弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

日弁連 障害者差別解消法医療関係事業者向けガイドライン~医療分野における事業者が講ずべき障害を理由とする差別を解消するための措置に関する対応指針~の改正案に対する意見

日本弁護士連合会は、2024年3月14日、以下の「障害者差別解消法医療関係事業者向けガイドライン~医療分野における事業者が講ずべき障害を理由とする差別を解消するための措置に関する対応指針~の改正案に対する意見」を厚生労働省に提出しました。


「1 意見の趣旨

(1) 本改正案に新設されている「正当な理由があるため、不当な差別的取扱いに該当しないと考えられる例」は全て削除すべきである。
(2) 「合理的配慮の提供義務に反しないと考えられる例」を挙げる場合は、拡大解釈されないよう十分注意した上で慎重に行うべきである。

2 意見の理由

(1) 対応指針においては、正当化事由の具体例を示すべきでない。なぜなら、差別的取扱いの事例は合理的配慮の提供により、区別、排除又は制限等を回避でき、合理的配慮の不提供の問題に集約される場合がほとんどであり、正当化事由の適切な具体例が見当たらないこと、また、正当化事由に当たるか否かは事案ごとに異なり、その多様性が大きいにもかかわらず、正当化事由に当たる具体例を挙げてしまうと、そのような場合は一律に正当化事由に当たるとの誤解や拡大解釈を招き、障がいのある人の権利保障が後退しかねないからである(2015年7月16日付け当連合会「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律のガイドラインについての意見書」8頁及び2023年1月12日付け当連合会「障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針(改定案)に対する意見」を参照。)。
詳解するに、「正当な理由があるため、不当な差別的取扱いに該当しないと考えられる例」として本改正案に示されている、「手続を行うため、障害者本人に同行した者が代筆しようとした際に、必要な範囲で、プライバシーに配慮しつつ、障害者本人に対し障害の状況や本人の手続の意思等を確認すること。」という例は、本人の意向確認と合理的配慮の提供の必要性という異なる問題が混在しており、読み手に問題の所在を混乱させる恐れがある。同行者が代筆しようとした際に本人の手続の意思等を確認することは、本人の意思確認であり、そもそも差別的取扱いが問題となる場面ではない。また、「プライバシーに配慮しつつ、障害者本人に対し障害の状況」を確認することについては、「障害の状況等を確認する」ことが差別的取扱いに当たらないと整理するのではなく、「障害の状況等を確認」し合理的配慮を提供することが適当な例として挙げるのが適切であり、「正当な理由がある」例として列挙するのは不適切である。
以上のとおり、本改正案で挙げられている「不当な差別的取扱いに該当しない」と考えられる事例は、提示事例として不適切である。

(2) 「合理的配慮の提供義務に反しないと考えられる例」を挙げる場合は、拡大解釈されないよう十分注意した上で慎重に行うべきである。
この点、本改正案において「合理的配慮の提供義務に反しないと考えられる例」として挙げられている「事業者において、事業の一環として行っていない業務の提供を求められた場合に、その提供を断ること(例えば、医療機関において、診療を終えた障害者から、自宅までの送迎を求められた場合に、当該医療機関では当該業務の一環として行っていないことから送迎はできないが、タクシー等の連絡先をお伝えすること)」は、括弧書きで具体例が挙げられてはいるが、依然として、「事業の一環として行っていない業務」の内容が不明確であり、そのため、本来、合理的配慮がなされるべきであるにもかかわらず、「事業の一環として行っていない業務」であるなどとして合理的配慮が提供されない事態を招きかねない表現である。誤解や拡大解釈につながる危険性が極めて高く、不適切であって、例として挙げるべきではない。
さらに、合理的配慮の提供義務に反しない例を挙げる場合は、このように影響が大きい対応指針に記載するのではなく、より具体的な内容を記載することで、事例を十分精査でき、判断要素や判断過程を書き込むことのできるマニュアル等に記載するべきである。

以 上




谷直樹

ブログランキングに参加しています.クリックをお願いします!
  ↓
にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ



by medical-law | 2024-03-22 01:44 | 弁護士会