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大学病院が画像診断レポートに記載された所見に対応せず 肺癌が進行し死亡した事例を公表

名古屋大学医学部附属病院は、泌尿器科外来において,2016 年 3 月に行った胸部 CT 検査の画像診断レポートを,主治医が確認はしたが適切な対応をせず肺癌の進行を許した事例を、2024年4月11日、公表しました。
患者は 2019 年 7 月(2016 年 3 月から 3 年 4 か月後)に肺癌と診断された後,同院で治療を受けましたが,2022 年 3 月(2016 年 3 月から 6 年 0 か月後)に亡くなったとのことです。 

「総括」に次のとおり記載されています。

「本事例は,画像診断レポートへの適切な対応がなされなかったことで肺癌の診断が 2 年 10ヶ月遅れ,患者の病態に差が生じ生命予後を損なったものである。
患者は名大病院泌尿器科において 2007 年から前立腺癌の治療を受け,その後は同科に定期通院をしていた。2016 年 3 月 28 日の受診の際,左下腹部痛の原因精査のために胸腹部単純 CT検査を受けたところ,放射線科医から画像診断レポートにおいて肺右上葉にすりガラス影を伴った索状影を指摘され,肺癌の除外のための精査が推奨されていた。しかし,泌尿器科主治医が画像診断レポートの指摘を熟読できていなかったため,肺野の所見への対応等が行われなかった。2018 年 12 月に患者の血液疾患に対する精査が開始されたところ,その最中に上述の肺の病変が認識され,2019 年 7 月に肺癌と確定診断された。その後,肺癌に対する治療が行われたが根治には至らず,確定診断から 33 ヶ月後の 2022 年 3 月に死亡した。死因は肺癌及び肺癌転移による腫瘍死と判断された。
2007 年から行われた当院の前立腺癌に対する診療は適切であった。
2016 年 3 月 28 日の左下腹部痛に対する診療・患者説明は標準の範囲内であったが,肺結節に対する診療及び 4 月 18 日における外来での患者説明において,担当医による放射線科医の画像診断レポートの熟読がなされず,悪性疾患を疑う所見としてその後のフォローがなされなかったこと及び患者への情報共有がなされなかったことは標準的な対応とは言えない。
当院が画像診断レポートに記載された重要所見を見落とさないよう組織的対応を行っていなかったことは,2016 年当時の水準に照らし標準から逸脱したものではないが,現在の水準に照らせば改善の余地がある。
これらの背景には外来担当医のヒューマンエラーに加え,当時当院では未読画像診断レポート管理システムの導入に重点的に取り組んでいた時期であり,重要画像診断レポートのフォロー体制については検討が開始されたばかりであったことが挙げられる。
また,患者は 2016 年 7 月と 2017 年 9 月の血液検査で白血球(10,100/μℓ と 22,000/μℓ)と血小板(53.5 万/μℓ,104.5 万/μℓ)が高値であったが,担当医による対応がなされなかったことは標準的とは言えない。
腫瘍性血液疾患及び肺癌が発覚して以降の当院における診療は適切であった。


肺癌への対応遅れが予後に与えた影響について2016 年 3 月の胸腹部単純 CT 検査の 3 か月後に再度の CT 検査が行われ,適切な経過観察,検査が行われた場合,当時の画像からすると臨床病期 IA 期の末梢小型肺癌として診断及び治療が行われていた可能性が高い。臨床病期 IA 期の標準治療は,肺葉切除+縦隔リンパ節郭清である。非小細胞肺癌の UICC TNM 分類総合ステージⅠ期の 5 年生存率(ネット・サバイバル)は 82.2%である。他方で,2019 年 7 月呼吸器内科で行われた診断結果は,臨床病期ⅢB 期であり,手術適応はなく,分子標的薬治療が開始された。この時点の UICC TNM 分類総合ステージⅢ期の 5 年生存率(ネット・サバイバル)は 30.4%である。」ことから、予後への影響を認めています。


「再発防止策の提言」は、次のとおりです。

(1) 画像診断レポートの対応漏れについて
放射線検査をオーダーした医師は放射線画像を読影することはもとより,画像診断レポートの内容に最大の注意を払い,検査結果を患者と共有するなど適切に対応する必要がある。当院は検査に関係する全ての医師に対し改めて注意喚起することが求められる。

(2) 重要検査結果に対するフラグ付け機能と第三者モニターシステムの構築画像診断レポートの未読・見落としに対する組織的対応が求められるが,未読画像診断レポート管理システムのみならず,放射線科医が重要画像診断レポートに目印(フラグ)を付け,主治医の注意喚起を促す,あるいは第三者がそれらをモニターするといった工夫が提唱されている。
当院では 5 頁※印部分記載の取り組みを行っている。これらの取り組みは同種事故防止において一定の効果が期待されるものである。今後は,目印(フラグ)付け並びに対応確認において放射線科医,診療放射線技師も,より積極的に協力を行う体制を構築することが望ましい。

(3) 血液検査結果の対応漏れについて
検査をオーダーした医師は検査結果を患者の従前の検査結果や身体状況等と照らし併せ,異常な数値があれば患者へ説明を行い,適切に対応をする必要がある。特にパニック値(致死的な異常上限値)定めにくい項目(白血球や血小板の上限値等)は注意が必要であり,当院は検査に関係する全ての医師に対してその旨を注意喚起することが求められる。

(4) コピー&ペースト機能に対する注意喚起
コピー&ペースト機能には患者情報の誤記載や誤伝達に繋がりうることから,注意喚起や使用制限の基準を設けることが望ましい。当院では 2018 年より以下の基準を導入している。
① コピー&ペースト機能を使用するものは,コピー元の記載が現在の状況に対して医学的に関連があり,適切であることを確認しなければならない。コピーを行う部分はできるだけ必要最小限な部分とする。
② コピー&ペースト機能を使用した後は,記載が現在の状況を正確に表していることを確認し,必要に応じて修正を行わなければならない。全複写を行った場合は,すぐに適切ではない部分を削除するか,修正を行わなければならない。自動入力された項目についても,適切かどうかを確認し,必要に応じて修正を行う。定型文を使用する場合は,選択肢の中から現在の状況に対して最も適切なものを選択しなければならない。
③ コピー&ペースト機能を用いて記載を行った際には,1 つのプログレスノートが全くコピー元と同じ記述となってはならない。


事故調査の重要性がわかる事例です。

「画像診断レポートに記載された所見に対応せず、 肺癌が進行し死亡した事例について」御参照


谷直樹

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by medical-law | 2024-04-12 10:30 | 医療事故・医療裁判