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Rh(D)陰性妊婦の周産期管理 大阪地裁平成17年10月12日判決

大阪地裁平成17年10月12日判決(裁判長 中本敏嗣)は,「産婦人科の医師は,初診の際に妊婦の血液型を確認し,問診及び血液型検査でRhマイナスであることが判明した場合には,定期的に間接クームステストを行うとともに,分娩後は72時間以内にグロブリン250μgを母体に投与すべき注意義務を負うというべきである。」と判示し,それを怠った医師の過失を認めました.
Rh(D)陰性妊婦の周産期管理について参考になります.
なお,これは私が担当した事件ではありません.

「産婦人科診療ガイドライン産科編 2020」の「 CQ008-1 Rh(D)陰性妊婦の取り扱いは?」のAnswerは次のとおりです.

「1.‌‌妊娠初期,妊娠 28 週前後および分娩直後に抗 Rh(D)抗体の有無を確認する.(B)
2.妊婦が抗 Rh(D)抗体陰性の場合,母体感作予防目的で以下の検査・処置を行う.
1)‌‌妊娠 28 週前後に抗 D 免疫グロブリンを投与する.(A)
2)‌‌児が Rh(D)陽性であることを確認し,分娩後 72 時間以内に母体に抗 D 免疫グロブリンを投与する.(A)
3)‌‌以下の場合に抗 D 免疫グロブリンを投与する.(B)
妊娠 7 週以降まで児生存が確認できた自然流産後,妊娠 7 週以降の人工流産・異所性妊娠後,腹部打撲後,妊娠中の検査・処置後(羊水穿刺,胎位外回転術,等)
3.‌‌抗 Rh(D)抗体陽性の場合,妊娠後半期は 4 週ごとに抗 Rh(D)抗体価を測定す
る.(B)
4.抗 Rh(D)抗体価が高値の場合,
1)母体およびハイリスク胎児・新生児に対応可能な施設で管理する.(B)
2)‌‌妊娠後半期に11~2 週ごとに超音波検査で胎児水腫および胎児貧血について評価する.(B)」

「1 争点(1)(被告Cの過失又は注意義務違反について)

(1) 前記争いのない事実等,証拠(甲A1,B3及び4,乙B1ないし5)及び弁論の全趣旨によれば,血液型不適合妊娠において,以下の医学的知見が認められる。

ア 血液型不適合妊娠とは,母体にない赤血球型抗原が胎児側に存在する場合をいい,母体が自己以外の赤血球型抗原に感作されると,母体血漿中に抗体が産出され,この抗体が胎盤を通過して胎児に至ると胎児・新生児溶血性疾患を起こすことがある。
血液型不適合妊娠で,臨床的に最も重要な赤血球型抗原はRh(D)抗原であり,母親がRhマイナスで胎児がRhプラスの時に母親が感作されていた場合,母体に産出された抗体(抗D抗体)が胎児に移行することによって胎児血の溶血を引き起こし,溶血により胎児貧血となり,場合によっては胎児死亡まで起こり得るとされる。

イ 血液型不適合妊娠の管理としては,初診時に妊婦の血液型を確認し,Rhマイナスであることが判明した場合には,妊娠や輸血の既往に注意して問診を行い,定期的に間接クームステストを行って抗D抗体価を測定する必要がある。
感作妊婦の管理は,抗体価が高いほど胎児の溶血性疾患罹患率は高くなるとされているから,抗D抗体価に従った管理を行う。間接クームステストの結果,抗体がマイナスの場合には胎児に溶血性疾患が発生する可能性はないが,初回の検査がマイナスであっても妊娠28週と36週に再検査する。抗体価が8倍以下の場合には胎児水腫や交換輸血を要する重症黄疸はほとんど発生しないので,超音波検査で胎児の状態を監視しつつ引き続き抗体価測定を行う。抗体価が16倍以上であれば,羊水ないし胎児血検査により溶血の程度を把握する。

ウ Rhマイナスの未感作妊婦が分娩した場合,その5ないし12%に感作成立が見られるが,分娩後72時間以内にグロブリン250μgを母体に投与することにより,Rh感作率を0.2%にまで減少させることが可能であるとされており,我が国においても1973年(昭和48年)ころから,分娩後72時間以内におけるグロブリンの投与が普及しており,分娩後のグロブリン投与は健康保険の適用とされる。一方,グロブリンの妊娠中の投与は健康保険の適用が認められていない。
グロブリン製剤については,抗体の精製過程でパルボウイルス等の完全除去は困難である。特に,妊娠中のグロブリンの投与は,ウイルス感染を含め安全性が確立しておらず,治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与するとされている。

(2) 上記(1)認定の医学的知見のとおり,分娩後72時間以内にグロブリン250μgを母体に投与することにより,Rh感作率を5ないし12%から0.2%にまで減少させることが可能であり,しかも,その治療方法は,我が国においても一般的に普及していることからすれば,産婦人科の医師は,初診の際に妊婦の血液型を確認し,問診及び血液型検査でRhマイナスであることが判明した場合には,定期的に間接クームステストを行うとともに,分娩後は72時間以内にグロブリン250μgを母体に投与すべき注意義務を負うというべきである。
ところが,前記争いのない事実等のとおり,被告Cは,日本医学臨床検査研究所から,原告Aの血液型がRhマイナスであるとの通知を受けたにもかかわらず,これを見落とし,原告Aに対し,本件第1子妊娠中,間接クームステストを一切実施せず,本件第1子分娩後,グロブリン注射を一切実施しなかったのであるから,上記注意義務に違反したことは明らかである。

(中略)

(3) 以上より,被告Cには,本件第1子妊娠中,間接クームステストを実施することを怠り,本件第1子分娩後にグロブリン投与を怠った過失があったと認められる。」


同判決は「被告Cの前記過失により,血液型不適合妊娠によるリスクが高くなり,原告Aとしては,人工妊娠中絶を選択せざるを得なかったといえるから,被告Cの前記過失と原告Aが本件第2子を人工妊娠中絶したこととの間には因果関係がある。」と判示しました.

「2 争点(2)(因果関係について)

(1) 前記争いのない事実等,証拠(甲A1,C5及び6,原告A本人,原告B本人,調査嘱託の結果)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

ア 原告らは,平成15年10月末ころ,原告Aが本件第2子を妊娠したことに気付いた。原告らは,かねてから,2ないし3人の子どもが欲しいと考えており,本件第2子の妊娠も計画妊娠であった。
原告Aは,同年11月19日,F産婦人科にて診察を受けたが,この時点では,原告らは,本件第2子を出産するつもりであった。
原告Aは,同年12月3日及び同月24日,F産婦人科において,血液検査及び間接クームステストのため採血を受けた。その結果,原告Aの血液型がB型・Rhマイナスであり,同月24日(妊娠12週)当時,間接クームステストによる抗体価が3倍であることが判明した。日本医学臨床検査研究所からF産婦人科に対し,上記結果が緊急連絡され,その後,原告Aは,同医院の産婦人科医師から,自己の血液型がRhマイナスであることを聞かされた。原告Aは,この時まで,自分の血液型がRhマイナスであることも,血液型不適合妊娠がどのようなものでどのようなリスクが伴うかも全く知らなかった。同医師は,原告Aに対し,本件第2子妊娠はちょっと危ないと告げ,母子センターを紹介した。

イ 原告Aは,同月26日,母子センターを受診(初診)し,E医師が原告Aの担当医となった。原告Aは,当時,妊娠12週2日であった。同日,原告Aに対し,間接クームステストが実施され,その結果,抗体価は2倍であった。E医師は,同日,原告Aに対し,血液型不適合妊娠について,経過観察を行った上で判断するが,リスクとしては,胎児に貧血が生じた場合に直接胎児に輸血するために母体に針を刺すことについてのリスク,血液製剤を使うことによる母体の感染症についてのリスク,胎児が出生した後の血液交換についてのリスクがあることを説明した。
原告らは,平成16年1月5日,母子センターを受診し,E医師から,本件第2子出生に伴うリスクの確率等についての説明を受けた。E医師は,原告らに対し,本件第2子が無事に生まれてくる可能性は8割で,あとの2割は命に関わるリスクや脳障害等の重い後遺障害を含めたリスクがあり,抗体価は妊娠中に上昇する可能性があり,上昇するとすれば,胎児の血液量が増えていくことによって母体との血液の行き交いが可能性として増える妊娠20週以降の時期である旨の説明をした。
原告Aは,被告Cが本件第1子妊娠娩出の際,グロブリンを投与しなかったため,間接クームステストによる抗体価がプラスとなったことにショックを受けた。

ウ 原告らは,平成16年1月初旬ころ,被告Cと面談した。被告Cは,原告らに対し,「生まれてきた赤ちゃんは光を当てたら大丈夫」,「何かが起こったりするのはだいたい3人目ぐらいからで,2人目でそういうことが起こるなんて考えられない」,「命を大事に思っているのなら産むべきだ」などと話した。原告らは,被告Cが,事態を楽観視し,軽く感じているように感じた。

エ 原告らは,同年1月9日,母子センターを受診した。E医師は,原告らに対し,平成15年12月26日の間接クームス価は1:2であったこと,ハイリスク妊婦について,CreasyResnik共著の米国の教科書(母体胎児医学)の表に基づくと,胎児の溶血性貧血の起こる頻度は,軽症が45ないし50%,中等症が24ないし30%,重症が20ないし25%であり,溶血性疾患が起こったとしても,間接クームス価からみて,80ないし90%の障害なき生存が望める可能性があると説明した。
E医師は,本件第2子に重症の病気が起こる確率はかなり低く,多くとも10%以下でおそらく大丈夫であるが,予測不可能な数字であること,医学的に中絶を強く勧めるような適応はなく,妊娠継続を希望するならば,母子センターで慎重に管理することも説明した。
オ 原告Bは,本件第2子に万一重い障害が残った場合にそれを一生自分が受け入れられるかどうか自信がなかったこと,原告らの間には既に本件第1子がおり,まだ当時2歳であり,本件第1子を育てていく必要があることから,人工妊娠中絶を考えた。
原告Aは,自分の体と本件第2子に生じた上記事態を受け入れるのに時間がかかり,当初,人工妊娠中絶をするかどうか迷っていたが,本件第2子を人工妊娠中絶するのは本件第2子に申し訳ないが,他方で出産を選択して仮に本件第2子に障害が残った場合には,本件第2子自身も可哀想であり,経済的にも養育が困難であると考えた。
原告らは,夫婦で相談した結果,本件第2子を人工妊娠中絶することを決定し,平成16年1月22日,母子センターにおいて人工妊娠中絶術を受け,同日,母子センターを退院した。

カ 原告Aは,人工中絶の決断を迫られている1か月の間,自分に起こったことをなかなか受け入れられず,ほとんど夜も眠れず,少し眠れたとしても,妊娠に関する悪夢ばかりを見,また,日常生活においても,人が怖い,人と喋りたくない,人に会いたくないという精神状態が続き,人工妊娠中絶後も3か月間ほど,自分自身に全く価値を見い出せず,生き甲斐を失ったような精神状態が続いていた。

(2) そこで,被告Cの前記過失と原告らの人工妊娠中絶との間に因果関係が認められるか検討する。

ア 前記1(1)認定の医学的知見によれば,分娩後72時間以内のグロブリンの母体投与によりRh感作率を0.2%にまで減少させることが可能であるとされているのであるから,被告Cが前記注意義務を尽くして間接クームステストを定期的に行い,分娩後72時間以内にグロブリン250μgを原告Aに投与していたならば,本件第1子の妊娠分娩によるRh感作を防ぐことができた高度の蓋然性があると認められる。
そして,産婦人科医師において血液型不適合妊娠であることを認識しながら,そのことを妊婦に一切告知しないことは通常考え難いから,間接クームステストを定期的に行っておれば,原告AがRhマイナスの血液型不適合妊娠であることが判明し,本件第1子の妊娠中か娩出の際に原告Aに対し,その旨告知されていた可能性が高く,告知されていれば,原告らが,もともと本件第2子妊娠を望まなかったか,本件第2子妊娠においても血液型不適合妊娠となる可能性があること(ただし,第1子娩出の際のグロブリン投与により本件第1子娩出による感作が防止された上での血液型不適合妊娠)を了解の上で本件第2子を妊娠したと考えられるから,人工妊娠中絶に至らなかった可能性が高い。
また,仮に本件第1子娩出までに,Rhマイナスや血液型不適合妊娠のことを告知されなかったとしても,前記認定のとおり,本件第1子娩出の際にグロブリンを投与されていれば,本件第1子の妊娠分娩によるRh感作が防止され,本件第2子妊娠に気付いて産婦人科を受診し,血液型検査・間接クームステストを受けた際には,抗体価がマイナス(未感作)であった可能性が高く,血液型不適合妊娠によるリスクはより低かったと推認される。また,原告らが血液型不適合妊娠の告知を受けた際に,低値ながらも既にRh感作をしている場合とRh未感作の場合とでは,妊娠を継続するかどうかの選択に少なからぬ影響があったと考えられる。
以上によれば,被告Cの前記過失により,血液型不適合妊娠によるリスクが高くなり,原告Aとしては,人工妊娠中絶を選択せざるを得なかったといえるから,被告Cの前記過失と原告Aが本件第2子を人工妊娠中絶したこととの間には因果関係がある。

イ これに対し,被告らは,Rh(D)式血液型不適合妊娠の場合,胎児に溶血性疾患が生じる危険があるのは,医学的には,間接クームステストによる抗体価が32ないし128倍の場合と考えられているため,平成15年12月26日当時,間接クームステストによる抗体価が2倍であった原告Aの場合,胎児に溶血性疾患が生じる危険性は極めて低いから本件第2子の人工妊娠中絶術を受ける必要はなかったものであり,因果関係は認められないと主張する。
この点,前記1(1)認定の医学的知見によれば,抗体価が8倍以下の場合には胎児水腫や交換輸血を要する重症黄疸が発生する可能性は非常に低く,抗体価2倍のまま原告Aの妊娠が継続すれば,本件第2子に溶血性疾患が生じる危険は,客観的にはほとんどなかったものと認められる。
しかし,前記1(1)認定の医学的知見によれば,抗体価が高いほど胎児の溶血性疾患罹患率が高くなるところ,証拠(甲B3及び4,乙B1,4)によれば,抗D抗体感作妊婦の管理は,妊娠中に抗D抗体が上昇することがあることを前提としていると認められることからすれば,本件でも,平成15年12月26日当時,抗体価が2倍であるとしても,妊娠経過中に抗体価が上昇する可能性がないとはいえず(この点,被告らは,Rh抗原の母体感作の源となる経胎盤出血(胎児のRhプラス血球の母体への移行)は妊娠末期及び分娩中に最も多く発生するから,原告Aの抗体価が上昇することがあるとしても妊娠末期か分娩中に上昇する可能性があるに過ぎないと主張し,証拠(乙B5)にはこれに沿う部分がある。しかし,証拠(甲B3及び4,乙B1,4)は,妊娠経過中の抗体価上昇の可能性を前提として抗D抗体感作妊婦の管理を定めていると解されるし,証拠(乙B5)でも,経胎盤出血が妊娠末期及び分娩中に最も多く発生するとするにとどまり,この時期以外の経胎盤出血の発生を否定するものではないから,妊娠末期以前の抗体価の上昇の可能性は否定し切れないというべきである。),前記2(1)認定のとおり,E医師が,妊娠20週以降の時期に抗体価が上昇する可能性があること,本件第2子が重症の疾患に罹患する確率はかなり低く,多くとも10%以下でおそらく大丈夫であるが,予測不可能な数字である旨の説明をしていることからしても,確率的には低いながらも,抗体価が2倍より上昇し,その結果として本件第2子が溶血性疾患に罹患する可能性があったものと認められる。
そして,前記2(1)認定のとおり,原告Aは,自分がRhマイナスであることや血液型不適合妊娠のリスクを全く知らずに本件第2子を妊娠していたが,その後,F産婦人科及び母子センターを受診して初めて上記事実を知ったものであり,かつ,これらの事実を知ったときには既に低値ながらもRh感作しており,また,被告Cの前記過失のためにRh感作したことに精神的なショックを受けたという状況にあったことからすれば,確率的に低いとはいっても現に存在する血液型不適合妊娠のリスクを引き受ける選択をすることができなかった(すなわち人工妊娠中絶を選択した)のも社会通念上やむを得ないというべきであるから,被告らの主張は採用できない。
なお,被告らは,E医師が医学的に人工妊娠中絶を強く勧めるような適応はないと説明したことをもって,上記被告らの主張の根拠とする。
確かに,本件の血液型不適合妊娠のリスクについての上記確率からは,血液型不適合妊娠のリスクが現実化しない可能性にかけて人工妊娠中絶しない人や,子ども(胎児)の後遺障害を受容して出産する人もあり得るところであるから,医師としては,人工妊娠中絶を強く勧めるような立場にはなかったと考えられる。しかしながら,前記のとおりの原告らの置かれた状況からすれば,血液型不適合妊娠のリスクを引き受ける選択をすることができなかったというのもやむを得ないというべきであるから,被告らの主張は採用できない。

ウ また,被告らは,原告らが本件第2子の妊娠を人工中絶したのは,医学的な理由によるのではなく,むしろ原告らの経済的な理由によるものであるから,相当因果関係がない旨主張し,証拠(甲A1)中には,経済的理由を挙げている部分(死産証書〔21頁〕,経過記録〔46頁〕)がある。
しかし,前記2(1)ア認定のとおり,原告らは,かねてから2ないし3人の子どもが欲しいと考えており,本件第2子の妊娠も計画妊娠であったことからすれば,本件の血液型不適合妊娠のリスクの問題がなければ,経済的理由を問題にすることなく本件第2子を出産していたと推認される。さらに,証拠(甲A1)中,E医師の死産証書中の経済的理由との記載や経過記録中の原告Aの経済的にも無理であるとの発言の記録については,前記認定事実に照らせば,その趣旨は,本件第2子を出産して血液型不適合妊娠のリスクが現実化した場合,後遺障害を持って出生した本件第2子の養育等にかかる経済的負担に耐えられるかどうかということを心配したものであって,その前提として,本件第2子に血液型不適合妊娠に起因する後遺障害が生じるかもしれないという医学的な考慮が働いているのであるから,医学的な理由を離れた単なる経済的な理由から人工妊娠中絶を選択したものではない。さらに,前記2(1)オ認定のとおり,原告Aは,本件第2子を人工妊娠中絶するのは本件第2子に申し訳ないが,出産を選択して仮に本件第2子に障害が残った場合には本件第2子自身も可哀想であり,子どもの人生を巻き込めないと考え,また,原告Bは,仮に本件第2子に障害が残った場合に,本件当時まだ2歳であった本件第1子に及ぶ影響等も考え,夫婦で相談して人工妊娠中絶を選択したものであり,原告らにおいて,当時の状況下で,種々の点を考慮しながら,苦渋の選択として人工妊娠中絶を選択したことは明らかである。
したがって,原告らが人工妊娠中絶を選択するに当たり上記の意味での経済的理由を考慮したからといって,何ら因果関係が否定されるものではなく,被告らの主張は採用できない。

次に,被告Cの前記過失と原告Aの抗体価が1024倍まで上昇したこととの間に因果関係が認められるか検討する。
証拠(甲B4,乙B3及び4)によれば,人工妊娠中絶によってもRh感作が生じること,経胎盤出血は,自然流産,人工流産の場合にも発生し,産科的手術操作(骨盤位分娩,帝王切開術,胎盤用手剥離,外回転術,経腹的羊水穿刺)で発生頻度が増加すること,証拠(甲A1)によれば,本件第2子の人工妊娠中絶の際,本件第2子の体幹が膣内へ脱出後,頸管が収縮して児頭の娩出がやや困難となり,娩出の際本件第2子の頸部に裂傷が生じたことが認められる。
上記認定事実によれば,原告Aは,本件第2子の人工妊娠中絶の際,本件第2子のRhプラスの血液に感作され,その結果,抗体価が1024倍まで上昇したものと認められる。
そして,前記認定のとおり,被告Cの前記過失と本件第2子の人工妊娠中絶との間には因果関係が認められるところ,上記認定のとおり,人工妊娠中絶の場合にもRh感作が成立することからすれば,本件第1子の妊娠分娩において,間接クームステストを怠り,分娩後72時間以内にグロブリン投与を怠った結果,人工妊娠中絶から抗体価の上昇に至ることは相当因果関係の範囲内というべきであり,これに反する被告らの主張は採用できない。

(3) 以上より,被告Cの前記過失と本件第2子の人工妊娠中絶及び原告Aの抗体価の上昇との間には相当因果関係がある。
したがって,被告Cは,不法行為に基づき,被告法人は,使用者責任に基づき,原告ら(被告Cの前記行為は,原告Bとの関係でも,権利又は法律上保護された利益の侵害であると認めることができる。)が被った後記損害を賠償する義務がある。」



谷直樹

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by medical-law | 2022-03-01 21:59 | 医療事故・医療裁判