弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

大阪の無痛分娩事故の裁判が終了

私が担当した大阪の硬膜外麻酔術による無痛分娩の麻酔事故の裁判が終了しました。

1985年生まれの女性が2017年1月10日大阪府和泉市のクリニックで無痛分娩施術の際、麻酔事故に遭い、同月20日に31歳の若さで死亡しました。
複数の産科、麻酔科の協力医に聞いた調査の結果、無痛分娩が広く行われるようになり、十分な体制がないクリニックで、麻酔について十分な知識のない医師によって硬膜外麻酔法による無痛分娩を施術が行われたための事故と考えました。

私は、刑事告訴についても代理しましたが、大阪検察庁は2回不起訴としました。検査審査会の不起訴不当の判断後にも検察は不起訴としました。一般市民の感覚と検察庁の判断のズレを感しました。

私は、配偶者と幼い子2人の相続人を代理して、2019年6月11日、大阪地裁に医療法人と医師に9383万1468円の支払いを求めて提訴しました。

2017年1月当時の医療水準を考慮しても、硬膜外麻酔法による無痛分娩を施術する医師には、麻酔事故を防止する注意義務があると考えました。主張した注意義務の違反(過失)は次の3点です。
第1は、麻酔薬アナペインを注入する前に吸引テストを行う注意義務の違反(過失)です。カテーテルが脊髄くも膜下腔に迷入している可能性を考えて、カテーテルから麻酔薬アナペインを注入する前に吸引してカテーテルの位置を確認する必要があるからです。
第2は、アナペイン注入後に下肢の運動麻痺の有無を確認すべき注意義務の違反(過失)です。感覚麻痺より運動麻痺のほうが先に生じますので、下肢が動かしづらいなどの症状がある場合、カテーテルが脊髄くも膜下腔に迷入し薬剤が脊髄くも膜下腔に注入されている可能性があるからです。
第3は、患者が呼吸苦を訴えた午後3時32分に麻酔域を調べるテストを行う注意義務の違反(過失)です。呼吸苦は、麻酔範囲が通常の範囲にとどまっている場合は起こらず、高位麻酔のときに起こり得る症状だからです。

裁判所の争点整理が進み、和解の機運が熟しましたので、逸失利益の計算等をを見直し、2021年12月20日に請求を8331万8776円(1割の弁護費用相当額分を含みます。)に減縮しました。

ところが、2022年1月12日、被告医療法人と被告医師について破産手続きが開始しました。晴天の霹靂でした。
破産手続き開始により医療裁判は中断しました。

実質的な相手方である保険会社が裁判に登場する手続きがないため、容易ではなかったのですが、2023年4月28日に破産管財人を含め関係弁護士の尽力で、裁判外で7500万円で和解しました。一般に和解では1割の弁護士費用相当分を譲歩することが多いことから、本件でも弁護士費用分を譲歩し、端数をカットした金額が7500万円です。

7500万円中7400万円は保険会社から振り込まれ、100万円分については配当率に従い破産財団からの配当金43万6969円が支払われました。
配当受領後の同年7月5日請求を取り下げ、同月25日訴訟は終了しました。

被告らの破産があり、思いの外長くかかりました。

この患者が医療事故に遭って亡くなることが無かったら、もうすぐ迎える38歳の誕生日を配偶者と2人の子どもと祝っていたことでしょう。回避できた死だけに非常に残念です。

麻酔を用いる無痛分娩にはリスクがあり、十分な体制がある施設で、研修を受けた医師によって行われる必要があります。今後、このような無痛分娩事故が起きないことを強く願います。

産経新聞「遺族側に7500万円支払いで和解、無痛分娩で31歳死亡」(2023年8月4日)御参照

共同通信「無痛分娩で31歳死亡、和解成立 医院側が遺族に7千万円、大阪」(2023年8月4日)御参照

毎日放送「無痛分娩の医療事故で31歳女性が死亡 クリニック側が7500万円の支払いで遺族と和解」(2023年8月7日)御参照

谷直樹

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by medical-law | 2023-08-05 23:34 | 無痛分娩事故