急性大動脈解離を疑って転送すべき注意義務 名古屋地裁平成16年6月25日判決
同判決は,「動脈解離は,18日午前10時ころ,心臓側に伸展し,心タンポナーデなどの致命的な合併症を併発したものと推認できる。」と判示し,「17日中に転送されていたとすれば,18日午前10時ころには,転送先の医療機関において急性大動脈解離に対する緊急手術が実施されて,Eが救命される蓋然性が高かったものと推認」し,因果関係を認めました.
急性大動脈解離を疑う注意義務について参考となる判決です.
なお,これは私が担当した事件ではありません.
「4 17日における転医義務違反の有無(争点(1)イ)について
前記1(3)ウの認定事実によれば,Eは,17日午後5時ころに外来を再受診した際,右足部が血行障害のため蒼白で,右下腿から腰部にかけての痛みと右足のしびれ感を訴えており,その後もしばらくの間,激しい胸痛などのためにほとんど言葉を発することができないような状態であったのである。そして,前記2で認定したとおり,急性大動脈解離の典型的な初発症状が突然生じる激烈な胸痛などであり,解離の伸展により臓器虚血などが引き起こされること等からすると,17日午後5時ころの外来受診時に,Eは,急性大動脈解離の典型的な症状を示していたものと認められる。
そうすると,F病院においては,大動脈解離の疑いがあると診断した患者は他の病院に転送していたというのであるから(証人G),G医師は,遅くとも17日中には,Eを急性大動脈解離の手術が可能である医療機関に転送すべき注意義務があったというべきである。
よって,本件においてEを転送しなかったG医師には,上記の診療上の注意義務を怠った過失があるといわざるを得ない。
この点,被告は,17日午後5時ころの外来受診の後,Eは胸部痛などが治まり血行障害が改善されており,かかる症状の変化から一般外科医が大動脈解離と診断することはできず,かえってG医師は,Eが交通事故によって何らかのショック症状を来したものと考えた旨主張する。しかし,上記外来受診時のEの症状については,鑑定においても,「再解離(解離の伸展)が生じた場合の典型的な症状があった。」「17日から18日にかけての症状の変化で急性解離を疑わなかったことは,初歩的なミスと言われても仕方ないであろう。」などの指摘がなされているところであり,被告が主張するような事実経過等を考慮してもなお,G医師の上記過失を否定することはできない。
5 因果関係(争点(2))について
鑑定の結果及び弁論の全趣旨によれば,Eは,大動脈解離の急激な伸展によって死亡したものと認められ,鑑定において,「心タンポナーデや冠動脈閉塞その他の致命的な症状が出現する前の全身状態が良好なうちに手術が施行できたならば,救命率は少なくとも80パーセント以上であったと考える。」との見解が示されている。
前記1(4)ア,ウで認定した17日から18日の入院診療経過及び鑑定の結果によれば,Eは,18日朝には胸痛などの訴えがなく小康状態であったところ,同日午前10時ころに胸が締めつけられるような感じを訴え,その後胸痛を訴えていることから,Eの大動脈解離は,18日午前10時ころ,心臓側に伸展し,心タンポナーデなどの致命的な合併症を併発したものと推認できる。
そうすると,本件において,遅くとも17日中に,Eを急性大動脈解離の手術が可能な医療機関に転送すべきであったことは前記4のとおりであるから,Eが17日中に転送されていたとすれば,18日午前10時ころには,転送先の医療機関において急性大動脈解離に対する緊急手術が実施されて,Eが救命される蓋然性が高かったものと推認することができ,この推認を覆すに足りる証拠はない。
したがって,前記4認定のG医師の診療上の過失とEの死亡との間には相当因果関係があるというべきであり,G医師の使用者である被告は,不法行為(民法715条の使用者責任)に基づき,G医師の過失と相当因果関係のある原告らの損害を賠償する義務がある。」
谷直樹
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