弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

神戸連続児童殺傷事件に関する事件記録が廃棄されていた(報道)

神戸新聞「「少年A」の全記録、裁判所が廃棄 神戸連続児童殺傷、家裁「運用、適切でなかった」 内規に抵触か」(2022年10月20日)は次のとおり報じました。

「神戸市須磨区で1997年、小学生5人が襲われ、2人が殺害された連続児童殺傷事件で、14歳で逮捕され、少年審判を受けた「少年A」の全ての事件記録を、神戸家裁が廃棄していたことが分かった。裁判の判決書に当たる少年審判の処分決定書や捜査書類、精神鑑定書など、非公開の審議過程を検証できる文書一式が消失した。最高裁による内規は、史料的価値が高い記録の事実上の永久保存を義務づけている。神戸家裁は「運用は適切ではなかった」とする一方、経緯や廃棄時期は「不明」としている。

 関係者によると、神戸連続児童殺傷事件に関して廃棄されたのは、処分決定書▽兵庫県警、神戸地検が作成した供述調書や実況見分調書▽神戸大学の中井久夫名誉教授(今年8月に死去)らが書いた精神鑑定書▽異例となる4人が任命された家裁調査官による少年Aの報告書-など。

 裁判記録を巡っては、2018年に当時の上川陽子法相がオウム真理教を巡る一連の事件の刑事裁判記録を原則永久保存すると表明した一方、19年には憲法判断を争った歴史的な民事裁判の記録が多数廃棄されていることが判明した。少年事件でも重要な記録の廃棄が分かり、改めて司法文書の保存のあり方が問われる。

 一般的な少年事件の捜査書類や審判記録は、少年が26歳に達するまでの保存が定められている。しかし、最高裁が作った裁判所の内規で、史料や参考資料となるべきものは「保存期間満了の後も保存しなければならない」とし、26歳以降の「特別保存(永久保存)」を命じている。

 さらに、この内規の具体的運用を定めた最高裁通達(1992年2月7日付)は、保存期間満了後も保存する対象例として、世相を反映した事件で史料的価値の高いもの▽全国的に社会の耳目を集めた事件▽少年非行等に関する調査研究の重要な参考資料になる事件-などを挙げる。

 これらとは別に、成育歴などを調べた少年調査記録も、保存について同様の内規や通達がある。

 一方、成人の刑事裁判記録は、記録の種類や刑の重さなどによって保管期間が法律で定められ、判決文の保管期間は100年から3年までと決まっている。

 97年2~5月に起きた神戸連続児童殺傷事件では、山下彩花ちゃん=当時(10)=と土師淳君=同(11)=が殺害された。少年Aは、「酒鬼薔薇聖斗」という名で挑戦状を遺棄現場に残したり、神戸新聞社に犯行声明文を送ったりし、少年審判を経て医療少年院に送致された。逮捕時は14歳で、当時は刑罰の対象年齢未満だった。この事件は少年法を厳罰化する契機となり、2001年の改正法施行で、刑罰の対象年齢は「16歳以上」から「14歳以上」に引き下げられた。

 少年審判は、少年の立ち直りを重視し、非公開となっている。同事件の当時は遺族は傍聴できず、記録も見られなかった。神戸家裁で審判を担当した井垣康弘元判事(今年2月に死去)は、医療少年院送致を決めた際、社会的な影響の大きさなどから、決定の要旨を公表したが、具体的な記録の内容は現在まで明らかになっていない。

 神戸家裁は、記録が永久保存にされなかった理由や廃棄された状況は不明とした上で、「当時の運用は、現在の運用からすると適切ではなかったと思われる」などとコメントした。複写も残されておらず、紛失の可能性もないとしている。(霍見真一郎)

     ◇

■神戸家裁「適切でなかった」

 神戸連続児童殺傷事件に関する事件記録の廃棄について、神戸家裁のコメントは次の通り。

 特別保存に付されなかった理由は不明だ。また、廃棄された当時の状況も不明だ。当時の神戸家裁における廃棄の判断が適切であったかどうかは、廃棄に際して実際にどのような検討がなされたのか不明だが、現在の特別保存の運用からすると、当時の本事件の記録保存の運用は、適切ではなかったと思われる。


【神戸連続児童殺傷事件】1997年2~5月、神戸市須磨区の住宅街で小学生5人が次々と襲われ、2人が殺害された事件。中学3年で当時14歳だった「少年A」が殺人容疑などで逮捕された。刑罰の対象年齢を引き下げる法改正のきっかけとなった一方、犯罪被害者の支援に目が向けられる契機にもなり、2001年施行の改正少年法では、被害者に記録の一部の閲覧・コピーを認め、08年施行の改正法では、重大事件の被害者や遺族に少年審判の傍聴を認めた。兵庫県では心の教育を見直そうと、98年から中学2年での職場体験学習「トライやる・ウィーク」が始まった。」


公用文書等毀棄罪(刑法第258条)は、「公務所の用に供する文書又は電磁的記録を毀棄した者は、3月以上7年以下の懲役に処する。」と定めています。
「公務所の用に供する」とは、「現に公務所で使用または保管されている」という意味です。
毀棄者に毀棄するという認識、認容があって、単に通達の意味を誤解し法的評価を誤って毀棄したとすれば、おそらく法律の錯誤で、違法性の意識の認識可能性があったことになるでしょう。
不明のままではなく、どのような経緯でいつ誰の指示で誰がどのよう認識で毀棄したか、調査が必要なのではないでしょうか。


谷直樹

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by medical-law | 2022-10-20 11:06 | 司法