戸倉三郎最高裁長官の退任会見
裁判のIT化は従来の裁判の形を大きく変える可能性を秘めている、若い世代の積極的な関与が不可欠だ、若い裁判官は新しいことに果敢に挑戦し、ベテランは経験に裏打ちされた知恵で支えてほしい、という趣旨のことを述べたそうです。
日経新聞「戸倉最高裁長官が退任会見 裁判IT化「若手の力不可欠」(2024年8月7日)御参照
戸倉三郎最高裁長官は就任時に次のように述べていました。
「裁判のIT化につきましては、当面は民事裁判のIT化ということになりますが、まずは最適なシステムを構築すること、これが大切であることはもちろんでありますけれども、これを前提とした民事裁判の在り方の検討も大切だと考えております。裁判のIT化は、直接的には裁判の利用者との接点において利便性を高めるものですけれども、それにとどまらず、IT化を契機として、審理や裁判の在り方についても、合理化ないし効率化、迅速化などの更なる改善につながることが求められていると思います。また、裁判官が、電子化された記録をディスプレイ上で読み込むことは、紙の記録を読み込む場合とは、心身の負担の質や程度が異なることが予想されますので、このような観点からの新たな審理モデルの検討も必要になるように思われます。こういった点からも、これまで紙ベースで行われている現在の裁判の審理、判決の在り方を再検討することは急務であると思われ、その中では、最近の民事訴訟の審理期間の長期化への対応という点も視野に入るものと思われます。これら検討に当たっては、将来の裁判を担う若い裁判官等に積極的に関与してもらいたいと考えています。
今後の裁判所の在るべき姿という点ですけれども、社会経済活動のグローバル化や複雑化、価値観の多様化などに伴って、裁判所が取り扱う事件の内容も、複雑で専門性が高いもの、あるいは事件の背景にある価値観や利害の対立が先鋭なものが増えておりまして、裁判所による紛争解決も、こういった変化を適切に踏まえたものにしなければならないと考えております。このような事件の動向に対応するため、裁判官はこれまでも個々の事件に向き合って努力を重ね、さらに自ら研さんを重ねてきておりますけれど、最高裁としても、司法研修所を中心として、裁判官の研さんや、事案の解明に資する情報や知見の獲得を支援するための態勢を一層進める必要があるものと考えております。」
https://www.courts.go.jp/about/topics/tokura_syuuninkaiken/index.html
医療裁判は、複雑で専門性が高く、背景にある価値観や利害の対立が先鋭なものです。
IT化を契機に医療裁判の審理が変化することは必須でしょう。
事案の解明に資する情報や知見の獲得を支援するためのツールであるはずの専門委員、鑑定人が医療の庇い合いとなっている現状があります。これを、例えばIT化によって専門委員、鑑定人を近隣の地域から選ぶことを排することができれば、庇い合い是正の契機になるかもしれません。また、鑑定意見を専門知見として集積公表することで、弁護士が証拠化し、裁判官が専門知見を得やすくなるかもしれません。
効率化、迅速化だけではなく、高い立証の壁に阻まれて患者側が敗訴する現状を変えていく必要があると思います。IT化が医療裁判の良い方向への変化の契機になることを願います。
谷直樹
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