医療事故の再発防止に向けた提言 第19号「肺動脈カテーテルに係る死亡事例の分析 第1部 開心術編/第2部 検査編(2024年2月)」
第1部 開心術編
【適応の検討】
提言 1 肺動脈カテーテルの使用は致死的合併症のリスクを有するため、開心術全症例に一律に挿入するのではなく、肺動脈カテーテルを挿入する必要性とリスクを評価し、適応を検討する。
【肺動脈損傷の予防と対応】
提言 2 《肺動脈損傷を防ぐための操作》
人工心肺開始に伴う心腔内容量減少や、手術中の心臓の脱転や圧排の操作により肺動脈カテーテルが意図せず前進する可能性がある。人工心肺開始前に、右肺動脈主幹部近傍(肺門部付近)から 3 ~ 5 cm 程度引き抜き、さらに肺動脈カテーテル先端圧に変化がないことを手術操作ごとに確認する。
提言 3 《肺出血時の対応》
手術中に肺出血を認めた場合は、まず気管支ブロッカーを挿入し、対側肺への血液の流入を防ぐ。循環動態の安定と肺出血量の減少を目的とした ECMO の装着や経カテーテル的止血術あるいは肺葉切除などの外科的治療を検討する。
【肺動脈カテーテルの縫込みの予防と対応】
提言 4 《閉胸前の確認》
外科医は術野の縫合操作終了から閉胸までの間に、糸掛けを行ったすべての部位をつまみ上げるように持ち上げ、触診で肺動脈カテーテルが縫込まれていないか確認する。その後、麻酔科医は肺動脈カテーテルの可動性を確認し、同時に外科医は縫込みの可能性がある部位の引きつれがないか視診・触診で確認する。
第2部 検査編
提言 5 《肺動脈カテーテル抜去時の対応》
肺動脈カテーテル抜去時には、肺動脈カテーテルが縫込まれている可能性を念頭に置き、抵抗に気づけるような速度でゆっくり引き抜く。わずかでも抵抗がある場合は抜去を中止し、X 線透視などで確認を試みる。縫込みが疑われる場合には、手術室で開胸し抜去する。
【適応の検討】
提言 6 肺動脈カテーテル検査は致死的合併症のリスクを伴う。肺高血圧症の確定診断や病型診断には必須であるが、術前検査などにおいては心臓超音波検査で代用可能かを検討する。高齢、女性、血液凝固異常、ステロイド薬の長期使用など肺動脈損傷および致死的出血のリスクを評価し、肺動脈カテーテル検査の必要性とリスクを踏まえ検査の適応を検討する。
【肺動脈カテーテル挿入手技】
提言 7 ・肺動脈楔入圧が測定できない時に肺動脈内でバルーンの膨張と収縮を繰り返しているとたわんだカテーテルが末梢に進む場合があるため、カテーテルはX線透視下でカテーテルの先端位置を観察しながら操作する。
・カテーテル先端が末梢に迷入していると適正容量であっても肺動脈を損傷する可能性があるため、ゆっくりと抵抗を感じながら空気を注入する。また、抵抗を感じなくても適正容量以上の空気の注入はしない。
・ガイドワイヤーは可能な限り使用せず、やむを得ず使用する際は、肺動脈カテーテル先端よりガイドワイヤーが突出していないことを確認する。
・肺動脈楔入圧が測定できない場合には、固執せず他の指標で代用することを検討する。
【肺出血時の対応】
提言 8 肺動脈カテーテル検査中、咳嗽や血痰などの呼吸器症状を認めた場合は、まず肺動脈の損傷を疑い直ちに手技を中止する。血管造影で出血部位の特定を行い、経カテーテル的止血術などで止血を試みる。
谷直樹
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