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弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

常位胎盤早期剥離を疑って必要な措置を採るべき注意義務 徳島地裁平成30年7月11日判決

徳島地裁平成30年7月11日判決(裁判長 川畑公美 医療判例解説81巻83頁)は,常位胎盤早期剥離により胎児が死亡しまた妊婦も重体に陥った事案で、1409万7560円の損害賠償を認めました.
異常胎児心拍パターンがあると同時に、腹部の張り、性器出血及び子宮収縮といった切迫早産様の症状があったことから、「産婦人科ガイドライン-産科編2011」等を根拠に、「原告花子について常位胎盤早期剥離であることを疑い、異常胎児心拍パターンの原因検索のための鑑別診断をすべく、直ちに、ウテメリンの投与中止、分娩監視装置の装着及び胎児心拍数陣痛図の判読の継続、腹部超音波検査、血液検査又は高次医療機関への転送といった措置を採るべき義務があった」と認定しました.
胎児心拍異常と切迫早産様の症状があった場合に常位胎盤早期剥離を疑うべき注意注意義務を確認した判決です.
なお、これは私が担当した事件ではありません.


「3 争点(1)イ(3月13日午後n時16分の時点における過失)について
  
① 証拠(略)、鑑定の結果及び弁論の全趣旨によれば、本件胎児の胎児心拍数基線は、午後10時50分から午後11時15分にかけて150bpmであり、基線細変動は減少し、正常脈高度遅発一過性徐脈であったことが認められる。
 これに対し、前記認定事実(6)のとおり、A医師は、誤って、本件胎児の胎児心拍数基線が約130bpmで,基線細変動もないと判読したものである。

(2)本件NST2の胎児心拍数陣痛図の判読は、本件NST1のものとは異なり、胎児心拍数の大きな変動もなく、その他判読が困難となる事情もなく、一般産婦人科医師においても本件胎児の胎児心拍数基線を150bpmと判読することが十分に可能であり(鑑定書)、看護師も本件NST2により、遅発一過性徐脈であることを疑っていたこと(前記認定事実(6))をも考慮すれば仮に高度遅発一過性徐脈との判読は困難であったとしても、A医師において、少なくとも異常胎児心拍パターンが存在しているとの判読は可能であったといえる。
 そして、本件ガイドラインによれば、異常胎児心拍パターンがあると同時に、性器出血、子宮収縮、下腹部痛といった切迫早産様の症状がある場合には常位胎盤早期剥離を疑い鑑別診断をすべきであるとされるところ、原告花子には、腹部の張り、性器出血及び子宮収縮といった切迫早産様の症状(前記認定事実(1)、(2))があったのであるから、A医師は、遅くとも3月13日午後11時16分の時点において、原告花子について常位胎盤早期剥離であることを疑い、異常胎児心拍パターンの原因検索のための鑑別診断をすべく、直ちに、ウテメリンの投与中止、分娩監視装置の装着及び胎児心拍数陣痛図の判読の継続、腹部超音波検査、血液検査又は高次医療機関への転送といった措置を採るべき義務があったというべきである。しかるに、A医師は、最も容易になしうる分娩監視装置の装着等の継続すら行うことなく、再び同装置を取り外し、その他上記のいずれの措置も講じることがなかったものであるから、A医師には、上記義務を怠った過失があるといわざるをえない。
  
(3)この点につき、被告は、当時の医療水準からすれば、A医師が、本件NST2の胎児心拍数陣痛図から胎児心拍数基線を130bpmと判読したこともやむをえず、また、原告花子から常位胎盤早期剥離の典型的症状である下腹部痛の訴えもなかったなどと主張する。
 しかし、本件NST2の胎児心拍数陣痛図の胎児心拍数基線を130bpmとは判読し難いうえ、本件NST1についてさえA医師は遅発一過性徐脈を疑っていたこと(前記認定事実(2))をも考慮すれば、本件NST2の胎児心拍数陣痛図における胎児心拍数基線が130bpmであると判読したことをやむをえなかったものということはできない。
 また、下腹部の症状やこれに関する妊婦の訴えについては、個人差が大きく一様ではないこと(鑑定書)や、原告花子が下腹部痛とも捉えることができる腹部の張りを訴えていたことからすれば、仮に原告花子から明確に下腹部痛の訴えがなかったとしても、常位胎盤早期剥離の鑑別診断を行わなくても良かったということはできない。
 したがって、被告の上記主張はいずれも採用することができない。」


同判決は、
①午後11時15分頃の時点で 本件胎児の基線細変動は減少の状態であったものの、基線緇変動が消失するには至らず、正常脈高度遅発一過性徐脈であることから、同時点において本件胎児は生存しており、かつ死亡直前であった可能性は低いこと、
②救急搬送の要請を受けてからW病院に到着するまで約17分であること、
③胎児健常性に問題があり急速遂娩となる場合は搬送先の医療機関において速やかに分娩措置がとられること、
④胎盤剥離の発症から胎児胎盤娩出までが5時間以内であれば母体予後は良好であることが多いこと
から、午後11時16分の時点で常位胎盤早期剥離が発症していることを疑い、異常胎児心拍パターンの原因検索のための鑑別診断を行っていれば、本件胎児が生存したまま娩出される高度の蓋然性があったと認定し、因果関係を認めました.
常位胎盤早期剥離の事案ではとくに因果関係が問題とされることが多いので、参考になります.

「4 争点②(過失と本件胎児死亡との間の因果関係)について

 前記3(1)のとおり、3月13日午後11時15分頃の時点において、本件胎児の基線細変動は減少の状態であったものの、基線緇変動が消失するには至らず、正常脈高度遅発一過性徐脈であることから、同時点において本件胎児は生存しており、かつ死亡直前であった可能性は低いといえる(鑑定書)。これに、本件医院から原告花子の救急搬送の要請を受けてからW病院に到着するまで約17分であることや、胎児健常性に問題があり急速遂娩となる場合は搬送先の医療機関において速やかに分娩措置がとられること(鑑定書)、胎盤剥離の発症から胎児胎盤娩出までが5時間以内であれば母体予後は良好であることが多いとされているところ、本件胎児及び胎盤の娩出は14日午前7時6分から同8分にかけてであり、かつ原告花子の予後は良好であったこと(前記認定事実(8))などをも考慮すれば、A医師が、同日午後11時16分の時点で常位胎盤早期剥離が発症していることを疑い、異常胎児心拍パターンの原因検索のための鑑別診断を行っていれば、本件胎児が生存したまま娩出される高度の蓋然性があったと認められる。
 よって、A医師の過失と本件胎児の死亡との間には因果関係が認められる。」


谷直樹

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by medical-law | 2022-02-18 02:21 | 医療事故・医療裁判