京都弁護士会、選択的夫婦別姓(別氏)制度の導入を求める会長声明
「1898年施行の明治民法は「家」制度を導入した。そこでは、氏は「家の名称」であり、戸主及び家族はみなその家の氏を称した。夫婦の氏について直接の規定はなかったが、妻は婚姻により夫の家に入ることとされたため、妻が夫の属する家の氏を称することを通じて夫婦は同氏となった。
1947年、日本国憲法の制定に伴う民法家族法部分の改正が行われ、「家」制度は廃止され、氏は「個人の呼称」になった。ところが、氏を同じくする夫婦が共同生活を営むという現実は変わらないとして、夫婦同氏の原則は維持された。それが民法750条である。民法750条は「夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫または妻の氏を称する」と定めて夫婦同氏を義務付け、これを受けて戸籍法74条1号は婚姻届にその夫婦の氏を届け出ることを規定した。両規定の結果、夫婦が称する氏を定めない限り、婚姻届は受理されないこととなった。
すなわち、法的な「家」は廃止したものの、「家」の機能(家父長による支配と社会政策の代替作用としての相互扶助等)を維持することで道徳的な「家」を残存させるため、戸籍制度を維持し、親族間の扶養義務(730条、877条2項)を付加し、夫婦同氏強制制度(750条)を新設するという、不徹底な改正であった。日本国憲法の定める個人の尊重と両性の平等が徹底されなかったのであり、いまだに家父長的な家族観・婚姻観や固定的な性別役割分担意識が残存するのも、この不徹底の故と言うべきである。
以来、80年近くが経過する現在でも、法律婚をするカップルの約95%は女性が氏を変えている(厚生労働省「人口動態統計」令和5年)。カップルの一方が氏を改めない限り法律婚は成立せず、法律婚を成立させるためにはカップルの一方が氏を改めることを強制されるというこの制度は、「婚姻の自由」及び「氏の変更を強制されない自由」を侵害し、人格権を保障する憲法13条に違反する。また、夫婦別氏を望むカップルに法律婚を認めないとする合理的理由は見いだせないこと、現実には圧倒的に女性が「氏の変更を強制されない自由」を侵害されていることからも、夫婦同氏強制制は法の下の平等を保障する憲法14条に違反する。さらに、憲法13条及び14条1項の趣旨を婚姻に反映させた憲法24条にも違反する。
日本が批准する女性差別撤廃条約や市民的及び政治的権利に関する国際規約(自由権規約)でも、各配偶者には婚姻前の氏の使用を保持する権利があるとされている。国連女性差別撤廃委員会は、日本政府に対し、2003年7月、2009年8月及び2016年3月の三度にわたり、女性が婚姻前の氏を保持することを可能にする法整備を勧告した。国際人権(自由権)規約委員会は、2022年11月の総括所見で、民法750条が実際にはしばしば女性に夫の氏を採用することを強いている、との懸念を表明した。世界各国の婚姻制度を見ても、夫婦同氏を法律で義務付けている国は、日本のほかには見当たらない。
近時の世論や情勢に目を向ければ、官民の各種調査において選択的夫婦別姓(別氏)制度の導入に賛同する意見が高い割合を占め、多くの地方議会でも同制度の導入を求める意見書が採択されている。
日本弁護士連合会は、2024年6月14日、「誰もが改姓するかどうかを自ら決定して婚姻できるよう、選択的夫婦別姓制度の導入を求める決議」を採択し、同年6月18日、一般社団法人日本経済団体連合会は、通称使用に伴う課題(金融機関との取引や海外渡航の際機能しない等)が、企業にとってもビジネス上のリスクになりえる事象であると断じ、選択的夫婦別姓(別氏)制度の導入を求めている。
そして、2024年10月29日、国連女性差別撤廃条約委員会は、日本政府に対して、女性が婚姻前の氏を保持することを可能にする法整備の勧告を行った。これは4度目である。
国は、この問題が「婚姻の自由」や「氏名の変更を強制されない自由」に関わり、法の下の平等にも関わる人権問題であることを真摯に受け止め、かかる人権侵害を速やかに是正すべきである。
当会は、2015年12月24日付け「夫婦同姓の強制及び再婚禁止期間についての最高裁判所判決を受けて、民法(家族法)の改正を求める会長声明」、2021年7月21日付け「最高裁判所大法廷判決を受けて、改めて選択的夫婦別姓(別氏)制度の導入を求める会長声明」により、選択的夫婦別姓(別氏)制度の導入を求めてきた。
今、改めて国に対し、夫婦同氏を義務付ける民法750条を改正し、選択的夫婦別姓(別氏)制度を導入するよう求める。当会は、その早期実現のため、全力を挙げて取り組む決意である。」
谷直樹
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