日本学術会議「提言 倫理的課題を有する着床前遺伝学的検査(PGT)の適切な運用のための公的プラットフォームの設置」
提言は、次のとおりです。
「PGT-M にはメリットだけでなく、多くのデメリットがあり、無制限の技術の適用は好ましくないと考えられることから、何らかの規制をすべきである。
PGT-M の規制を、日本産科婦人科学会という一学会に委ねるべきでない。
生殖補助医療法ならびにゲノム医療法においては、当該領域における国の責務を明確に規定しているが、PGT-M の規制においても、基本的な法律を整備したうえで、公的なサポートを受けアカデミアと社会が共同して設立するプラットフォームを設置すべきである。
そのために、PGT-M を含む生殖医療と生命倫理の検討を所管する公の機関の設置が必要であり、そこで「生まれてくる子どものための医療に関わる」生命倫理のあり方について審議・合意し、規範化を行う形が望ましい。」
東京地裁平成19年5月10日判決(中村也寸志裁判長 司法修習36期)は、産婦人科医師着床前診断を行い日本産婦人科学会から除名された事案で、学会の規制が公序良俗に反するとまではいえないとし、除名を無効とはしませんでしたが、「着床前診断の問題については、日産婦の自主規制に委ねることが社会のあり方として理想的であるということはできず、立法による速やかな対応が強く望まれる。」と付記しました。学術会議の上記提言は、この判決にも言及しています・
あるべき法制度の方向性については、次の考え方を示しています。
「病気を克服して家族を形成する権利と、臨床に携わる医師の職業活動の自由、及び生命科学者の研究の自由だけを考慮したのでは、現にゲノム差別を受けるおそれのある人々や、将来世代の福祉が保護されないことになる。医療現場に直接意見を反映させることのできないこれらの人々の利益を視野に入れ、諸外国の立法例をその文化的・宗教的背景も含めて参照しつつ、日本にとって望ましい規制を及ぼすべきである。その際、医学的知見や技術が日々進展していることを踏まえ、基本原則は法律に定めたうえで具体的な詳細な基準を専門家委員会に授権するなど、変化への適時の対応を可能にする制度とすべきことにも留意しなければならない。また、この領域の規制は一国のみの取組みでは実効性が十分とはいえず、国際的な協力のもとに進める必要のあることも重要である。」
なお、日本産科婦人科学会は、令和5年9月2日の理事会において、総務委員会内に「生まれくるこどものための医療(生殖・周産期)に関わる生命倫理について審議・監理・運営する公的プラットフォーム設立準備委員会」を設置することを決定しました。
平成19年の東京地裁判決からだいぶ時間がかかりましたが。学会の自主規制に委ねてきた現状を脱する機運が熟してきたように思います。
谷直樹
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