イレウスを念頭においた鑑別診断(扼性イレウスであるか否か)及び治療を怠った過失と死亡との間に因果関係 仙台地裁平成22年5月24日判決
これは私が担当した事件ではありません.
「5 争点(4)(因果関係)についての検討
(1) 検討
被告医師が,遅くとも回診時においてAの症状からイレウスを疑い,鑑別診断のために腹部CT検査ないし超音波検査を行っていれば,絞扼性イレウスであることを発見できた可能性が高いことは上記4(2)で認定説示したとおりである。
そして,上記2(7)で認定したとおり被告病院では緊急手術を行う体制が整っていたことからすれば,検査結果の評価,外科手術の準備等を全て含めたとしても,回診時から3時間程度の時間があれば緊急開腹手術を実施することが可能であったと推認される。
そうであれば,被告病院としては,回診時から3時間が経過した6月13日18時30分頃にはAの緊急開腹手術を行うことが可能であったと考えられるところ,上記1で認定した診療経過のとおり同日16時の時点では体動が活発に認められ,同日20時の時点においても起きあがり動作が見られるとともに,担当看護師も特段の異常を確認していないことからすれば,少なくとも同日18時30分の時点で,Aが致命的なショック状態に陥っていたとは認められない。
そして,上記3(7)で認定した医学的知見に照らせば,仮に,同日18時30分の時点で腸管壊死が始まっていたとしても,術後に何らかの障害が残るか否かは別として,少なくとも手術によってAを救命することが可能であった高度の蓋然性を認めることができる。
(2) 被告の主張についての検討
これに対し,被告は,6月13日20時以降の夜間帯に絞扼性イレウスが急速に発症したことから救命可能性が認められないと主張するところ,上記3(7)で認定した医学的知見によれば絞扼性イレウスは発症から24時間以内に死亡することは稀であることに照らして上記主張は不自然であることは否定できない。加えて,被告の上記主張は筋性防御や腹部膨満が見られなかったことを主たる根拠としているところ,そもそもこれらはその有無の判断が分かれうる症状であり,また,イレウスに必発する所見でもないことは上記4(4)で認定説示のとおりである。
なお,被告は,上記主張に沿う己病院外科E医師の意見書(乙B10号証)を提出するところ,同意見書は,病理解剖結果(乙A6・17頁)から中腸軸捻転が急速に進行したために短時間で心肺停止になったと判断されることを根拠としてAの救命可能性を否定している。しかし,病理解剖結果には中腸軸捻転が急速に進展したことを示す直接的な記載は存在しないことに加え,上記意見を裏付ける医学的知見も提出されていないことに鑑みれば,少なくとも上記意見が上記(1)での認定説示を左右するだけの説得力を持つか否かについては疑問の余地が残る。
以上の検討によれば,被告の上記主張は採用することができない。
(3) 総括
以上から,被告医師の遅くとも回診時において,イレウスを念頭においた鑑別診断及び治療を怠った過失と,Aの死亡との間には因果関係が認められる。」
谷直樹
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