PTCDチューブからの胆汁のドレナージ量が十分となるような措置をとるべき注意義務 大阪地裁平成14年9月26日
同判決は,「7月19日にBに対して,Eの状態が汎発性腹膜炎で先行きについて良くないことの説明をしておらず,また,当日の対処方針も当初の開腹手術からチューブによるドレナージに変更し,これに応じて説明内容も一貫しなかったことがうかがわれるものであり,Eの病状説明として不十分であったと認めることができる。」と判示し,病状についての説明義務違反を認定しました.
なお,これは私が担当した事件ではありません.
「(2) Dの治療上の過失
経皮経肝的にドレナージをしている場合には,PTCDチューブの逸脱による胆汁性腹膜炎発症の危険性は,当該術法を記した文献に必見の記載であり(甲3の1,甲3の2,甲5,甲6,乙6),日生病院の看護計画でも,繰り返し記載されいる(乙4・120頁[内科],128頁[外科])。
しかるに,Dは,前記判示のとおり,Eが7月3日の手術以降,ドレナージ量が減少し,同月14日には,血液検査結果が悪化しており,同月15日にはステント留置が失敗してPTCDチューブを肝外に留置してドレナージができておらず,同月18日には重篤な感染状態であるとの検査結果を得ていたものである。
したがって,Dは,同月3日以降にPTCDチューブからの胆汁のドレナージ量が十分となるような措置をとるべき注意義務があり,また,同月15日以降については,感染症を軽減するための治療をすべき注意義務があったというべきである。
にもかかわらず,Dは,7月3日以降にPTCDチューブからのドレナージ量が十分でないことについて,同月15日にステント留置するまで何ら治療行為を行っていない。また,Dは,同月18日に生化学検査,血液検査の結果を踏まえて輸液の変更などの措置をとっていたものの,同月18日にはまだ限局性の胆汁性腹膜炎と認識して感染症の対策はとらず,同月15日以降の胆汁性腹膜炎に対して抗生物資の投与,外科的術法の実施などの必要な措置を講じていないものである。
前記判示のとおり,Eは,同月15日までは胆汁性腹膜炎を発症していないのと認められるから,同月15日以前にドレナージ量が500ミリリットルとなるように管理をすれば,細菌感染を防ぐことができたものであり,相当高度の蓋然性をもって救命することができたものと推認できる。また,前記判示のとおり,同月18日に至るまでは,胆汁性腹膜炎は未だ限局的であったと認められるので,同月15日以降の腹膜炎発症については,早期であれば抗生物質の投与等による感染対策をとることで,また,18日以前であれば,感染源となった胆汁のドレナージをすることでその後の腹膜炎の増悪を防止できるから,高度の蓋然性をもって救命することが可能であったと推認できるものである(鑑定書・6頁,回答書・14頁,甲1・672頁,甲3・761頁,乙6・224頁から225頁)。
しかし,Dは,いずれの措置もとらず,その結果,Eは,7月15日には胆汁性腹膜炎を,同月17日は汎発性胆汁性腹膜炎を発症して,同月20日にショック死したものである。
したがって,Dは,上記注意義務違反によりEを死亡させたものであると認めることができる。
(3) 被告らの主張について
ア 被告らは,7月15日までは,PTCDチューブは先端が胆管にあり,側孔も肝内にあったので,胆汁が腹腔内漏出することなく,十分にドレナージもできており,7月15日に胆汁性腹膜炎を発症していなかったと主張する。
しかし,前記認定のとおり,7月3日以降ドレナージ量は半減し,また,同月17日以降,ほとんどドレナージされなくなっていたこと,証拠(乙28)によれば,逸脱したPTCDチューブからドレナージされることもあると記載されているに過ぎず,本来は胆管内に挿入されていてなければならないものであることが認められる。したがって,被告主張のPTCDチューブの先端が胆管にあり,側孔が肝内にあったとしても,7月15日以前にPTCDチューブは逸脱をして,ドレナージが十分になされなくなったとともに,胆汁が腹腔内に漏出していたこと,及び,7月15日には胆汁性腹膜炎を発症していたことを認めることができるから,7月3日以降のPTCDチューブの管理にDの過失がなかったものとは認めることができない。
イ 次に,被告らは,7月17日のCT検査の結果,腹膜が癒着して腹腔内のスペースが限局され限局性腹膜炎にとどまるとDは診断したものであるから,Dに過失はないと主張する。また,被告らは,7月17日の時点では,十分な肝内胆管の拡張がないため医学的にPTCDチューブの再装着は不可能であったと主張する。
しかし,前記判示のとおり,7月17日の深夜には腹痛は下腹部全体に拡がっていたこと,7月18日の血液検査の結果では,白血球数が正常値よりも低下する著減を示すなど症状の悪化を示していたのであるから,7月17日のCT造影において,限局した胆汁性腹膜炎であると読影できるとしても,他の臨床所見,検査結果を踏まえて総合的に見れば,7月18日には汎発性腹膜炎を発症していたことを認識することができたものであり,Dの過失が否定されるものではない。
また,前記判示のとおり,7月3日の手術以降,PTCDチューブからのドレナージ量は半減していたのであるから,Dは,7月3日以降同月15日に至るまでにPTCDチューブの再装着をすべきであり,7月17日の時点のことを問題とする被告の主張には理由がない(なお,証拠(乙4)によれば,D医師は,7月16日のカルテに「CTみてPTC-redo【再試行】来週ask【依頼】」との記載をしており(乙4・19頁),DがPTCDチューブの再挿入を行わなかったのは,CTの造影写真による診断をした結果であるかは疑問がある。)
ウ また,被告らは,Dが7月15日,Eにステント留置後のPTCDチューブ再挿入を申し入れをしたのに,Eから拒否されたもので,同月19日には再挿入のための手術を予約しており,Dに過失はないと主張する。
しかし,前記判示によれば,Dは,同月15日ステント留置が失敗した後も再挿入したPTCDチューブからのドレナージができると判断していたものである。このように,Dは,PTCDチューブが抜けたことによる感染の危険性があって,場合によって死に至るとの認識を欠いたまま,Eに対してステント留置失敗後のPTCDチューブの再挿入の同意をするように説明したものにすぎない。
したがって,Eとしては,PTCDチューブの再挿入をしないと,胆汁性腹膜炎を起こして死亡する危険性があることを認識せず,また,認識する可能性もなかったものである。
そうだとすれば,Eは,胆汁性腹膜炎を発症する危険を知ってPTCDチューブの再挿入を拒否したものでないから,Dとしては,Eに対して,PTCD再挿入を7月15日にしなければ,胆汁性腹膜炎を発症して,場合により死亡する危険があるなどの事情を説明してEから同意を得られるように求めるべきであって,Dが不十分な認識のままでPTCDチューブの再挿入の必要性を説明し,Eがこれを承諾しなかったとしても,Dは術後管理に関する注意義務を免れるものではないと解される。
エ さらに,被告らは,7月18日に輸液の変更等の措置をとっており,Eがショックとなったのは突然の出来事であって,予見できなかったと主張する。しかし,Dの措置は,汎発性腹膜炎を前提とした措置でないことは前記判示のとおりであり,Eがショックになったことを予見できなかった点についても,汎発性腹膜炎を発症したことを的確に診断しておれば,上記医学的知見によれば,十分にショックになることも予見できたものである。
オ 以上のとおり,被告らの主張はいずれも採用できない。
(4) したがって,Dは,前記(2)の注意義務に違反してEの死亡の結果を生じさせたものであるから,Eに対して不法行為に基づく損害賠償責任を負うものである。
4 争点3(Dの説明義務違反)について
(中略)
「ウ さらに,原告らは,7月19日,Bに対して,Eが重篤であることを説明すべきであったのにもかかわらず,説明しなかったと主張している。
上記認定事実のとおり,Dは,7月19日にBに対して,Eの状態が汎発性腹膜炎で先行きについて良くないことの説明をしておらず,また,当日の対処方針も当初の開腹手術からチューブによるドレナージに変更し,これに応じて説明内容も一貫しなかったことがうかがわれるものであり,Eの病状説明として不十分であったと認めることができる。
したがって,Dは,Bに対して,Eの病状を説明すべき義務があったのに十分に説明しなかったものであると認めることができる。」
谷直樹
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