弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

薬害オンブズパースン会議、リアルワールドデータのみに基づく薬事承認申請を可能とする 薬機法改正に反対する意見書

薬害オンブズパースン会議は、2024年12月12日、「リアルワールドデータのみに基づく薬事承認申請を可能とする 薬機法改正に反対する意見書」を提出しました。

「第1 意見の趣旨
臨床試験成績によらず、リアルワールドデータのみに基づく薬事承認申請を可能とする「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律 (昭和 35 年法律第 145 号、以下「薬機法」) 改正に反対する。

第2 意見の理由
厚生科学審議会医薬品医療機器制度部会において、5年毎に行われる薬機法の見直しに向けた審議が行われているが、その中で、「医薬品や医療機器の薬事承認申請について、臨床試験成績によらず、リアルワールドデータ(RWD)のみの臨床成績による承認申請も可能であることを法律上明確化してはどうか」という提案が 2024 年 6 月 6 日に厚生労働省からなされた。これに対して複数の委員から重要な問題であり慎重に扱うよう意見が出されているが、制度部会の議題の多さもあって十分に審議されることなく、2024 年 11 月 28 日の部会以降、とりまとめが始まっている。
現行の薬機法14条第3項では、医薬品の「承認を受けようとする者は、厚生労働省令で定めるところにより、申請書に臨床試験の試験成績に関する資料その他の資料を添付して申請しなければならない。」と規定しており、医療機器においても同法23条の2の5第1項に同様の記載がある。厚労省の前記提案は、この規定の変更にかかわる提案であり、厚生労働省は、これを「ドラッグ・ラグやドラッグ・ロス解消に向けた創薬環境・規制環境の整備」の一環と位置づけている。
しかしながら、リアルワールドデータが臨床試験データに替わり得るかは学術的に全く合意されていない。またリアルワールドデータを薬事承認・保険償還などの重要な意思決定に用い得るかについても、学術的にも社会的にも全く合意されていない。そのため、委員からも「RWD を用いた観察研究のエビデンスでよいとする考え方は、有効性および安全性に関する厳密なエビデンスの必要性を軽んじ、中長期的には新薬開発をかえって妨げるという厳しい指摘もあります。医薬品の申請および承認という重要な意思決定には RCT のエビデンスが必要であり、むしろ RCT を安全かつ迅速に実施するための対策こそが必要」とする意見3が出されている。
近年の薬機法の改正によって、例外的な承認制度が数多く設けられたが、法改正時に厚労省によって行われた慎重に適用する旨の説明とはかけ離れた運用がなされ、有効性が乏しく安全性に問題のある医薬品が市場に出ることを許している現状がある4ことに照らせば、「RWD を用いた観察研究がなし崩し的に新薬開発に使われ、結果として質の低いデータで承認されることにならないか危
惧」されるという委員の指摘 は、杞憂とはいえない。

第3 結論
以上から、当会議は、臨床試験成績によらず、リアルワールドデータのみに基づく薬事承認申請を可能とする薬機法改正に反対する。
厚生科学審議会医薬品医療機器制度部会は、この点の改正を含める形で同部会のとりまとめを行うべきではなく、厚生労働省は次期通常国会にかかる拙速な薬機法改正案を提出すべきでない。

以 上」



谷直樹

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by medical-law | 2024-12-17 08:26 | 医療