レンドルミンとドルミカムを併合投与した後の監視義務 神戸地裁平成15年6月12日判決
なおこれは私が担当した事件ではありません.
「(3) 争点(3)について
ア まず,Cの死亡原因につき検討する。
Cの死因が記載されている剖検報告書(乙17の2),Z作成の私的鑑定書(乙35),鑑定書及び補充鑑定書の内容を検討するに,Cの死因が明確に特定されているものはなく,いずれもCの死亡直前の症状等も含めて死因を推定しているものである。
そこで,かかる前提をもとに判断するに,鑑定結果では,死因をレンドルミンとドルミカムの併合投与の副作用としてよく知られている呼吸抑制によるものであると判断している。後述のとおり,これらの薬剤を投与することで呼吸抑制の危険が生じ,併合投与すればさらにその危険が高まること,鎮静剤の効果として脳神経系の活動抑制があげられることに照らせば,上記鑑定意見は,Cに生じた術後の病状経過と整合し,矛盾しないものと認められる。
他方,剖検報告書及び私的鑑定書では,Cの死因は化膿性髄膜炎と推定している。
確かに,かかる見解は,炎症が腰髄や延髄の脳室直下に及んでいることから,化膿性髄膜炎である可能性が高いとする剖検報告書の記載内容や,肺水腫は脳の器質的障害が生じたときにも生じるとされていること(甲13,甲14)に合致する。
ただし,私的鑑定書も,鎮静剤の影響による呼吸抑制を全く否定しているわけではないし,炎症の状況や白血球の数から化膿性髄膜炎であると考えられるのに発熱を伴っていない点が良く理解できないとも指摘されている。
これらを総合すれば,Cの死因は,髄膜炎による異常に,鎮静剤の併合投与による抑制作用があいまって死亡したと解するのが相当である。
イ ドルミカムは,麻酔前投薬,全身麻酔の導入及び維持,集中治療における人工呼吸中の鎮静の際に適用される(甲29)のであり,人工呼吸中という限定はあるものの,術後鎮静剤として認められている。
よって,ドルミカムの使用自体に過失があったとは認められない。
ウ しかしながら,本件においては,K病院の術後管理に過失があったと言わざるを得ない。
すなわち,前記認定した事実のとおり,Cは,当時14歳で,その体重は33㎏であり,上記全部摘出手術の影響で髄膜炎,気脳症という合併症に罹患していたものであるが,K病院の担当医らは,このような状態にあるCに対し,手術後数日しか経過していない時点で,前記1の(3)のイのとおり,レンドルミンとドルミカムを併合投与している。
甲29によると,ドルミカムは人工呼吸中の成人への使用で初回投与及び追加投与の総量が0.3㎎/㎏(Cの体重に当てはめれば9.9㎎)までとされているところ,本件では,以上のような状態のCに対して,5時間の間に合計1.1アンプル(11㎎)という多量のドルミカムが投与されている。しかも,ドルミカムには呼吸抑制の副作用があり(甲29),レンドルミンを併合投与すると呼吸抑制を生じる危険性がさらに高まり(鑑定書,甲22,乙28,乙29,乙32),死亡の危険性も生じる(甲44「法医学の新しい展開」)のであるから,K病院はCの体調に異常が存しないかについて,通常よりも重い監視義務を負っていたというべきである(また,ラトケ嚢胞の全部摘出手術をしたのであるから部分摘出あるいは内容物吸引手術のとき以上に十分な術後管理を行うよう配慮しなければならない義務があることは前述のとおりである)。
そして,鑑定の結果をも総合すれば,K病院は,四六時中Cのみを監視することは不可能であったとしても,最低限心電図モニター等をCに常時装着することによって,Cに異常がないか監視するべき義務を負っていたと認めるのが相当である。
この点,被告はCの体動が激しかったため心電図モニターをはずしたのであり,そのことは医師の裁量の範囲内であると主張するが,仮にモニターを装着しないのならば,Cに異常がないことを巡回の回数を増加させる等他の方法で補うべきところ,K病院が特にそのような対応を取ったことを認めるに足りる証拠はないのであるから,被告の上記主張は採用できない。
本件では,Cのモニターが22日には外されており,しかも,1時間ごとの定時巡回に行った看護師が初めて心停止,チアノーゼ状態のCを発見しているのであるから,心電図モニターを装着していれば,もっと早い段階でCの異常を発見し,救命措置を施すことが可能であったといえる。したがって,K病院の担当医らには,術後管理につき過失が認められる。
エ そして,K病院では2時の回診(乙2により回診を行っていたことは認められる。)後の2時15分ころにCがゴソゴソしていたことまでは確認しているが,その後3時の定時検温までCの様子を確認してはおらず,その間にCに異常が生じ,心停止にまで至っている(本件全証拠によるも,いつ頃に心停止,呼吸停止が起き,それがどのくらい続いたのかについては明らかでない。)のであるから,心電図モニターを装着していれば,より早期に,具体的には呼吸不全に陥ってから心停止に至るまでの間にCの異常を発見できたといえ,Cを救命できた蓋然性があったというべきである。
このことは,死因がドルミカムとレンドルミンの併用によるものであっても,髄膜炎に起因する場合であっても同様である。
以上のとおりであって,K病院の呼吸監視義務の懈怠とCの死亡との間には相当因果関係があると判断される。
(4) よって,その余の点を判断するまでもなく,被告は,原告らに対し,Cの
死亡によって生じた後記損害を賠償すべき責任がある。」
谷直樹
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