弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

陣痛促進剤の能書に記載された使用上の注意事項に従わなかった過失と胎児仮死との間の因果関係 前橋地裁平成15年2月7日判決

前橋地裁平成15年2月7日判決(裁判長 東條宏)は,「少なくともプロスタグランジンE2を投与する前に原告Aが仮死となった可能性は極めて低く,他方,娩出時に原告Aが仮死状態であったことは明らかであるが,更にどの時点で仮死状態となったかについてまでは特定できない。」ことから,因果関係認定がとくに問題になりますが,「薬剤による分娩誘発は,一般論として,リスクとなる要因を含んでおり,特に,薬剤により誘発・促進された子宮収縮は時に過強となる危険性を伴うことがあって,このような状態にさらされた胎児が分娩時に仮死となることもある」ことから,「他に特段の事情が認められない限り,薬剤(プロスタグランジンE2及びプロスタグランジンF2α)の過剰投与による過強陣痛により,原告Aの仮死が生じたものと認めるのが相当といえる」とし,「本件において,過強陣痛以外の事情で仮死の原因として考慮すべきものとしては,母胎の体重増加が正常の範囲を超えている(妊娠前(約65キログラム)から分娩時(約80キログラム)にかけて約15キログラム体重が増加していた)ことくらいであって(鑑定の結果),結局のところ,上記①ないし③のような特段の事情が生じたものと認めることはできない」と認定し,因果関係を認めました.

分娩監視装置を用いたとしても,原告Aの仮死を防ぐことができたとはいえないという被告らの主張は,「7時30分ころから23時ころにかけての原告Aに関する胎児心拍などの情報の不足は,被告Dが分娩監視装置などによる十分な分娩監視をしていなかったためであり,その結果胎児仮死などの徴候が認められなかったとしても,それは被告Dの義務懈怠によって生じたものでしかなく,このような事態を当の被告Dの不利益にではなく,患者側である原告らの不利益に帰することは,条理にも反する」として,退けました.
陣痛促進剤使用について参考となる判決です.
なお,これは私が担当した事件ではありません.

「3 争点2(原告Aが仮死状態となった時点)について

(1) 被告らは,原告Aが娩出過程又は娩出と同時に仮死状態になったものであり,新生児仮死であったと主張して,上記被告Dの過失と原告Aの仮死との間の因果関係を争うかのようである。

(2) 被告Dの過失と原告Aの仮死との間の因果関係については,鑑定の結果によれば以下のとおりと認められる。

ア まず,少なくともプロスタグランジンE2を投与する前に原告Aが仮死となった可能性は極めて低く,他方,娩出時に原告Aが仮死状態であったことは明らかであるが,更にどの時点で仮死状態となったかについてまでは特定できない。

イ ところで,胎児仮死あるいは新生児仮死については未解明の点も多数あるが,一般的に以下のような事情が影響を与える可能性があるといわれている。
① 妊娠初期の胎芽や胎児の時期に発生した異常・障害
② 分娩に伴う非生理的なストレス
③ 妊娠中の母胎と胎児・胎盤の状態
しかしながら,本件では,妊娠中の母胎の状態として,体重増加が正常の範囲を超えている(妊娠前(約65キログラム)から分娩時(約80キログラム)にかけて約15キログラム体重が増加していた。)こと以外は認められない。

ウ これに対し,薬剤による分娩誘発は,一般論として,リスクとなる要因を含んでおり,特に,薬剤により誘発・促進された子宮収縮は時に過強となる危険性を伴うことがあって,このような状態にさらされた胎児が分娩時に仮死となることもある(なお,これらのことは,上記2(3)で指摘した各能書において,繰り返し記載されているところである。)。

エ 特に本件では,上記2(6)で指摘したとおり,被告Dは陣痛促進剤として,プロスタグランジンE2を通常量よりも多く投与した後,引き続いてプロスタグランジンF2αを点滴静注した。

オ そのため,他に特段の事情が認められない限り,薬剤(プロスタグランジンE2及びプロスタグランジンF2α)の過剰投与による過強陣痛により,原告Aの仮死が生じたものと認めるのが相当といえる(なお,上記2(6)エで指摘したとおり,原告Cの分娩に当たり分娩監視装置などによる十分な分娩監視をしなかったという被告Dの注意義務の懈怠により生じた7時30分ころから23時ころにかけての原告Aに関する胎児心拍などの情報の不足については,被告Dの不利益に帰すこととする。)。

(3) なお,この点について,鑑定人Fは,鑑定書において,原告Aの仮死の原因として,過強陣痛による可能性を除外できないが,それ以外の原因を考慮すべきと考えるとも指摘する。確かに,上記(2)イで指摘したような事情を仮死の原因として考慮する必要があることは一般論としてはそのとおりである。
また,被告らは,原告Aの仮死の原因として,以下のようなものが考えられる旨主張し,被告Dは本人尋問においてその旨供述する。
① 臍帯下垂(臍緒が垂れ,娩出直前に胎児を圧迫すること)
② 胎児期から中枢神経の構造異常があり,脳幹部の周辺が娩出時の環境の変化により発現し,新生児仮死となった。娩出時は胎児にとってかなり大きな衝撃であり,環境の変化である。
③ GBS(B群溶血性連鎖球菌)への感染
しかしながら,本件において上記①ないし③の事態が生じたものと認めるに足りる客観的な証拠は何もない。確かに原告CはGBSに感染していたが,分娩時までに治療済みであって(甲10),その後再感染したことを疑わせるような事情は存在しない。
本件において,過強陣痛以外の事情で仮死の原因として考慮すべきものとしては,母胎の体重増加が正常の範囲を超えている(妊娠前(約65キログラム)から分娩時(約80キログラム)にかけて約15キログラム体重が増加していた)ことくらいであって(鑑定の結果),結局のところ,上記①ないし③のような特段の事情が生じたものと認めることはできない。

(4) したがって,一般論としてはともかく,本件においては,特段の事情は認められず,被告Dの過失と原告Aの仮死との間に因果関係があるものと認めるのが相当である。

4 以上の認定及び判断によれば,被告Dは,原告らに対し,自己の診療行為に関する不法行為責任(民法709条)を免れず,また,被告法人も,原告らに対し,被告法人の代表者である被告Dの職務である診療行為に関する過失による不法行為責任(医療法68条,民法44条1項)を免れず,したがって,被告らは,原告らに生じた損害を連帯して賠償する責任を負うものというべきである。」


谷直樹

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by medical-law | 2022-02-20 02:35 | 医療事故・医療裁判