弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

精神科病院の虐待事件についての第三者委員会の調査報告書

八王子市の精神科病院の虐待事件について第三者委員会(委員長伊井和彦弁護士)が作成した調査報告書が公表されました。
私はこの件を担当していませんが、伊井先生とは同じ大学の研究室です。
元検事正の片岡敏晃先生も委員として作成にあたっています。
92頁に及ぶものですが、是非お読みいただきたく思います。

調査報告書


倫理観の欠如や鈍麻を助長した当該病院固有の問題のみならず、精神科医療に普遍的な問題にも言及しています。
精神疾患のみならず重度の身体合併症を併発している患者の診療・治療は大きな問題です。
調査報告書の「結語」は次のとおりです。

「第11 結語
2023年2月にテレビで報道された、滝山病院内で起こった看護師による患者への暴力・虐待の映像は、その生々しさから衝撃をもって世間に受け止められ、その後5件の刑事処分にまで至っている。そして、その後の当委員会のヒアリング等の調査により、それ以外にも患者への虐待行為や違法な身体拘束等の事実が少なからず認定されたことは、誠に遺憾なことである。
言うまでもなく、コミュニケーションの問題など精神疾患を抱える患者が多く入院する精神科病院においては、患者の人権は通常以上に細心の注意を払って守られなければならない。精神科病院という外部から遮断された環境にある以上、直接患者の皆さんと接する立場にある医師・看護師・看護補助においても、高い倫理観が求められるのは当然である。
しかし、本調査報告書の中で指摘したとおり、少なくとも2023年の春頃までは、滝山病院の医師・看護師・看護補助たちに、そのような倫理観の欠如や鈍麻の傾向が見られたことは否めない。そして、そのような状況を招いたのは、長年にわたりそのような病院内の状況に気付かず放置あるいは助長させた滝山病院の経営陣及び院長を始めとする医療体制の怠慢と無責任に原因の一端があることも、指摘せざるを得ない。
当委員会としては、このような事実認定と原因分析のもと、第10の「再発防止策の提言」を行ったが、滝山病院がこれを受けて真摯に反省し、抜本的な改革を実行することを願ってやまない。
他方、当委員会の各委員は、本件調査の過程で、精神科医療の在り方、特に精神疾患のみならず重度の身体合併症を併発して人工透析等の治療が日常的に必要な患者の方々の診療・治療の難しさを実感させられた。
当委員会が実施した、滝山病院の元入院患者(退院もしくは死亡)とその家族に対するアンケート調査において、虐待事件が報じられたことで「自分の家族も入院中にそのような虐待を受けたのではないか」と案じる一方で、「ただ、長年預かっていただいたことには感謝している」という言葉が添えられている回答が幾つもあったことも事実である。
それは、精神疾患のある家族の身を案じながらも、家庭の事情や環境でその家族を滝山病院のような長期間の入院を受け入れてくれる病院に預けざるを得ない、現在の精神疾患治療の現場の社会状況を物語っている。これまで、他の医療現場も行政も、重度の身体合併症を併発する精神疾患患者の扱いに困り、その最後の行き先として、滝山病院を暗黙の了解として利用してきた実態はなかったのか。
滝山病院の改善・改革は当然として、精神疾患と重度の身体合併症を抱える人でも、できる限り家族の近くで両方の治療ができるような地域社会の医療・看護体制の整備が、我々の社会全体で考えなければならない課題であろう。」



谷直樹

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by medical-law | 2023-12-19 12:48 | 医療