医療事故情報センター、院内事故調査の公表に関する意見
「1.院内事故調査報告書を公表することの意義
(1)同種事故の再発防⽌・医療の安全の確保という制度⽬的に適うこと
医療事故調査制度は、医療法第三章「医療の安全の確保」の中に位置づけられています。同制度の⽬的は、医療の安全を確保するために、医療事故の再発防⽌を⾏うことです。医療事故が発⽣した医療機関において院内事故調査を⾏い、医療事故の原因の究明・分析を⾏って再発防⽌策を導き出し、これを実施していくことで同種の医療事故の発⽣を低減し、また、院内事故調査の結果を医療事故調査・⽀援センターが収集・分析することと併せて、医療をより安全なものとする制度です。
院内事故調査の対象となる検査や⼿術等の医療⾏為は、他の多くの医療機関において実施されていることも多く、院内事故調査報告書において指摘されている医療事故の原因や再発防⽌策は、当該医療機関のみならず、同種の医療⾏為を⾏っている他の医療機関にとっても⼤いに参考となる情報です。院内事故調査報告書が公表されることによって、医療機関の垣根を越えて情報共有されることには極めて⼤きな意義があります。
また、院内事故調査における検討の視点や再発防⽌のあり⽅などは必ずしも⼀律ではなく、患者の状態、検証を⾏う者の専⾨領域、医療機関の規模・機能等によって様々です。院内事故調査報告書が公表されることによって、ひとつの医療事故に対して様々な⽴場、視点からの議論が可能となり、同種事故の院内事故調査にあたっても参照され、より安全な医療の提供に向けての議論へと発展していくものと思料します。
このように、院内事故調査報告書が公表されることは、医療事故の原因究明・再発防⽌、さらには医療の安全の確保という医療事故調査制度の制度⽬的そのものに適うものであり、⾮常に⼤きな意義があります。
なお、こうした公表の前提には、患者や医療関係者など当事者のプライバシーへの配慮が⼗分になされている必要があることは⾔うまでもありません。万⼀にも、公表された院内事故調査報告書に対して当事者を不当に誹謗中傷するような⾏為がなされるような場合には、当該⾏為に対して厳正に対応すべきであって、このような事態が⽣じ得る懸念があることを理由として、院内事故調査報告書の公表の否定書の公表の否定することは制度の趣旨を損なうものです。
(2)医療の透明性を⾼めることにつながること
医療事故調査制度は、2004年9⽉に公表された『⽇本医学会加盟の主な19学会の共同声明』において、「診療⾏為に関連して患者死亡が発⽣したすべての場合について、中⽴的専⾨機関に届出を⾏なう制度を可及的速やかに確⽴すべき」との⾒解が⽰されたことを踏まえて議論が進められてきました。同声明中で、「医療の信頼性向上のためには、事態の発⽣に当たり、患者やその家族のみならず、社会に対しても⼗分な情報提供を図り、医療の透明性を⾼めることが重要である」と明記されています(下線は当センターによる)。このように、社会に対する情報提供を⾏うことによって、医療の透明性を⾼め、医療の信頼性向上に資することは、医療事故調査制度の運⽤を考えるにあたって極めて重要な視点であると⾔えます。院内事故調査報告書の公表は、医療の透明性の確保のために医療界に求められる姿勢に沿うものです。
こうした観点から、多くの医療機関が医療事故の公表基準を定め、⼀定の医療事故について公表し、また事故調査報告書が公表されてもいるところです。
(3)社会との協働による医療安全の確⽴にも資すること
安全な医療が提供されることは、すべての国⺠の⼼からの願いです。これは医療界のみの取り組みによって実現されるものではなく、国⺠もまた、医療事故や医療安全、医療事故調査制度について理解していかねばなりません。そのためには、どのような医療事故が起きているのか、それに対してどのような検証が⾏われ、再発防⽌策が導き出されているのかを国⺠も知ることが重要です。
ところが、現状、医療事故に関する報道は、メディアを通じた部分的な情報が提供されるに留まることが多く、国⺠は必ずしも⼗分な情報を正しく知る機会を得られていません。
医療の安全を⽬的として院内事故調査報告書が広く社会に公表されることは、市⺠の医療事故や医療事故調査制度への理解を進めることにつながり、医療の安全が医療界と国⺠との協働によって実現されるべきものであるという観点からも⾮常に重要な取り組みであると考えます。
(4)当該医療機関の医療従事者の安⼼にもつながること
院内事故調査報告書が公表されず、医療事故についてメディアを通じた部分的な情報が提供されるに留まることで、院内事故調査の内容が正しく伝わらないまま様々な憶測を呼んでしまうことがあります。こうした状況は、上記のように我々国⺠にとってだけではなく、当該医療機関の医療従事者にとっても望ましい姿ではありません。実際に、院内事故調査報告書が公表されたことについて、当該医療機関の職員の多くが前向きに受け⽌めていたという実例も確認されています。
このように、院内事故調査報告書が公表されることは、当該医療機関の医療従事者らを憶測に基づくあらぬ批判から守ることにも繋がります。
2.公表が制度上禁⽌されていないこと
医療法など法令には、院内事故調査報告書の公表を禁⽌する規定はありません。
したがって、院内事故調査報告書を公表することは、それが徒に当事者のプライバシーを明らかにするようなことがない限り、何ら法令に違反するところはありませんし、制度上想定されていない対応でもありません。
なお、法令上、医療事故調査・⽀援センターへの報告にあたり、病院等の管理者は、遺族に対して、医療事故の発⽣⽇時、場所や状況、医療事故調査の実施計画の概要などの報告が必要ですし、院内事故調査後に同センターに報告するにあたっても、遺族に対して、医療事故調査の項⽬や⼿法、結果などについて報告されることが必要とされています。これらの報告を受けた遺族が、当該医療機関や医療従事者らに対して責任追及を考えることはあり得るところですが、これは事故調査報告書の公表の有無に関わるものではありません。
以 上」
谷直樹
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