弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

東京地裁令和5年2月20日判決、母体死亡で請求額全額を認容(報道)

私が患者側代理人として裁判を進めてきた件で判決がありました。

産経新聞「出産時死亡、医療ミス認定 埼玉の病院側に賠償命令」(2023年2月20日)は、次のとおり報じました。

「埼玉県○○市の病院「○○」で平成30年7月、出産した女性=当時(34)=が子宮破裂で死亡したのは医療ミスが原因だとして、運営する医療法人社団○○会に対し、遺族が計約7600万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で東京地裁は20日、全額を支払うよう命じた。関根澄子裁判長は女性に異常が出ていたのに、助産師が医師への報告を怠り、薬の投与を続けた過失があったと認定した。

判決によると、女性は30年7月5日、分娩を誘発するために入院し、子宮収縮薬のオキシトシンが投与された。出産したが多量の出血があり、子宮破裂と診断され、同7日に転院先で死亡した。

関根裁判長は女性と胎児に、産婦人科診療ガイドラインで薬の投与を中止、または2分の1以下に減量する検討が推奨されている症状が出ていたと指摘。ガイドライン通りにしていれば子宮破裂を避けることができた可能性が高いと判断した。同病院は「コメントできない」とした。」


判決は、午後5時20分の時点では、亡Aに対するアトニン投与を中止ないし1/2量以下に減量すべき異常波形が認められていたところ、この時点で陣痛室に医師はいなかったのであるから、被告病院の助産師には、D医師又は他の医師に対し、胎児心拍波形の異常が現れたことを報告し、医師をして又は自ら直ちにアトニン投与を中止するか、又は1/2量以下に減量すべき注意義綉があった、と認定し、同注意義務の違反(過失)を認めました。

「B医師、C医師、D医師は、午後5時20分の時点で、本件CTGの子宮収縮波形(陣痛曲線)に子宮頻収縮を示す波形が現れている、と述べており、これに反する証拠はないから、午後5時20分の時点で、子宮頻収縮の所見が現れていたものと詔められる。
また、B医師、C医師、D医師は、午後5時20分頃の胎児心拍数波形について、遅発一過性徐脈の所見が認められるとし、B医師とC医師は午後5時20分の時点までに基線細変動の減少も認められるとした上、B医師は、レベル5の異常波形、C医師はレベル4の異常波形であるとそれぞれ述べている。D医師は、午後5時20分の時点で基線細変動の減少が認められるとは述べていないが、本件ガイドラインでは、基線細変動正常例において、心拍数基線が正常脈であり、かつ軽度の遅発一過性徐脈が認められる場合はレベル3の異常波形とされているから(甲B13・284頁・表2-1)、D医師の見解を前提としてもレベル3の異常波形があったことになる。
以上によれば、午後5時20分時点で、少なくともレベル3以上の異常波形があったといえるため、胎児機能不全の所見が現れていたと評価すべきであり、かつ、子宮頻収縮の所見が現れていたのであるから、本件ガイドラインにおいて、子宮収縮薬の投与の中止あるいは1/2量以下への減量を検討することが推奨される場合に該当する。
そして、午後5時20分時点での亡Aの子宮口の開大は4cmであるところ(前記1(1)イ)、C医師は、この所見について、本件ガイドラインで投与継続を考慮しても良いとされる吸引分娩等の経腟迅速遂娩術が適応にならないと述べている。         
そうすると、午後5時20分の時点では、亡Aに対するアトニン投与を中止ないし1/2量以下に減量すべき異常波形が認められていたところ、この時点で陣痛室に医師はいなかったのであるから(前記第2の2(2)エ)、被告病院の助産師には、D医師又は他の医師に対し、胎児心拍波形の異常が現れたことを報告し、医師をして又は自ら直ちにアトニン投与を中止するか、又は1/2量以下に減量すべき注意義務があったというべきである。
しかしながら、助産師は、午後5時20分の時点で、D医師にも他の医師にも報告を行わす、また、直ちにアトニン投与を中止せず、1/2量以下への減量もしなかったのであるから、上記注意義務を尽くしたとはいえず、過失がある。」

判決は、本件子宮破裂が生じたのは午後5時52分頃であると認定し、本件子宮破裂の機序について次のとおり認定しました。

「イ 本件子宮破裂の機序
前記認定のとおり、被告病院の助産師がアトニン投与を中止したのは、午後5時52分であるから(前記1(1)ウ)、本件子宮破裂は、アトニン投与中に起こったことになる。また、争点1について判断したとおり、本件CTG上、午後5時20分の時点で、子宮頻収縮及び胎児機能不全(遅発一過性徐脈、基線細変動減少)の所見が現れていた上、B医師とC医師は本件CTG上、午後5時40分から午後5時50分まで、遅発一過性徐脈と基線細変動減少の所見が現れていると述べているのであって、午後5時20分から午後5時50分頃までの間も、強陣痛を疑うべき所見が現れていたことが認められる。
本件分娩については子宮内圧の測定が行われていないため、過強陣痛があったと認定することは困難であるが、C医師は、アトニンの投与による子宮内圧の過度な上昇が生じたととが、本件子宮破裂が生じた要因のーつになった可能性は否定できないと述べており、B医師も、不適切な分娩管理の下でアトニンによって惹起された過度の陣痛(子宮内圧上昇)による急速な分娩進行を本件子宮破裂が生じた原因の一つであると述べているのであって、いずれの見解も、本件CTG上の子宮頻収縮及び胎児機能不全(遅発-過性徐脈、基線細変動減少)の所見が、アトニン投与による子宮内圧の上昇を示すものであることを前提に、アトニン投与による子宮内圧の上昇が本件子宮破裂の要因の一つとなっていると指摘するものと解される。
以上によれば、亡Aには、午後5時20分から午後5時60分頃までの間アトニンの投与による子宮内圧の上昇が生じており、これが要因の一つとなって本件子宮破裂が生じたものと認められる。」

判決は、因果関係について次のとおり認定しました。

「ウ 本件過失により本件子宮破裂が起こった高度の蓋然性
上記イのとおり、午後5時20分から午後5時50分頃までの間、アトニンの投与による子宮内圧の上昇が生じていたことが、本件子宮破裂が生じた要因の一つであるところ、B医師が、本件分娩においては、午後5時20分の時点でアトニンの投与を中止して、一旦分娩誘発を中断し、経過観察の上、改めて分娩誘発をしたり、帝王切開に切り替えるなどしていれば、母児とも安全な分娩結果で終了した可能性が非常に高いと述べていることや、C医師が、アトニンの投与を中止すれば、通常は子宮頻収縮や遅発一過性徐脈が改善すると述べていることを考慮するなら、被告病院の医師又は助産師が、午後5時20分の時点で、亡Aに対するアトニン投与を中止するか、投与量を1/2に減量していれば、子宮内圧の上昇が収まり、本件子宮破裂の発生を避けることができた高度の蓋然性があるというべきである。
なお、C医師は、アトニンの投与を中止し、子宮頻収縮や遅発一過性徐脈が改善しても、娩出力としての陣痛(子宮収縮)は必要であり、その後の経過において、子宮破裂を発症した可能性も否定できないと述べるが、本件子宮破裂とは別の機序により子宮破裂が起こり得る可能性があることをもって、本件過失と本件子宮破裂との因果関係が否定されるものではないから、かかる見解を採用することはできない。」  


子宮破裂による母体死亡はとても悲しい医療事故です。
アトニン(オキシトシン)のガイドラインに沿った使用・中止・減量が行われることを切に望みます。

谷直樹

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by medical-law | 2023-02-20 23:52 | 医療事故・医療裁判