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薬害オンブズパースン会議、HPVワクチンの副反応疑い報告のあり方に関する要望書 -重篤症例数の過少計上の見直しと重複報告症例の「名寄せ」整理の復活を求める-

薬害オンブズパースン会議は2022年9月13日、厚生労働省に対し「HPVワクチンの副反応疑い報告のあり方に関する要望書-重篤症例数の過少計上の見直しと重複報告症例の「名寄せ」整理の復活を求める-」を提出しました。

「厚生労働省は、ワクチンの副反応疑い報告に関し、医療機関及び製造販売業者からの報告を集計して、厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会、薬事・食品衛生審議会薬事分科会医薬品等安全対策部会安全対策調査会の合同部会(以下「合同部会」という)に報告してきたが、HPVワクチンについて、重篤症例の累計数が過少集計されていたことが判明したので、以下のとおり要望する。

第1 要望の趣旨

1 HPVワクチン販売開始からの副反応疑い報告の累計数を計上するに当たって、医療機関からは非重篤、製造販売業者からは重篤として重複報告された同一症例の「名寄せ作業」(ダブルカウントを避けるため、重複報告症例を特定して整理する作業)を行う際に、医療機関報告の非重篤症例として計上してきたこれまでの方法を改め、他の定期接種ワクチンと同様に、医療機関報告の重篤症例として計上する方法を採用した上で、重篤症例及び非重篤症例の各累計数を公表し直すこと。

2 2022年6月10日の合同部会報告分から中止された「名寄せ作業」を、前項のとおりに計上方法を改めた上で復活させ、接種者あたりの副反応疑い報告の頻度を確認・比較できる状態に戻すこと。

第2 要望の理由

1 副反応疑い報告に関する扱い

厚生労働省に対するワクチンの副反応疑い報告については、医療機関報告と製造販売業者報告の2つの報告ルートがある。
医療機関からは、薬機法及び予防接種法に基づき、非重篤症例及び重篤症例の双方が報告されるが(薬機法68条の10、2項、予防接種法12条1項)、製造販売業者からは、重篤と判断された症例のみが報告される(薬機法68条の10、1項)。
そして厚生労働省は、前記各規定に基づいて報告された副反応疑い報告を集計した結果を定期的に合同部会に報告している。
HPVワクチンについては、販売開始からの副反応疑い報告の累計数を計上するに当たり、医療機関と製造販売業者の双方から同一症例が重複報告された場合には、「名寄せ作業」を行い、医療機関報告として計上する扱いがなされてきた。

2 HPVワクチンについてのみ製造販売業者からの重篤症例の一部を累計数から除外してきたことの不当性

HPVワクチン以外の定期接種ワクチンの「名寄せ作業」では、医療機関から非重篤とされた症例が、製造販売業者からは重篤症例として重複報告された場合には、医療機関報告の重篤症例に計上されている。
ところが、HPVワクチンに限っては、これを医療機関報告の非重篤症例に計上してきた(図1)ことが、川田龍平参議院議員の質問主意書に対する2022年8月15日付政府答弁によって、明らかになった。
同答弁によれば、製造販売業者が重篤症例として報告したのに、医療機関報告の非重篤症例に計上されてしまった症例の累計数は、HPVワクチン(ガーダシル及びサーバリックス)の合計で468例にのぼる。
このように除外された468例を、他の定期接種ワクチンと同様に医療機関報告の重篤症例に計上し直すと、従来1970件とされてきたHPVワクチンの重篤副反応疑い報告の累計数は2438件(約24%増)となる(図2)。これによれば、現在厚生労働省が情報提供資材として発行しているHPVワクチンに関するリーフレット3において接種者1万人あたり約6人とされている重篤副反応疑い報告の頻度は、1万人あたり約7人に訂正が必要となる。
このように、HPVワクチンの重篤副反応疑い報告の累計数は、製造販売業者が報告した重篤症例の一部が除外された結果、過少報告となっていたことが判明した。

3 HPVワクチンも他の定期接種ワクチンと同様の扱いとし、重篤症例の累計数の過少集計を修正すべき

少なくとも製造販売業者が重篤として報告している以上は、HPVワクチンにおいても、他の定期接種ワクチンと同様に、重篤症例に計上して累計数を集計するべきである。HPVワクチンだけ扱いを変えて、重篤症例から除外する合理性はない。
現に、2022年8月5日の合同会議で報告された症例の中にも、HPVワクチンであるガーダシル(MSD社製)の投与を受けた患者について、医療機関が非重篤として報告した時点では転帰が「不明」であったが、製造販売業者の報告では、「未回復」であることが確認された上で重篤症例とされたものが含まれている(表1)が一致しているが、医療機関は非重篤症例とし、製造販売業者は転帰が未回復であることを確認した上で重篤症例として報告している。
そもそも、副反応疑い報告は「氷山の一角」と評されるように、実態の一部しか報告されていないところ、このような症例を重篤症例から除外すればさらに過少報告となってしまう。国民に危険性を十分に伝えるという観点からも、計上方法を見直すべきである。

4 「名寄せ作業」を再開して重篤症例の累計数を明らかにし、接種者あたりの副反応疑い報告の頻度を確認・比較できるようにすべき

HPVワクチンについて、厚生労働省は、2022年6月10日以降、重複報告の「名寄せ作業」自体を中止し、ダブルカウントされたままの集計結果を合同部会に報告するようになった。
厚生労働省は、これまで3か月に1回の頻度での報告を行ってきたところ、同年4月のHPVワクチンの積極勧奨の再開から半年間は月1回の頻度で合同部会に報告することとなったことによる事務負担を軽減するために「名寄せ作業」を省略したと説明している。
しかし、「名寄せ作業」を止めた結果、ダブルカウントを調整した重篤症例の累計数が不明となったため、接種者あたりの重篤副反応疑い報告の頻度の確認や過去の累計数との比較が不可能となり、HPVワクチンの安全性の評価に大きな支障を来す状態となっている。
その結果、接種対象者に対して、HPVワクチンの危険性に関する情報提供を十分に行うことも困難となってしまった。例えば、現在、上述の厚生労働省のリーフレットには、1 万人に約6人の頻度の重篤副反応疑い報告がある旨が記載されている。この頻度自体が前記過少報告のため不正確な情報であることはすでに述べたとおりであるが、「名寄せ作業」を中止してしまった結果、こうした頻度を正しく国民に示すこと自体ができなくなってしまったのである。
厚生労働省は、合同部会への報告頻度が3か月に1回に戻った時には、重複報告症例の「名寄せ作業」を復活させる旨を述べているが、そもそも副反応疑い報告の件数はそれほど多くはないのであるから、すみやかに前記の方法に改めたうえで、「名寄せ作業」を復活させて公表することが必要である。
以上」

https://www.yakugai.gr.jp/topics/file/20220913 HPV_vaccine_fukuhannouhoukoku_arikata_youbousho.pdf

谷直樹

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by medical-law | 2022-09-15 00:20 | 医療