日弁連、特別公務員暴行陵虐罪で告発された検察官を被告人とする付審判決定に関する会長談話
「2024年(令和6年)8月8日、大阪高等裁判所は、いわゆるプレサンス事件に関し、無罪が確定した元会社社長の部下の被疑者取調べを担当し、特別公務員暴行陵虐罪(刑法195条1項)で告発された検察官を被告人とする事件を大阪地方裁判所の審判に付する旨の決定をした。その公訴事実の要旨は、当該検察官が取調べにおいて被疑者に対し、大声を交えながら激しい口調で長時間にわたり一方的に叱責、罵倒するなどして、陵辱若しくは加虐の行為をしたというものである。
特別公務員暴行陵虐罪にいう「陵辱若しくは加虐の行為」とは、暴行以外の方法で精神的又は身体的に苦痛を与える行為と解されているところ、付審判請求を棄却した原決定も、当該検察官の言動はこれに該当するとの判断を示していた。憲法は公務員による拷問を絶対的に禁止し(36条)、拷問等禁止条約も「締約国は、自国の管轄の下にある領域内において拷問に当たる行為が行われることを防止するため、立法上、行政上、司法上その他の効果的な措置をとる」(2条1項)ものとしているのであるから、被疑者に不当な精神的苦痛を与える取調官の言動を犯罪として処罰し、これを予防することは、法治国家として当然に要請されている事柄である。訴追された取調官にも無罪と推定される権利を始めとする刑事被告人の諸権利が等しく保障されなければならないことは当然であるが、公務員による人権侵害行為が審判の対象である以上、公開法廷における審理を通じてその責任の有無や程度が判断される必要性は大きい。
2016年改正刑訴法により取調べの録音・録画制度が創設された後も、被疑者に精神的苦痛を与え、検察官の見立てに沿って供述を変更させるような取調べは後を絶たない。そのような取調べは録音・録画の下ですら繰り返されており、検察がほぼ全く録音・録画を実施していない在宅被疑者の取調べにおいても、自白や供述の変更を強要された旨の訴えが相次いでいる。このような実状に照らすと、違法な取調べを一部の検察官の資質や能力の問題と捉えることは適切でなく、検察全体の抱える根深い問題の表れと見なければならない。
検察は2010年に検察不祥事が発覚して以降、「取調べの適正」確保を掲げてきたが、その「取調べの適正」の考え方に根本的な誤りがある。当連合会が「arrow_blue_1.gif取調べの在り方を抜本的に見直し、全ての事件における全過程の録音・録画を実現するとともに、弁護人を立ち会わせる権利を確立することを求める決議」(2024年6月14日)で指摘したように、取調べは、本来的に、捜査機関の心証に合致する供述証拠を作るためのものではなく、任意の供述を求め、その供述を聴取・保存する手続である。捜査機関の心証に合致するように供述を誘導することも、その手段として精神的苦痛を与えることも、刑事裁判の事実認定を誤らせ、市民の人権を侵害する違法行為にほかならないのであって、「真実を語らせ」「反省を促す」などという口実で正当化され得るものではない。
当連合会は、今回の付審判決定を受けて、 取調べにおける人権侵害と捜査機関により作られた供述証拠によるえん罪を防止するために、全ての事件の全ての被疑者及び参考人の取調べにつき録音・録画を義務付ける法改正をするとともに、供述しない意思を明らかにしている被疑者の取調室への留め置きを規制し、被疑者が取調べを受けるに際しては弁護人を立ち会わせる権利を確立することを重ねて求めるものである。 」
谷直樹
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