日弁連、少年事件記録の適正な保存を求める会長声明
「本年10月20日付け神戸新聞等の報道によると、最高裁判所が全国の家庭裁判所などから少年審判に関する記録の永久保存の実情について報告を受けた結果、2018年4月から2022年8月までについては、法律記録(決定書や捜査記録など)が7件、少年調査記録(家庭裁判所調査官の報告書など)が10件で、報告したのは東京、大阪など7つの家庭裁判所であったとのことである。
当連合会では、2021年8月25日、「arrow_blue_1.gif最高裁判所による民事裁判記録の特別保存に係る通知と『愛媛玉串料訴訟』の裁判記録の存在確認に寄せての会長談話」を公表し、全ての裁判所に対して、歴史資料や学術資料として重要な民事事件の事件記録の保存状況を確認することを求めており、最高裁判所が家庭裁判所などにおける少年事件記録の保存状況について調査したことは積極的に評価できる。
しかし、上記報告結果は決して小さな問題ではない。上記神戸新聞記事によると、1997年に兵庫県神戸市で発生した中学生による児童連続殺傷事件の事件記録(神戸家庭裁判所)も、2004年に佐世保市の小学校で発生した小6女児殺害事件の事件記録(長崎家庭裁判所)も全て廃棄されていた。他方、佐賀家庭裁判所は、2000年に発生した西鉄バスジャック事件の事件記録を永久保存していることを最高裁判所に報告していなかった。
重要事件の記録廃棄等の事実は、少年事件記録の保存について家庭裁判所の関心が低いことを示していると理解せざるを得ない。
この問題に関連して、事件記録等保存規程(以下「保存規程」という。)では、少年保護事件に係る一定の事件記録等の保存期間を少年が26歳に達するまでの期間(第4条第1項・別表第一第21号)と規定する一方で、第9条第2項は、「記録又は事件書類で史料又は参考資料となるべきものは、保存期間満了の後も保存しなければならない。」(以下「2項特別保存」という。)としている。また、「事件記録等保存規程の運用について」(平成4年2月7日総三第8号高等裁判所長官、地方、家庭裁判所長あて事務総長通達)においては、「全国的に社会の耳目を集めた事件又は当該地方における特殊な意義を有する事件で特に重要なもの」、「少年非行等に関する調査研究の重要な参考資料になる事件」について、保存規程第9条第2項の特別保存に付するものとしている(第6の2(1)オ、カ)。すなわち、家庭裁判所では、少年が26歳に達した時期に2項特別保存対象となるか否かを検討し、該当するものは2項特別保存することが義務付けられているのである。
上記児童連続殺傷事件や小6女児殺害事件の事件記録が2項特別保存の対象に当たることは明らかである。それにもかかわらず、家庭裁判所がこれらの事件記録を廃棄したのは、廃棄実務において保存規程第4条第1項・別表第一第21号を形式的に運用してきたことが原因ではないかと推測される。
言うまでもなく、一度廃棄されてしまった記録は、将来いかなる事情が発生しても、二度と検証・研究の対象とすることはできない。そのこと自体は、生育歴等のプライバシー情報を多数含み、立証に必要な範囲に限定せず全記録が裁判所に送致される構造の少年事件においても変わるところがない。
そうすると、問題発覚までの運用は、少なくとも社会の耳目を集めた重大な少年事件の記録について、審理の問題性や法改正の要否・当否、被害者等に対する支援の方策を検証・検討するきっかけとなるものとして、歴史的事実の記録である公文書(公文書等の管理に関する法律第1条)としての意味をも有し、その適切な保存が国民の重大関心事であることなどに配慮していないと言わざるを得ない。
したがって、当連合会は、最高裁判所に対し、全国の家庭裁判所が現に保存している少年事件の事件記録を廃棄する際に2項特別保存の事件についてのガイドラインを策定するなどして適正に指定するよう周知徹底し、その指定及び保存状況を公表させること、さらに、前記各事件を始めとした重大な少年事件に関する事件記録を廃棄している家庭裁判所について廃棄の経緯を調査し、その結果を公表し、調査結果を踏まえた再発防止策を早急に講ずることを強く求める。」<br>
谷直樹
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