弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

最高裁令和5年9月12日判決の問題

日本国憲法53条は、「内閣は、国会の臨時会の召集を決定することができる。いづれかの議院の総議員の四分の一以上の要求があれば、内閣は、その召集を決定しなければならない。」と規定しています。

ところが、安倍内閣は、2017年、臨時国会の召集要求に約3カ月応じませんでした。
そこで、国会議員ら6人が国に損害賠償を求めた3件の訴訟があり、最高裁第3小法廷令和5年9月12日判決(長嶺安政裁判長)は、原告側の上告を棄却しました。

「1 憲法は、国会について会期制を採用し、内閣がその召集を実質的に決定する権限を有するものとした上で、52条、53条及び54条1項において、常会、臨時会及び特別会の召集時期等について規定している。そのうち憲法53条は、前段において、内閣は、臨時会召集決定をすることができると規定し、後段において、いずれかの議院の総議員の4分の1以上による臨時会召集要求があれば、内閣は、臨時会召集決定をしなければならない旨を規定している。これは、国会と内閣との間における権限の分配という観点から、内閣が臨時会召集決定をすることとしつつ、これがされない場合においても、国会の会期を開始して国会による国政の根幹に関わる広範な権能の行使を可能とするため、各議院を組織する一定数以上の議員に対して臨時会召集要求をする権限を付与するとともに、この臨時会召集要求がされた場合には、内閣が臨時会召集決定をする義務を負うこととしたものと解されるのであって、個々の国会議員の臨時会召集要求に係る権利又は利益を保障したものとは解されない。
所論は、国会議員は、臨時会が召集されると、臨時会において議案の発議等の議員活動をすることができるというが、内閣は、憲法53条後段の規定による臨時会召集要求があった場合には、臨時会召集要求をした国会議員が予定している議員活
動の内容にかかわらず、臨時会召集決定をする義務を負い、臨時会召集要求をした国会議員であるか否かによって召集後の臨時会において行使できる国会議員の権能に差異はない。そうすると、同条後段の規定上、臨時会の召集について各議院の少数派の議員の意思が反映され得ることを踏まえても、同条後段が、個々の国会議員に対し、召集後の臨時会において議員活動をすることができるようにするために臨時会召集要求に係る権利又は利益を保障したものとは解されず、同条後段の規による臨時会召集決定の遅滞によって直ちに召集後の臨時会における個々の国会議員の議員活動に係る権利又は利益が侵害されるということもできない。
以上に説示したところによれば、憲法53条後段の規定による臨時会召集決定の遅滞により、臨時会召集要求をした国会議員の権利又は法律上保護される利益が侵害されるということはできない。

2 したがって、憲法53条後段の規定による臨時会召集要求をした国会議員は、内閣による臨時会召集決定の遅滞を理由として、国家賠償法の規定に基づく損害賠償請求をすることはできないと解するのが相当である。
以上によれば、本件損害賠償請求を棄却した原審の判断は是認することができる。論旨は採用することができない。」


宇賀克也裁判官が反対意見を述べています。

私は、本件各確認の訴えが法律上の争訟に当たるという多数意見に賛成するものであるが、本件各確認の訴えの確認の利益及び本件損害賠償請求の当否等の点について、多数意見と意見を異にするので、これらの点について意見を述べておきたい。

1 本件各確認の訴えの確認の利益等について
国会議員にとって、国会において国民の代表として質問、議案の発議、表決等を行うことは、最も重要な活動といえ、憲法上は召集されるはずであった臨時会で上記のような議員活動をすることができないことは極めて重大な不利益であり、事後的な損害賠償によって回復できるものではないので、憲法53条後段の規定による臨時会召集要求があったにもかかわらず臨時会召集決定がされないという事態を事前に防止するための法的手段が用意されていてしかるべきである。
そして、そのような法的手段としては、抗告訴訟としての義務付け訴訟も考えられるが、臨時会の召集を抗告訴訟の対象となる処分とみることができるかについては、否定説も成立し得るから、実質的当事者訴訟としての確認訴訟は、当事者間の具体的紛争解決にとって適切な手段であるといい得ると思われる。
次に、即時確定の利益に関しては、本件は、最高裁平成13年(行ツ)第82号、第83号、同年(行ヒ)第76号、第77号同17年9月14日大法廷判決・民集59巻7号2087頁や最高裁令和2年(行ツ)第255号、同年(行ヒ)第290号、第291号、第292号同4年5月25日大法廷判決・民集76巻4号711頁と事案が異なり、同じく将来の権利行使についての確認訴訟であっても、同一には論じられないという見解はあり得るであろう。
確かに、上記各大法廷判決の事案の原告は、参政権を恒常的に与えられた者であるのに対して、本件の原告は、国会議員であり、国会議員としての地位を恒常的に有するとはいえないが、参議院の場合には解散はなく、参議院議員である原告の任期満了は令和10年7月25日であることは公知の事実であるから、任期中に再度、憲法53条後段の規定による臨時会召集要求に加わることは可能である。もっとも、選挙権の行使と異なり、臨時会召集要求は、各議院の総議員の4分の1以上によらなければ、これを行うことはできない。しかし、記録によれば、令和2年から令和4年までの過去3年間は毎年、常会等の直前の国会の閉会後間もなく臨時会召集要求が行われており、また、令和4年度の臨時会召集要求に加わった5会派の現時点での参議院の所属議員数は合計71名であって、参議院の総議員248名の4分の1に当たる62名を超え、次の参議院議員選挙が行われる令和7年までは、現在の会派別所属議員数は変更しない可能性が極めて高い(なお、令和4年の臨時会召集要求に関する事実、現時点での参議院の会派別所属議員数及び次の参議院議員選挙の時期は公知の事実である。)。もとより、臨時会召集要求は、国会議員が必要であると認める場合に行われるものであるが、上記のとおり、過去3年間、連続して臨時会召集要求が行われていること等に鑑みると、令和5年ないし令和6年においても臨時会召集要求がされる蓋然性は相当に高いように思われる。
また、記録によれば、憲法53条後段の規定による臨時会召集要求のうち20日以内に召集されたのは40回中5回しかなく、かつ、過去3年間をみても、臨時会召集決定は臨時会召集要求から20日を大きく超えてから行われている。このような事態が生じているのは、臨時会召集要求がされた場合、内閣として臨時会で審議すべき事項等も勘案して、召集時期を決定する裁量があるという認識があるからと思われ、そうである以上、令和5年ないし令和6年に臨時会召集要求がされても、20日以内に臨時会が召集されない蓋然性は相当に高いと思われる。したがって、即時確定の利益も認められると考えられる。
結論として、本件各確認の訴えは、いずれも、確認の利益が認められ、適法であると考える。
続いて、本件各確認の訴えに係る請求に理由があるか否かについて検討する。
憲法53条前段は、内閣のイニシアティブで臨時会が召集される場合(いわゆる他律的国会)についての定めであり、内閣による法律案提出の準備等の状況を踏まえて、内閣の裁量で臨時会の召集時期が決定されることになる。これに対して、同
条後段は、いずれかの議院の総議員の4分の1以上の要求があれば臨時会が召集されるいわゆる自律的国会についての定めである。
憲法53条後段が、単なる訓示規定ではなく、いずれかの議院の総議員の4分の1以上の要求があれば、内閣は、合理的期間内にその召集を決定する法的義務を負うことには異論がないと思われる。
上記要求は、理論的には、与党議員がこれを行うことは可能であるが、議院内閣制の下では、国会における多数派(ねじれ国会では、衆議院の多数派)の議員と内閣は一体であるので、内閣は与党と協議して、憲法53条前段の規定により臨時会を召集することになり、同条後段の規定による臨時会召集要求を与党議員が行うことは想定し難いから、同条後段は、実際には、少数派のイニシアティブによる臨時会の召集を可能とすることを主眼としたものといえ、このことは、憲法改正案を審議した国会での国務大臣の説明からも明らかである。そして、選挙を経て、国民の代表として国会議員となった者は、国民の負託に応えて、国会で質問、議案の発議、表決等を行う権利を有するのであり、同条後段は、会社法297条1項が定める株主の株主総会招集請求権や、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律37条1項が定める社員の社員総会招集請求権と同様の性格を有し、臨時会召集要求を行う国会議員に上記権利の行使を実現するための手続的権利を付与したもの(ただし、単独で行使できるものではなく、総議員の4分の1以上で行使するという制約を伴う)と考えられる(国会法3条は、臨時会召集要求は、議長を経由して行うこととしているが、これは臨時会召集要件を充足していることを議長に確認させるという手続上の観点によるものにとどまり、要件を充足している臨時会召集要求を議長が内閣に提出しない裁量を有するわけでないことはいうまでもない。)。
上記のとおり、いずれかの議院の総議員の4分の1以上の要求があれば、内閣は、合理的期間内にその召集を決定する法的義務を負うところ、その例外は、常会又は特別会の開会が間近に迫っているので、臨時会を召集しなくても、常会又は特別会によって国会における議論の場が適時に確保され、憲法53条後段の趣旨が没却されない場合、又は天災地変や戦争により、臨時会の召集が物理的に不可能になった場合等の特段の事情がある場合に限られると思われる。
それでは、憲法53条後段の規定による臨時会召集要求があった場合に、召集に必要とされる合理的期間はどのように考えたらよいであろうか。
まず、憲法53条後段の眼目が少数派議員による国会での質問、議案の発議、表決等を可能にするという、いわゆる「少数派権」の尊重にあること、議員も一定の要件の下で議案を提出することができること(国会法56条1項)、委員会も、その所管に属する事項に関し法律案を提出することができること(同法50条の2第1項)に加え、行政監視も国会の重要な役割であり、臨時会召集要求の重要な動機になることが多いと考えられることに照らしても、内閣が法律案提出の準備を理由として憲法53条後段の規定による臨時会召集決定を遅延させることは許されないといえよう。
そして、上記合理的期間について、憲法は定めていないが、20日あれば、十分と思われる。このことは、自由民主党の憲法改正草案において、憲法53条について、要求があった日から20日以内に臨時会を召集しなければならないと規定されていることからもうかがえる。また、同条後段と同趣旨の規定は、地方自治法101条3項に置かれているが、同条4項は、臨時会の招集の請求があった場合、普通地方公共団体の長は、請求のあった日から20日以内に臨時会を招集しなければならないと定めていることに照らしても(この期間が短すぎるという意見はなく、全国の地方公共団体で遵守されてきたことがうかがわれる。)、上記合理的期間を20日以内とすることは合理的と考えられる。さらに、憲法54条1項及び国会法2条の3第2項は、衆議院解散後の総選挙又は参議院議員の通常選挙により、衆議院又は参議院を構成する議員の入れ替わりがあり、新たな名札の作成等の準備に時間を要する場合であっても、総選挙の日又はその任期が始まる日から30日以内の国会召集を義務付けていることに鑑みても、かかる準備が不要な憲法53条後段の規定による臨時会召集要求の場合、20日以内に臨時会を召集する義務があると解することに無理はないと思われる(なお、臨時会の召集要求に当たり、たとえば、「10日以内に召集することを要求する」というように、上記合理的期間よりも短期の召集時期の指定があっても、内閣はそれに拘束されるわけではなく、上記合理的期間内に召集すれば足りると考えられる。)。
したがって、上告人が次に憲法53条後段の規定による臨時会召集要求をした場合、特段の事情がない限り、内閣において、20日以内に臨時会が召集されるよう臨時会召集決定をする義務を負うと解されるから、原判決のうち本件各確認の訴えに係る部分を破棄し、本件各確認の訴えのうち主位的訴えに係る請求を上記の限度で認容すべきである。

2 国家賠償請求について
国家賠償法1条1項は、①国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員による作為又は不作為であること、②職務関連性があること、③違法性があること、④故意又は過失があること、⑤他人に損害が生じていることを国家賠償責任の要件として規定している。そのほか、明文の規定はないが、違法な作為又は不作為と損害の間に相当因果関係がなければならず、また、その損害は、法的保護に値するものでなければならない。私は、憲法53条後段は、臨時会召集要求を行う議員の手続的権利を法的に保護する趣旨を含むと解するが、そもそも、明文の根拠なしに国家賠償法1条1項の解釈において、第三者関係性(第三者に対して負う職務上の義務)の要件を違法性の要件として組み込むべきではなく、ある損害が法的に保護されたものであるかという観点から、損害論の問題を論じれば足りる。したがって、本件においても、憲法53条後段の臨時会召集要求を受けた内閣が、召集要求をした国会議員との関係で遅滞なく臨時会を召集する職務上の義務を負うか否かを問題にする必要はなく、臨時会召集要求をしたにもかかわらず、違法に臨時会が召集されず、国会での活動の機会を奪われたことによる不利益が法的保護に値するかを問題にすれば足りる。
本件では、①及び②の要件を満たしていることは明らかと思われる。③については、本件においては、憲法53条後段の規定による臨時会召集要求から98日後に臨時会が召集された上、召集された臨時会の冒頭で衆議院が解散され、臨時会での審議は全く行われなかったので、臨時会召集要求は拒否されたとみざるを得ない。かかる対応は、上記特段の事情が認められない限り、違法であるといわざるを得ない。④についても、同条後段の規定による臨時会召集要求があった場合、内閣として法律案提出の準備に要する期間を考慮すべきではなく、事務的に必要な最小限の期間内に召集する義務があることについては、学説上も異論はないところであり、過失の存在も認めざるを得ない。また、国会議員は、国民の代表として、国会での審議に参画し、質問、議案の発議、表決等を行うことが最も重要な職務であるが、国会が召集されていない期間は、国会における国会議員としての活動はできないことになるから、違法に臨時会が召集されなかった期間は、国会議員としての活動が妨げられたことになり、⑤の要件も満たす。そして、本件において、違法な不作為と損害の間に相当因果関係があることも明らかである。
したがって、残る問題は、この損害が法的保護に値するものといえるかである。この点についても、結論としていえば、法的保護に値すると考えてよいと思われる。当審は、既に最高裁平成30年(行ヒ)第417号令和2年11月25日大法廷判決・民集74巻8号2229頁において、個々の議員が、議事に参与して表決に加わることを議会の機関としての活動の問題としてではなく、個々の議員の権利行使の問題として捉え、出席停止処分取消訴訟が法律上の争訟に当たることを前提として、司法審査の対象となるとしたのである。そこで述べられたことは、国会議員にも同様にあてはまる。すなわち、個々の国会議員は、国会の審議に参画して表決に加わる権利を有するのであり、もし、国会議員が違法に一定期間の登院停止の懲罰を受けた場合、当該国会議員は、この権利の侵害として争うことができると考えられる。違法な臨時会の召集の遅延による場合であれ、違法な登院停止の懲罰による場合であれ、国会の審議に参画して表決に加わる権利の侵害である点で共通する。
もっとも、一定期間の登院停止の場合には、当該懲罰を受けた特定の議員の権利を侵害することは明らかであるのに対して、臨時会の召集が遅延した場合には、臨時会召集要求に加わった議員のみならず、遅延期間において、全ての議員が審議に参画して表決に加わることができないことになるので、臨時会召集要求に加わった議員の法的に保護された利益が侵害されるならば、これに加わらなかった議員の法的に保護された利益も侵害されることになってしまうのではないか、そのような利益は法的に保護された利益といえるのかという疑問が生じ得る。しかし、臨時会召集要求に加わらなかった議員は、早期に臨時会で審議に加わることを欲していなかったと考えられるので、臨時会の召集が遅延したとしても、法的に保護された利益は侵害されたとはいえないのに対して、臨時会召集要求に加わった議員は、臨時会で審議に加わることを望んでいたにもかかわらず、それを妨げられたのであるから、その場合には、法的に保護された利益が侵害されたとして、両者を区別することには合理性があると考えられる。
以上の検討に鑑み、本件では、臨時会の召集が遅延したことについて特段の事情がなかったのであれば、本件損害賠償請求は認容されるべきと考えられるが、特段の事情の有無及びそれが認められる場合の損害額については原審で審理されていないので、原判決のうち本件損害賠償請求に係る部分を破棄し、原審に差し戻してこれらの点について審理させるべきと考える。」



東京新聞「志田陽子教授が語る「民主主義のプロセスの大きな問題」 憲法53条・国会召集を巡る最高裁判決を読み解く」(2023年11月3日)は、憲法学者として、この最高裁の上古棄却の問題を指摘しています。

東京弁護士会「憲法第53条後段に基づき、速やかな臨時国会の召集を強く求める会長声明」(2021年9月9日)御参照
岡山弁護士会「臨時国会の召集に関する憲法53条後段の趣旨を遵守するよう求める会長声明」(2017年11月7日)御参照


谷直樹

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by medical-law | 2023-11-03 15:47 | 司法