切に原告Aの胎児心拍数図等を監視し、母体の体位転換、陣痛促進剤の投与停止をまず行い、並行して急速遂娩の準備を行い、状態が改善しない場合には急速分娩に踏み切るという注意義務を果たしていれば、15時45分に近接した時間において原告Aの上記胎児機能不全は解消された高度の蓋然性があるというべきである。
被告病院の助産師及び甲野医師が上記注意義務を怠った結果、原告Aは、16時36分に出生するまで約48分間胎内で胎児機能不全の状態に置かれていたというべきであり、この間に原告Aの脳性麻痺が発症したと推認するのが相当である。

(2) 被告は、原告Aの臍帯血pHが7.121であり、基準を満たさないことから、原告Aの脳性麻痺は分娩を原因とするものではないと主張する。
しかしながら、本件の臍帯動脈血のpHは7.121と基準値の7.0を上回っているが、これ自体、数値としては低い値であり、また、不足塩基量は13.7と基準値の12を大きく上回っている。また、挿管後の血液ガス分析検査でpHは6.894と基準値である7.0を下回っている。
以上のことからすれば、原告Aの臍帯血phが7.121であることのみをもって、被告病院の助産師及び甲野医師の注意義務違反と原告Aの脳性麻痺との因果関係が否定されるものではない。

(3) 被告は、原告AのMRI画像には短期間の受傷の場合に見られるプロファウンド型仮死の所見が全く見られないから、原告Aの脳性麻痺は分娩を原因とするものではないと主張する。
しかしながら、上記認定のとおり、原告Aの脳性麻痺は、約48分間胎児機能不全の状態に置かれていたことに起因するものと推認されるのであるから、臍帯切断等の短期間に受傷したものということはできず、原告AのMRI所見とは矛盾しないものであって、上記被告主張は採用することができない。」


谷直樹

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by medical-law | 2022-02-10 15:01 | 医療事故・医療裁判