薬害オンブズパースン会議、塩野義製薬の新型コロナウイルス感染症治療薬の緊急承認に反対する意見書、
https://www.yakugai.gr.jp/topics/file/20220620 shionogi_shingata_koronayaku_to_kinkyuushounin_ikensho.pdf
「第1 意見の趣旨
塩野義製薬が承認申請した新型コロナウイルス感染症治療薬候補(ゾコーバ錠 125mg)について、緊急承認制度を適用して承認することに反対する。
第2 意見の理由
1 はじめに
厚生労働省は薬事・食品衛生審議会医薬品第二部会を6月 22 日に開催し、塩野義製薬が承認申請した新型コロナウイルス感染症治療薬候補・ゾコーバ錠 125mg(一般名:エンシトレルビル フマル酸、以下「本剤」という)を審議する。
本剤は、ウイルスの増殖に必須の酵素である 3CL プロテアーゼを選択的に阻害することで SARS-CoV-2 の増殖を抑制するとして開発された経口薬である。
本剤については、本年2月に条件付き早期承認制度の適用を求める承認申請が行われたが、5月に創設されたばかりの緊急承認制度の適用に切り替えて申請されている。
2 緊急承認制度の適用要件
緊急承認制度は、緊急事態において第III相の検証的臨床試験の結果を待たずに承認を与える例外的制度である。
その適用要件は、緊急性、非代替性、有効性の推定、安全性である(薬機法第14条の2の2第1項第1号、薬生薬審発 0520 第1号令和4年5月20日厚生労働省医薬・生活衛生局医薬品審査管理課長通知3)。
このうち、以下のとおり、少なくとも、有効性の推定、緊急性の要件が認めれない。
3 「有効性の推定」について
(1) 緊急承認制度における有効性の推定は、緊急時において第III相試験の結果を待つ余裕がない場合において、第II相で示されている有効性からすれば、第III相試験においても、有効性が証明できるであろうとまさに推定できる場合を想定している。
(2) 本年4月24日付で塩野義製薬の Web サイトに掲載された Phase 2bpart(同社がこれまでに実施した第 2/3 相試験のうちの一つ)に関する最新の結果4によれば、抗ウイルス効果については、感染性を有する SARS-CoV-2 ウイルス(ウイルス力価)は速やかに消失し、4 日目(3 回投与後)において、ウイルス力価陽性患者の割合がプラセボ群と比較して約 90%減少、ウイルス力価が陰性になるまでの時間の中央値がプラセボに対して1~2 日短縮、ウイルス RNA 量についても 2 日目(1 回投与後)から 9 日目の各測定時点において統計学的に有意な減少が確認され、4 日目においてプラセボ群と比較して 10 分の 1 以下に低下させたとされている。
しかし、肝心の臨床症状の改善効果については、主要評価項目であるプラセボ群と比較した COVID-19 の 12 症状合計スコアにおいて、統計学的に有意な差は認められなかった。オミクロン株感染に特徴的な呼吸器 4 症状および呼吸器症状に発熱を加えた 5 症状の複合スコアの改善はみられたとするが、あくまでも副次的解析に過ぎず、特に呼吸器症状に発熱を加えた 5 症状の解析は事後解析でありこれを重視することはできない。事前に計画された主要評価項目を達成していないという結果を重視すべきである。
(3) 第II相試験において臨床症状に関する主要評価項目を達成していない以上、第III相試験においてこの達成が推定されるとすることは困難である。
抗ウイルス効果は示されているが、医薬品の承認において重要であるのは、臨床上の症状改善に関する主要評価項目であり、これが第II相で達成できていないということは軽視されるべきではない。
この点については、緊急承認制度を審議した第 208 回国会の本年4月12日の衆議院厚生労働委員会において、厚生科学審議会医薬品医療機器制度部会の部会長として、緊急承認制度を検討し「緊急時の薬事承認の在り方等に関するとりまとめ」を行った福井次矢参考人も、宮本徹議員のウイルス量は減ったが症状改善の効果が見られない場合に緊急承認の対象となりうるのかという質問に対し、「ウイルス量が減っても、患者さんにとって重要なアウトカムが全然変化がなければ、それは効果があったとは臨床的には言えないと思います。」と回答している5。
従って、それ以降に、臨床上の主要評価項目の達成を推定させる新たな資料が厚生労働省に追加提出されていない限りは*、第II相試験で臨床症状の改善に関する主要評価項目が達成できなかった本剤について、有効性が推定されるということはできない。
4 「緊急性」について
(1) 緊急承認制度は、「国民の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれがある疾病のまん延その他の健康被害の拡大を防止するため緊急に使用されることが必要な医薬品であること」を要件としている(薬機法14条2の2、第1項1号)。
緊急承認制度は、検証試験による有効性の確認のないままに医薬品を承認する承認制度の重大な例外であるから、この要件は、パンデミックや原子力事故やバイオテロなどの「緊急な事態」によって、国民の健康が著しく脅かされる場合を予定しており、その要件は厳格に解釈されなければならない。
従って、パンデミックの場合は、現に致死性の高いウイルス等の感染が急速に拡大し、緊急事態宣言の発出や緊急事態措置等がとられており、医療が切迫している場合、あるいは、海外の感染拡大状況、感染経路の特定困難等に照らし、日本における急速な感染拡大や医療の切迫が強く予測される状況にあるなど、緊急性が高いことが必要である。
前記厚労省通知も、「感染者の急速な増加の確認、感染経路の特定が困難であることや医療提供体制のひっ迫状況等を踏まえ、国民生活及び国民経済に及ぼす甚大な影響を回避するために当該医薬品を使用する必要があるか勘案することとなる。」と記載している。
(2) この点、現在は、既に緊急事態宣言はもとより、感染拡大が著しかった東京都などにおいてさえ緊急事態措置等が解除されており、制約はあるものの海外からの観光客の入国さえ認められるに至っている。感染者の減少と終息傾向は一貫しており、2022年6月18日を例にとってみれば、全国において、一日の死亡者数は20名、重症者数は39人であり、病床使用率も低い状態が続いている。
従って、緊急承認制度を適用するだけの緊急事態にあるとはいえず、緊急性の要件を満たさないというべきである。
5 安全性
なお、本剤については、動物実験において、胎児における骨格形態異常をきたす催奇形性があることが認められ、ヒトにおけるリスクも懸念される。第III相試験を行っていない段階なのであるから、安全性の評価、リスク・ベネフィット評価において、慎重さが求められる。
6 結論
緊急承認制度については、第208回国会でさまざまな課題が議論され、制度の創設に当たっては、衆参両院において、不当な適用の拡大がなされないようにする観点からの附帯決議も行われている。
塩野義製薬は、本剤について、当初は、本来は臨床試験の実施が困難な希少疾患のための例外的制度である条件付き早期承認制度の適用を求めて申請し、今度は、緊急承認制度の申請に切り替えたという経過をたどっており、この間には、同社社長が閣僚経験者に対してトップセールスを行うなどしており、薬機法の例外的な制度の趣旨を軽視しているのではないかという疑問すら生じる。
承認制度の重大な例外である緊急承認制度に基づく承認の第1号を本剤ですることは、今後の本制度のあり方を危うくする。
以上により、本剤に緊急承認制度を適用して承認することについては、反対する。
以上」
谷直樹
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