弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

神奈川県立こども医療センター「令和6年2月に発生した医療事故について」

神奈川県立こども医療センターは、令和6年 12 月 24 日、「令和6年2月に発生した医療事故について」をそのサイトに掲載しました。外部の専門家を含む院内医療事故調査委員会は、患者が死亡したのは、病気に起因するもので、脳神経外科専門医及び小児神経外科学会認定医による見解を評価基準とすると当該医療行為は標準を外れたものではなかったと評価したとのことです。

「1 概要

○ 患者(10 歳代・男性)は水頭症に対する脳室腹腔シャント(以下「VP シャント」という。)の機能不全(シャント閉塞)のため入院。シャント再建手術を待機している間に急激な頭蓋内圧亢進をきたし、入院翌日に緊急手術(シャント再建術)を施行したものの、高度な脳損傷に至り、入院 19日目にお亡くなりになられた。

○ 当センターでは、この事例について、医療法第6条の 10 第1項に規定する医療事故に該当すると判断し、医療法の規定による医療事故調査制度に則って委員会を設置し、原因究明及び再発防止の検討を行った。

○ 委員会は、医療行為実施時点における情報について、事前的視点から検証・分析を行った。なお、シャント不全治療に対するガイドラインやマニュアルが存在しないことから、脳神経外科専門医及び小児神経外科学会認定医による見解を評価基準として検討を行った。

2 委員会から示された再発防止策

(1) VP シャント機能不全管理の改善

① 手術待機中のシャント穿刺/排液のスケジューリングVP シャント機能不全に対し、脳室側シャントの疎通性が保たれている場合には、待機手術が可能であるが、待機中には、患者の特性やシャント穿刺/排液に伴う感染リスクなどを考慮した上で、計画的なシャントからの穿刺/排液を行うことが望まれる。

② 診療科間の情報共有に関する体制整備
当院においては、高度の専門性という大義の下、診療科間に不可侵のムードが存在し、部署を横断した積極的な関わり合い(診療行為への良い意味での干渉)を阻む構造となっていることが指摘されている(令和6年2月、神奈川県立病院機構医療安全推進体制に係る外部委員会調査結果報告書)。
入院後に予期していない病態変化を認める場合には、関連診療科の代表が参集して緊急カンファレンスを開催するなど情報共有の機会を設けることが必要である。また、脳神経外科医が院内にいない場合の評価、対処方法などについても関連診療科間で統一しておくことが求められる。

③ 脳神経外科診療体制の改善
夜間休日において脳神経外科はオンコール体制となっている。オンコール医を呼びにくい背景となっている診療体制(オンコール医が夜間に呼ばれ診療を行い、十分な休息が取れない場合でも、翌日通常勤務になる勤務形態)の改善や脳神経外科医オンコール医を呼び出すべきオンコール基準の明確化などが望まれる。

④ VP シャント機能不全管理対策の多職種間での共有VP シャント機能不全管理に関して多職種が参照できる手順書を作成、定期的に内容の見直しを図り、関係部署で共有することが望まれる。

(2) IC(インフォームドコンセント)の適切な施行とリスク提示

① 院内ガイドラインに沿った IC の適切な施行
医療者が医療を実施する際には、機を逸することなく、説明と同意が行われ、その内容についてカルテ記載する、医師以外の医療スタッフの同席に努めるなど、院内ガイドラインを遵守する必要がある。その際、患者家族の反応を含めて記載すべき事項の整理された院内共通の記載方法で記録されることが望ましい。

② VP シャント機能不全の IC における合併症などのリスク提示
VP シャント機能不全の IC 内容には「急激な脳圧亢進により生命の危険をきたす可能性がある」ことなど、合併症に関する記載を追加することが求められる。」



谷直樹

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by medical-law | 2024-12-25 11:45 | 医療事故・医療裁判