手術器具等を患者の腹腔内に残置しないようにする注意義務 東京地裁平成24年5月9日判決
東京地裁平成24年5月9日判決(裁判長 森冨義明)は,被告病院の医師らが胃切除手術を受けた患者の腹腔内にタオルを残置し,摘出までの約25年間腹腔内にタオルがあった事案で,「原告の脾臓の背側に本件タオルが存在し,これが脾臓と高度に癒着し,横隔膜(食道裂孔部)及び胃とも癒着していたこと」から,「当該手術に使用する器具等の種類及び数量を術前,術後に確認するなどして,これらを患者の腹腔内に残置しないようにする注意義務」の違反を認め,被告に1102万5186円の支払いを命じました.
タオル摘出の際に癒着していた脾臓も摘出したことにより易感染性,易疲労性が亢進する可能性があることから,13級11号の後遺障害として9%の労働能力喪失率を認めました.
慰謝料は300万円を認めました.
残置事案の損害額について参考となります.
なお,これは私が担当した事件ではありません.
「第3 当裁判所の判断
1 責任原因について
原告の脾臓の背側に本件タオルが存在し,これが脾臓と高度に癒着し,横隔膜(食道裂孔部)及び胃とも癒着していたことは,前記前提事実のとおりである。そして,証拠(甲A12,原告本人)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,本件摘出手術前,本件手術以外に開腹手術を受けたことがないことが認められ,本件タオルは,本件手術の際,原告の腹腔内に残置されたものと推認される。
開腹手術を実施する医師は,当該手術に使用する器具等の種類及び数量を術前,術後に確認するなどして,これらを患者の腹腔内に残置しないようにする注意義務を負うところ,被告病院の医師らが,本件手術の際,原告の腹腔内に本件タオルを残置したことは上記のとおりであって,上記医師らには注意義務違反があったといわざるを得ない。
2 損害について
(1) 診療費等
証拠(甲A3[54],甲C2から4まで)及び弁論の全趣旨によれば,① 原告は,E病院(外科)を受診して,腹部CT検査を受け,その検査料等として3410円の支払をしたこと,② 原告は,平成20年5月8日以降,F病院に入通院し,診療費等として合計2万3600円の支払をし,また,術前,術後に使用する呼吸訓練器(インスピレックス)を代金3150円で購入したことが認められる(以上合計3万0160円)。
なお,証拠(甲C1,2,5)によれば,原告は,Dクリニック及びE病院(泌尿器科)を受診し,血尿に係る診療費等(薬剤費を含む。)として合計8730円の支払をしたことも認められるが,後述のとおり,血尿の症状が本件事故によるものとは認め難く,上記診療費等を本件事故と相当因果関係のある損害と認めることはできない。
(2) 逸失利益
ア 本件摘出手術前
原告は,本件事故により,日常的に下痢の症状が出現するようになって就労が困難になった,また,昭和59年頃からは血便及び血尿の症状が,平成元年頃からは嘔吐の症状が出現するようになった旨の主張をし,① 被告病院を退院した後,日常的に下痢の症状が出現するようになり,平成19年9月頃以降は1日に10回程度下痢の症状が出現したこともあった,② 昭和59年頃からは1年に1,2回の割合で血便及び血尿の症状が出現するようになり,平成元年頃からは嘔吐の症状も出現するようになったなどと,これに沿う陳述及び供述をする。
しかしながら,掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,① 原告の本件手術当時(被告病院入院時)の体重は60kg(乙A2[2]),本件摘出手術前のそれは65kg(甲A3[44])であり,本件手術後,下痢等の症状の出現に伴いその体重が減少した様子は何らうかがわれないこと,② 原告は,C医院等において,下痢及び嘔吐の症状を訴えていないこと(かえって,原告は,平成20年3月5日,血便の症状を訴えてC医院を受診した際,同医院の医師に対し,排便は1日に1回である旨の回答をしている〔甲A6〕。また,原告は,腹腔内に腫瘤が存在する旨の診断を受けた後も下痢の症状を訴えていない上,嘔吐の症状はない旨の回答もしている〔甲A3[20,34,49,53,54,93],甲A5[8]〕。),③ 原告は,本件手術から本件摘出手術までの間,C医院等以外の医療機関を受診していないこと,④ 本件タオルは,脾臓と高度に癒着していたほか,横隔膜(食道裂孔部)及び胃とも癒着していたものの,脾臓以外の臓器,組織等との癒着は,その剥離に特に困難を伴うものではなかったこと,また,本件タオルと大網,大腸,空腸,結腸等との癒着はなく,腎臓にも接していなかったこと(甲A4,乙B2[9,10]),⑤ F病院での大腸内視鏡検査(平成20年5月19日実施)において,大腸粘膜の異常は確認されていないこと(甲A5[24,25]),⑥ 原告は,胃を切除する手術(本件手術)を受けたにもかかわらず,長年,暴食,暴飲を繰り返していたこと(甲A3[50],甲A7[1],乙A2[12],原告本人)が認められる。
かかる事情に照らすと,① 平成20年4月22日の腹部CT検査の結果において,胃が内側に圧排されていることが確認されたこと(甲A8[4]),② F病院の看護記録の生活習慣欄に「便3回/日 下痢」との記載があり,平成20年5月12日欄に「家では下痢だけどここでは硬め」との記載もあること(甲A3[50,54]),③ P教授(以下「P教授」という。)作成の平成23年4月22日付け「私的鑑定書」において,残置された本件タオルによる消化管への刺激,周辺組織への炎症の波及,あるいは腎臓への刺激,炎症の波及により,下痢等の症状や,血尿の症状が出現したと考えられるとされていること(甲B3[2])などを考慮しても,原告の供述するように20年以上も前から就労に支障を来すほどの下痢,嘔吐,血便及び血尿の症状が出現していたと認めるのは困難であるし,仮に出現していたとしても,これらの症状を本件事故によるものとまでいうのは困難である(P教授作成の同年9月21日付け「私的意見書」においても,下痢等の症状に原告の食生活やアルコール摂取が複合的な要因の一つとして一定程度関与していた可能性があることは否定されていない〔甲B6[5]〕。)。
以上によれば,本件摘出手術前につき,原告が本件事故によりその労働能力の一部を喪失したとまで認めることはできない。
イ 本件摘出手術後
原告が本件摘出手術により脾臓を摘出されたことは,前記前提事実のとおりである。
そして,脾臓の摘出により,小児ほどではないにせよ,易感染性,易疲労性が亢進する可能性があることを考慮すると(甲B3[4]),その労働能力喪失率は腹部臓器の機能に障害を残すもの(後遺障害別等級表の第13級11号)として9%,労働能力喪失期間は17年とするのが相当である。なお,原告は,G勤務当時の年収が各年3%の割合で増加した場合の金額である752万1338円を基礎収入額とすべき旨の主張をするが,原告の当時の年収額やこれが上記の割合で増加することを認めるに足りる証拠はないことから,賃金センサス平成20年男性学歴計(45歳から49歳まで)平均賃金である689万3900円を基礎収入額とするのが相当である。
以上によれば,原告の逸失利益は699万5026円(689万3900円〔基礎収入額〕×11.2741〔ライプニッツ係数〕×0.09〔労働能力喪失率〕)となる。
原告は,本件摘出手術後,本件事故による衝撃により,全身に倦怠感が出現し,就労が困難になった旨の主張もするが,① 本件摘出手術後の経過は良好であること(甲A3),② 原告は,解雇後,株式会社Qに入社しコイルの製造ラインのオペレーターとして稼働していること,また,原告自身,本件事故による衝撃から立ち直り,全身の倦怠感も多少改善した旨の陳述をしていること(甲A12),③ 原告は,本件摘出手術前から頚部痛等の神経症状があった旨述べていること(甲A3[55,56])などからすると,脾臓の摘出による易疲労性を超えて,原告の全身に倦怠感が出現したとは認められない。
(3) 慰謝料
前記のとおり,① 被告病院の医師らの過失により,原告の腹腔内に本件タオルが約25年間にわたり残置されたこと(本件事故),② 原告は,本件事故により,平成20年5月9日から同年6月21日まで,F病院に入院したこと,また,原告は,本件事故により,本来必要ではない本件摘出手術を受け,その際,脾臓が摘出されるに至ったことが認められる。かかる事情に加え,原告は,本件摘出手術を受ける際,F病院の医師から,腹腔内に巨大な腫瘤がある旨の説明を受け,それ自体により相当の衝撃を受けたと推認されることなど一切の事情をも考慮すると,原告の本件事故に係る慰謝料は300万円とするのが相当である。
(4) 弁護士費用
本件事案の難易,審理経過,請求額及び認容額等を考慮すると,弁護士費用としては,100万円を本件と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。
3 過失相殺について
被告は,本件において過失相殺をすべきである旨の主張をするが,全証拠によるも過失相殺を相当とする事情はうかがわれず,被告の上記主張は採用することができない。
4 除斥期間,時効について
(1) 民法724条後段所定の除斥期間の起算点は,「不法行為の時」と規定されており,加害行為が行われた時に損害が発生する不法行為の場合,加害行為の時がその起算点となると解するのが相当である(最高裁平成18年6月16日第二小法廷判決・民集60巻5号1997頁参照)。そして,本件については,本件事故の日から本件訴訟の提起まで25年以上が経過しているのであって,不法行為に基づく損害賠償請求権については除斥期間が経過したというべきである。
なお,原告は,除斥期間の起算点は,腹腔内に腫瘤が存在する旨の診断を受けた日である平成20年4月又は同年5月26日以降,若しくは加害行為が終了した日(本件摘出手術の日)の翌日である同月27日である旨の主張をするが,被告病院の医師らが原告の腹腔内に本件タオルを残置することにより加害行為は終了し直ちに損害が発生することに照らすと,原告が腹腔内に腫瘤が存在する旨の診断を受けた日や,本件摘出手術の日が除斥期間の起算点となるとは考えられない。原告の上記主張は,採用することができない。
(2) 被告は,原告の債務不履行に基づく損害賠償請求権につき,時効により消滅した旨の主張をする。
しかしながら,債務不履行に基づく損害賠償請求権の消滅時効は権利を行使することができる時から進行するところ(民法166条1項),ここにいう「権利を行使することができる時」とは,単にその権利の行使につき法律上の障害がないというだけでなく,権利の性質上,その権利行使が現実に期待し得ることをも必要と解するのが相当である(最高裁昭和45年7月15日大法廷判決・民集24巻7号771頁参照)。
そして,原告は,本件摘出手術の実施によって初めて本件タオルの残置を知り,その権利行使を現実に期待し得るようになったのであって,平成20年5月26日以降において債務不履行に基づく損害賠償請求権の消滅時効が進行するものと解されるから,原告が本件訴訟を提起した平成22年5月21日までに消滅時効の期間が経過していないことは明らかである。被告の上記主張は,採用することができない。」
谷直樹
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タオル摘出の際に癒着していた脾臓も摘出したことにより易感染性,易疲労性が亢進する可能性があることから,13級11号の後遺障害として9%の労働能力喪失率を認めました.
慰謝料は300万円を認めました.
残置事案の損害額について参考となります.
なお,これは私が担当した事件ではありません.
「第3 当裁判所の判断
1 責任原因について
原告の脾臓の背側に本件タオルが存在し,これが脾臓と高度に癒着し,横隔膜(食道裂孔部)及び胃とも癒着していたことは,前記前提事実のとおりである。そして,証拠(甲A12,原告本人)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,本件摘出手術前,本件手術以外に開腹手術を受けたことがないことが認められ,本件タオルは,本件手術の際,原告の腹腔内に残置されたものと推認される。
開腹手術を実施する医師は,当該手術に使用する器具等の種類及び数量を術前,術後に確認するなどして,これらを患者の腹腔内に残置しないようにする注意義務を負うところ,被告病院の医師らが,本件手術の際,原告の腹腔内に本件タオルを残置したことは上記のとおりであって,上記医師らには注意義務違反があったといわざるを得ない。
2 損害について
(1) 診療費等
証拠(甲A3[54],甲C2から4まで)及び弁論の全趣旨によれば,① 原告は,E病院(外科)を受診して,腹部CT検査を受け,その検査料等として3410円の支払をしたこと,② 原告は,平成20年5月8日以降,F病院に入通院し,診療費等として合計2万3600円の支払をし,また,術前,術後に使用する呼吸訓練器(インスピレックス)を代金3150円で購入したことが認められる(以上合計3万0160円)。
なお,証拠(甲C1,2,5)によれば,原告は,Dクリニック及びE病院(泌尿器科)を受診し,血尿に係る診療費等(薬剤費を含む。)として合計8730円の支払をしたことも認められるが,後述のとおり,血尿の症状が本件事故によるものとは認め難く,上記診療費等を本件事故と相当因果関係のある損害と認めることはできない。
(2) 逸失利益
ア 本件摘出手術前
原告は,本件事故により,日常的に下痢の症状が出現するようになって就労が困難になった,また,昭和59年頃からは血便及び血尿の症状が,平成元年頃からは嘔吐の症状が出現するようになった旨の主張をし,① 被告病院を退院した後,日常的に下痢の症状が出現するようになり,平成19年9月頃以降は1日に10回程度下痢の症状が出現したこともあった,② 昭和59年頃からは1年に1,2回の割合で血便及び血尿の症状が出現するようになり,平成元年頃からは嘔吐の症状も出現するようになったなどと,これに沿う陳述及び供述をする。
しかしながら,掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,① 原告の本件手術当時(被告病院入院時)の体重は60kg(乙A2[2]),本件摘出手術前のそれは65kg(甲A3[44])であり,本件手術後,下痢等の症状の出現に伴いその体重が減少した様子は何らうかがわれないこと,② 原告は,C医院等において,下痢及び嘔吐の症状を訴えていないこと(かえって,原告は,平成20年3月5日,血便の症状を訴えてC医院を受診した際,同医院の医師に対し,排便は1日に1回である旨の回答をしている〔甲A6〕。また,原告は,腹腔内に腫瘤が存在する旨の診断を受けた後も下痢の症状を訴えていない上,嘔吐の症状はない旨の回答もしている〔甲A3[20,34,49,53,54,93],甲A5[8]〕。),③ 原告は,本件手術から本件摘出手術までの間,C医院等以外の医療機関を受診していないこと,④ 本件タオルは,脾臓と高度に癒着していたほか,横隔膜(食道裂孔部)及び胃とも癒着していたものの,脾臓以外の臓器,組織等との癒着は,その剥離に特に困難を伴うものではなかったこと,また,本件タオルと大網,大腸,空腸,結腸等との癒着はなく,腎臓にも接していなかったこと(甲A4,乙B2[9,10]),⑤ F病院での大腸内視鏡検査(平成20年5月19日実施)において,大腸粘膜の異常は確認されていないこと(甲A5[24,25]),⑥ 原告は,胃を切除する手術(本件手術)を受けたにもかかわらず,長年,暴食,暴飲を繰り返していたこと(甲A3[50],甲A7[1],乙A2[12],原告本人)が認められる。
かかる事情に照らすと,① 平成20年4月22日の腹部CT検査の結果において,胃が内側に圧排されていることが確認されたこと(甲A8[4]),② F病院の看護記録の生活習慣欄に「便3回/日 下痢」との記載があり,平成20年5月12日欄に「家では下痢だけどここでは硬め」との記載もあること(甲A3[50,54]),③ P教授(以下「P教授」という。)作成の平成23年4月22日付け「私的鑑定書」において,残置された本件タオルによる消化管への刺激,周辺組織への炎症の波及,あるいは腎臓への刺激,炎症の波及により,下痢等の症状や,血尿の症状が出現したと考えられるとされていること(甲B3[2])などを考慮しても,原告の供述するように20年以上も前から就労に支障を来すほどの下痢,嘔吐,血便及び血尿の症状が出現していたと認めるのは困難であるし,仮に出現していたとしても,これらの症状を本件事故によるものとまでいうのは困難である(P教授作成の同年9月21日付け「私的意見書」においても,下痢等の症状に原告の食生活やアルコール摂取が複合的な要因の一つとして一定程度関与していた可能性があることは否定されていない〔甲B6[5]〕。)。
以上によれば,本件摘出手術前につき,原告が本件事故によりその労働能力の一部を喪失したとまで認めることはできない。
イ 本件摘出手術後
原告が本件摘出手術により脾臓を摘出されたことは,前記前提事実のとおりである。
そして,脾臓の摘出により,小児ほどではないにせよ,易感染性,易疲労性が亢進する可能性があることを考慮すると(甲B3[4]),その労働能力喪失率は腹部臓器の機能に障害を残すもの(後遺障害別等級表の第13級11号)として9%,労働能力喪失期間は17年とするのが相当である。なお,原告は,G勤務当時の年収が各年3%の割合で増加した場合の金額である752万1338円を基礎収入額とすべき旨の主張をするが,原告の当時の年収額やこれが上記の割合で増加することを認めるに足りる証拠はないことから,賃金センサス平成20年男性学歴計(45歳から49歳まで)平均賃金である689万3900円を基礎収入額とするのが相当である。
以上によれば,原告の逸失利益は699万5026円(689万3900円〔基礎収入額〕×11.2741〔ライプニッツ係数〕×0.09〔労働能力喪失率〕)となる。
原告は,本件摘出手術後,本件事故による衝撃により,全身に倦怠感が出現し,就労が困難になった旨の主張もするが,① 本件摘出手術後の経過は良好であること(甲A3),② 原告は,解雇後,株式会社Qに入社しコイルの製造ラインのオペレーターとして稼働していること,また,原告自身,本件事故による衝撃から立ち直り,全身の倦怠感も多少改善した旨の陳述をしていること(甲A12),③ 原告は,本件摘出手術前から頚部痛等の神経症状があった旨述べていること(甲A3[55,56])などからすると,脾臓の摘出による易疲労性を超えて,原告の全身に倦怠感が出現したとは認められない。
(3) 慰謝料
前記のとおり,① 被告病院の医師らの過失により,原告の腹腔内に本件タオルが約25年間にわたり残置されたこと(本件事故),② 原告は,本件事故により,平成20年5月9日から同年6月21日まで,F病院に入院したこと,また,原告は,本件事故により,本来必要ではない本件摘出手術を受け,その際,脾臓が摘出されるに至ったことが認められる。かかる事情に加え,原告は,本件摘出手術を受ける際,F病院の医師から,腹腔内に巨大な腫瘤がある旨の説明を受け,それ自体により相当の衝撃を受けたと推認されることなど一切の事情をも考慮すると,原告の本件事故に係る慰謝料は300万円とするのが相当である。
(4) 弁護士費用
本件事案の難易,審理経過,請求額及び認容額等を考慮すると,弁護士費用としては,100万円を本件と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。
3 過失相殺について
被告は,本件において過失相殺をすべきである旨の主張をするが,全証拠によるも過失相殺を相当とする事情はうかがわれず,被告の上記主張は採用することができない。
4 除斥期間,時効について
(1) 民法724条後段所定の除斥期間の起算点は,「不法行為の時」と規定されており,加害行為が行われた時に損害が発生する不法行為の場合,加害行為の時がその起算点となると解するのが相当である(最高裁平成18年6月16日第二小法廷判決・民集60巻5号1997頁参照)。そして,本件については,本件事故の日から本件訴訟の提起まで25年以上が経過しているのであって,不法行為に基づく損害賠償請求権については除斥期間が経過したというべきである。
なお,原告は,除斥期間の起算点は,腹腔内に腫瘤が存在する旨の診断を受けた日である平成20年4月又は同年5月26日以降,若しくは加害行為が終了した日(本件摘出手術の日)の翌日である同月27日である旨の主張をするが,被告病院の医師らが原告の腹腔内に本件タオルを残置することにより加害行為は終了し直ちに損害が発生することに照らすと,原告が腹腔内に腫瘤が存在する旨の診断を受けた日や,本件摘出手術の日が除斥期間の起算点となるとは考えられない。原告の上記主張は,採用することができない。
(2) 被告は,原告の債務不履行に基づく損害賠償請求権につき,時効により消滅した旨の主張をする。
しかしながら,債務不履行に基づく損害賠償請求権の消滅時効は権利を行使することができる時から進行するところ(民法166条1項),ここにいう「権利を行使することができる時」とは,単にその権利の行使につき法律上の障害がないというだけでなく,権利の性質上,その権利行使が現実に期待し得ることをも必要と解するのが相当である(最高裁昭和45年7月15日大法廷判決・民集24巻7号771頁参照)。
そして,原告は,本件摘出手術の実施によって初めて本件タオルの残置を知り,その権利行使を現実に期待し得るようになったのであって,平成20年5月26日以降において債務不履行に基づく損害賠償請求権の消滅時効が進行するものと解されるから,原告が本件訴訟を提起した平成22年5月21日までに消滅時効の期間が経過していないことは明らかである。被告の上記主張は,採用することができない。」
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by medical-law
| 2022-02-26 15:29
| 医療事故・医療裁判

