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脳出血と脳梗塞を発症しているもやもや病の小児に頭痛や嘔吐,嘔気が継続しているとき脳室ドレナージなどの頭蓋内圧亢進の管理を行うべき注意義務 名古屋地裁平成29年8月2日判決

名古屋地裁平成29年8月2日判決(裁判長 末吉幹和)は,もやもや病による脳室内出血などにより被告病院に入院した当時7歳の女児が死亡した事案で,もやもや病である上,脳出血と脳梗塞を発症していることから,頭蓋内圧が亢進することを想定して管理すべきであり,痙攣を発症した10月23日までに脳室ドレナージなどの頭蓋内圧亢進の管理を行うべき注意義務違反があったと認め,頭蓋内圧亢進の症状である頭痛や嘔吐,嘔気が継続しているにもかかわらず,頭蓋内圧亢進の状況を確認するための処置をしたと認めるに足りる的確な証拠はないことから,注意義務違反を認めました.
もやもや病の小児の管理義務について参考となります.
なお,これは私が担当した事件ではありません.

「2 争点(1)(水頭症,頭蓋内圧亢進の管理に係る注意義務違反の有無)について

(中略)

(2) 10月23日午後5時頃までに脳室ドレナージなどの頭蓋内圧亢進の管理
を行うべき注意義務違反の有無

ア 原告らは,10月19日以降も10月23日までに,頭蓋内圧亢進を示す症状及び画像所見があったのであるから,D医師には,脳室ドレナージなど頭蓋内圧の管理をすべきであったのにこれを怠った注意義務違反があると主張し,これに沿う証拠として,K意見書2がある。

イ まず,K意見書2は,前記認定事実(4)のとおり,Cは,もやもや病のために脳灌流圧が低くわずかな頭蓋内圧亢進でも症状の悪化を招きやすい上,脳出血と脳梗塞を発症していることから,当初は状態が安定していても,脳浮腫の進行に伴って頭蓋内圧亢進を来すことが考えられる状態にあり,脳室内出血による髄液循環障害によって頭蓋内圧が亢進することを想定して管理すべきであったと指摘している。このような指摘は,前記前提事実及び前記認定事実(1)のとおりの一般的医学的知見及びCの診療経過を踏まえたものであるから,Cについて,頭蓋内圧亢進に特に気を付けるべき状態にあり,D医師は,Cについて,10月23日午後5時頃までに頭蓋内圧亢進の管理を行うべき注意義務があったと認められる。

ウ そこで,D医師に上記注意義務違反があったかについて検討するに,前記認定事実(1)ア(エ)のとおり,D医師は,遅くとも,10月19日には,水頭症になれば脳室ドレナージを行う予定としていたことが認められ,同日午前10時3分に,MRI・MRA検査及びCT検査をし,脳梗塞の治療のためにラジカット及びグリセレブ(グリセオールGE)を処方し,10月22日午後1時46分にCT検査を行うなどして,水頭症の罹患を確認するための画像診断をしていたことは認められる。
ところで,証拠(乙A4・4頁,証人D医師・8頁)によれば,G医師及びD医師は,Cが10月18日に入院した当初から頭蓋内圧が亢進している状態で,前記認定事実 のとおり,同日から,頭蓋内圧亢進状態に注意して観察し,頭蓋内圧を亢進させないような管理が重要であると認識していたことが認められる。しかるに,前記認定事実(1)のとおり,その後10月23日に至るまで頭蓋内圧亢進の症状である頭痛や嘔吐,嘔気が継続しているにもかかわらず,頭蓋内圧亢進の状況を確認するための処置をしたと認めるに足りる的確な証拠はない。前記イのとおり,Cは,もやもや病である上,脳出血と脳梗塞を発症していることから,頭蓋内圧が亢進することを想定して管理すべきであり,前記認定事実(2)イのとおり,その管理の方法としては脳室ドレナージも積極的に検討すべきであったところ,頭蓋内圧亢進の症状としても説明可能な頭痛,嘔吐,嘔気が継続して存在していた点に加え,前記(1)のとおり,水頭症の判定基準は満たさないものの側脳室の下角が2mm以上に拡大していた点,前記認定事実(1)のとおり,右大脳の病変に著しい変化が認められないのに10月22日及び10月23日に意識レベルの低下が見られた点並びに10月19日及び10月22日のCT画像上,若干ではあるがミッドラインシフトが見られていた点をも併せ考慮すれば,D医師は,脳室ドレナージを行うか,或いは脳圧モニターを留置して頭蓋内圧を測定するなどして,頭蓋内圧の亢進を管理すべき注意義務があったというべきであり,水頭症になったかどうかについて留意していたというD医師の診察では不十分であったといわざるを得ない(K意見書2)。

エ 以上によれば,D医師に,10月23日午後5時頃までに脳室ドレナージなどの頭蓋内圧亢進の管理を行うべき注意義務 違反があったと認められる(以下「本件注意義務違反」という。)。」


被告は,広範な脳梗塞が痙攣発作よりも先に発症していた可能性を主張しましたが,同判決は,広範な脳梗塞が痙攣発作よりも先に発症していたことを裏付ける客観的な証拠はないとし,因果関係を認めました.
因果関係についての立証責任が原告にあるといっても,被告が証拠に基づかない単なる可能性を主張しただけでは原告の立証を覆したことになりません.

「3 争点(3)(因果関係)について

前記前提事実(2)シのとおり,Cの死因は,10月24日午前11時10分に行ったCT検査によって確認された広範な脳梗塞であると認められる。そして,前記認定事実(3)のK意見書1によれば,脳灌流圧が低いと脳梗塞が発症しやすくなり,もやもや病患者は脳灌流圧が低く,しかも,Cに対する頭蓋内圧亢進について何ら管理がなされなかったことから,脳圧亢進が進行し,これによって脳灌流圧がさらに低下し,頭蓋内圧亢進が進行して,10月23日から痙攣発作が起こり,脳腫脹によって,さらに頭蓋内圧が亢進して広範な脳梗塞となり,死に至った旨の意見が述べられている。上記意見は,Cの症状や診療経過等に照らし,相当な内容と考えられるところ,上記意見によれば,本件注意義務が履行されていれば,広範な脳梗塞が生じるような頭蓋内圧亢進を防ぐことが十分に可能であったというべきであり,10月31日の時点でCが死亡しなかった高度の蓋然性があったと認められる。
したがって,本件注意義務違反とCの死亡との間には因果関係が認められる。

ア これに対し,被告は,Cについて,広範な脳梗塞が痙攣発作よりも先に発症していた可能性もあり,その場合には救命は不可能であると主張し,証人D医師はこの主張に沿う証言をする(証人D医師・19~20頁,28頁)。
しかし,広範な脳梗塞が痙攣発作よりも先に発症していたことを裏付ける客観的な証拠はなく,上記証拠によっても,前記の認定判断を覆すものではない。

イ また,被告は,CTで脳梗塞を確認できるまでには発症から時間的乖離があることから,痙攣を止めて直ちにCTを行ったとしても発症直後の脳梗塞は描出されず,脳梗塞の発症前であれば,CTで頭蓋内圧亢進の所見を確認することができないし,当時,被告病院では,休日夜間にすぐにMRI検査を行える体制になかったので,仮に広範な脳梗塞が痙攣発作よりも後に発症していたとしても,MRIの撮影時には既に広範な脳梗塞による脳の不可逆的変化が完成していた可能性がある と主張し,証拠(乙A4)にはこの主張に沿う記載がなされている。
しかし,既に判示したように,D医師には,Cが痙攣を発症する前である10月23日午後5時頃までに,脳室ドレナージなどの頭蓋内圧亢進の管理を行うべき注意義務があったから,上記被告の主張によっても,前記の認定判断に影響するものではない。」



同判決は,「血行再建術を実施することなどにより長期予後は決して不良ではないものの,運動麻痺は残るかもしれないとされていることからすると,10%の労働能力の喪失を認めるのが相当である」としました.

「4 争点(4)(損害)について

(1) 本件注意義務違反によりCが被った損額及びその額は,次のアないしカのとおり,5525万3146円となるところ,原告らは,相続により,各2分の1の割合(2762万6573円)でこれを承継した。

ア 付添看護費 6万3000円

Cは,本件注意義務違反により,10月23日から同月31日までの9日間入院し,診療録(乙A1)の記載によれば,この間,原告らがCに付き添い,清拭等を行っていたことが認められる。
前記認定事実のとおり,Cは,10月24日以降には,ICUへ入院しており,医療従事者による看護を受けていたと認められるが,本件注意義務違反以降,悪化の一途を辿り,10月31日に死亡することに至ったことを考慮すれば,原告らの付添いは必要であったと認められる。そして1日当たりの付添看護費は7000円が相当であるから,付添看護費は6万3000円となる。

イ 入院雑費 1万3500円
前記アのとおり,Cは,本件注意義務違反により9日間の入院を要したところ,入院雑費は,日額1500円が相当であるから,1万3500円(1500円×9)となる。

ウ 葬儀関係費 150万円
Cは,本件注意義務違反により死亡するに至っているから,葬儀関係費も損害と認められるところ,その額としては150万円が相当である。

エ 逸失利益 3151万6646円
Cは,死亡当時7歳であったから,平成23年全労働者平均賃金である470万9300円を基礎収入とするのが相当である。もっとも,K意見書1によれば,血行再建術を実施することなどにより長期予後は決して不良ではないものの,運動麻痺は残るかもしれないとされていることからすると,10%の労働能力の喪失を認めるのが相当である。
また,生活費控除率については30%とするのが相当であり,就労可能期間を18歳から67歳までとするのが相当であるから,ライプニッツ係数は10.6229となる(60年(67-7)のライプニッツ係数18.9293-11年(18-7)のライプニッツ係数8.3064)。
したがって,Cの逸失利益は3151万6646円(470万9300円×0.9×0.7×10.6229)となる。

オ 入院慰謝料 16万円
Cは,9日間入院しているから,入院慰謝料としては16万円が相当である。

カ 死亡慰謝料 2200万円
すでに認定したようなCに対する治療内容や経過,本件注意義務違反の内容,Cの死亡時の年齢等を考慮すると,死亡慰謝料としては2200万円が相当である。

(2) 原告ら固有の慰謝料 各250万円
Cは,原告らの娘であるから,本件注意義務違反により,原告らも精神的苦痛を被ったことが認められるところ,すでに認定した事実に照らすと,原告ら固有の慰謝料としては各250万円が相当である。

(3) 上記 及び によれば,原告らの損害額は,各3012万6573円となる。

(4) 弁護士費用 各300万円
原告らは,本件訴訟を訴訟代理人弁護士に依頼しているから,弁護士費用も本件注意義務違反によって生じた損害と認められるところ,本件訴訟の内容や経過等に照らせば,弁護士費用としては各300万円が相当である。

5 結論
以上によれば,原告らは,被告に対し,民法715条に基づき,それぞれ3312万6573円の損害賠償と平成23年10月31日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の限度で請求することができる。」


谷直樹

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by medical-law | 2022-02-13 17:02 | 医療事故・医療裁判