くも膜下出血とマイナーリーク
それ以外にも、動脈瘤からの微小な出血(マイナーリーク)の場合、ズキズキする頭痛が突然起きることがあり、要注意です。吐き気を伴うこともあります。これは、大きなくも膜下出血の前兆です。大きなくも膜下出血を発症した人の2割くらいには、このマイナーリークがあると言われています。
もしズキズキする頭痛があったら、すぐに専門医を受診したほうがよいでしょう。
また、動脈瘤が視神経を圧迫すると、視力が落ちたり、視野狭窄が生じたりします。動眼神経を圧迫するとものが二重にみえたりします。
ズキズキする頭痛とこのような視力・視野の症状があれば、マイナーリークの疑いが高いと考えられます。
くも膜下出血の診断は、CT、MRI のFLAIR 法、腰椎穿刺で行われます。CTでは微小な出血は見つからないことがあります。MRI は、緊急にできる病院が限られていますが、出血部位まで分かります。
ズキズキする頭痛または視力・視野の症状だけで受診した場合、医師が問診を適切に行わないと、マイナーリークを見落とし、検査を怠ってしまうことがあります。その場合、問診義務違反、検査義務違反が問われることになります。「バットで殴られたような激しい頭痛」、「今まで経験したことがない強烈な頭痛」がなかったからというのは言い訳にもなりません。
大阪地裁平成15年10月29日判決(ケースファイル(1)175頁)は、激しい頭痛と嘔気を訴える50歳の患者が脳神経外科を標傍する個人病院を受診し、医師が飲酒、運動によるものと思い、CT撮影等を行わずに帰宅させてしまい、患者が亡くなった事案ですが、約7000万円の損害賠償が認めています。頭痛の発症形式、程度、持続時間、嘔吐や吐き気の有無、持続期間等について詳細な問診を行い、くも膜下出血による頭痛に特徴的な事情の存否を聴取するべき注意義務があり,確定診断のためにはCT撮影が必須であり、CT所見でくも膜下出血が否定されない限り、くも膜下出血ではないとの判断を軽々にするべきではない,と判示しています。
問診義務違反、診断義務違反の場合、カルテの記載が乏しいことが多いので、とくに当該疾患についての知見に乏しい医師であれば、症状があった事実がないと認定するのではなく、この大阪地裁判決のように義務違反を認定すべきでしょう。
なお、古くは、福井地裁平成元年3月10日判決(判例時報1347号86頁)は、頭痛、嘔吐などの症状で受診したところ、胃腸炎と誤診されて死亡した事案で、開業医の転送義務違反を認め,80%の割合的責任を肯定しました。割合的認定ではなく、責任を全肯定すべきではなかったか、疑問な判決であります。
谷直樹
ブログランキングに参加しています.クリックをお願いします!
↓