死刑確定者の民事裁判への出廷を拘置所に拒まれ訴えを取り下げたとみなされた件で、大阪弁護士会人権擁護委員会が阪刑務所長に警告
「第1 警告の趣旨
貴所の被収容者が当事者となる民事訴訟手続において、裁判所から出頭を求められたことを理由として被収容者が出頭許可を求めた場合は、出頭を許可することにより貴所内の規律及び秩序の維持に放置することができない程度の障害が生ずる具体的蓋然性があるという十分な根拠が認められ、そのため被収容者の出頭を制限することが必要かつ合理的と認められる場
合を除き、出頭を許可するよう、警告する。
第2 警告の理由
1 当会が認定した事実
貴所に収容されている申立人は、Y氏が申立人の名誉を毀損する内容の雑誌掲載記事を書いたとして、Y氏を被告とする損害賠償請求訴訟を徳島地方裁判所に提起した。
徳島地方裁判所は令和3年3月2日に第1回口頭弁論期日を指定し、申立人に対し呼出状を送付して出頭を求めたが、貴所が許可しなかったため、申立人は出頭することができなかった。
その後、申立人が大阪地方裁判所への移送を申し立てたところ、徳島地方裁判所は同訴訟を大阪地方裁判所へ移送した。
大阪地方裁判所は、申立人が申し立てた裁判官忌避手続を終えた後の令和5年7月21日に第2回口頭弁論期日を指定し、申立人に対し呼出状を送付して出頭を求めたが、貴所が再び許可しなかったため、申立人は出頭することができなかった。
その結果、当該訴訟について、当事者双方が連続して2回、口頭弁論期日に出頭しなかったとして民事訴訟法第263条後段が適用され、訴えの取下げがあったものとみなされた。
なお、貴所は、第2回口頭弁論期日への申立人の出頭を許可しなかった理由として、当該訴訟については訴訟代理人を選任することが可能であり、必ずしも申立人自らが遂行しなければならないものではないこと、同日の口頭弁論期日において本人尋問等が予定されていないこと、申立人を口頭弁論期日に出頭させることになれば、別途戒護職員及び護送車両を確保する必要があり、「管理運営上の支障」が生じることなどを総合的に考慮したと回答しており、その「管理運営上の支障」の内容については、被収容者の収容確保並びに、その処遇のための適切な環境及びその安全かつ平穏な共同生活を維持する目的を実現するために執り得る様々な措置に支障が生じる、という抽象的な説明しかなかった。
2 裁判を受ける権利の侵害が著しいこと
被収容者が民事訴訟手続において裁判所へ出頭することの許可を巡っては、既に当会が貴所に対し令和4年3月22日付で勧告している。
すなわち、まず、権利・自由が侵害されたときに司法救済を受けられるとする裁判を受ける権利(憲法第32条)は、刑事施設に収容されている者であっても最大限尊重されるべき人権であり、裁判の当事者として裁判所に出頭し、自ら主張立証する権利が保障されなければならない。
他方で、刑事施設に収容されている者に対する権利制限は、収容目的と施設管理の規律保持のための必要最小限のものに限られるべきであって、刑事施設長に、裁判所への出頭の許否に対する広範な裁量を認めるべきではない。
したがって、被収容者が裁判所への出頭を制限されるのは、当該具体的事情の下で出頭を許可することによって同所内の規律及び秩序の維持に放置することができない程度の障害が生ずる具体的蓋然性があることが十分な根拠に基づいて認められ、そのため出頭を制限することが必要かつ合理的と認められる場合に限られるべきである。
また、民事訴訟手続において弁護士の選任は法律上強制されていない以上、被収容者に限って弁護士選任を事実上強制されることは許されないし、身体を拘束されている被収容者が適切な弁護士を選任することは事実上困難であるところ、2回連続で口頭弁論期日に出頭しなければ、訴訟の取下げとみなされ、訴訟を継続することができなくなる可能性が高い。
以上により、当会は貴所に対し、当該具体的事情の下で出頭を許可することによって同所内の規律及び秩序の維持に放置することができない程度の障害が生ずる具体的蓋然性があることが十分な根拠に基づいて認められ、そのため出頭を制限することが必要かつ合理的と認められる場合に限って出頭を不許可とするよう勧告した。
にもかかわらず、本件においても貴所は、護送車両及び戒護職員等を確保する必要があるという抽象的な理由で申立人の裁判所への出頭を不許可とした。特に、本件申立人は死刑確定者であるため、他の未決拘禁者とは異なり、弁護士と接する機会が限りなく少ないことに鑑みれば、申立人自身が裁判所へ出頭する権利は最大限尊重されるべきである。
貴所の本件対応は、申立人の裁判を受ける権利を著しく侵害することはもちろんのこと、当会が既に勧告した内容を無視し、同じ人権侵害を繰り返したものであるから、その重大性は看過できないものである。
なお、現行の民事訴訟法においては、口頭弁論期日について、映像と音声の送受信により相手の状態を相互に認識しながら通話することができる方法によって参加する方法(いわゆるウェブ会議を利用した口頭弁論期日参加)も認められている。したがって、仮に、被収容者の民事訴訟手続への出頭を許可することにより貴所内の規律及び秩序の維持に放置することができない程度の障害が生ずる具体的蓋然性があるという十分な根拠が認められ、そのため被収容者の出頭を制限することが必要かつ合理的と認められる場合であっても、上記ウェブ会議を利用した参加方法が可能となるよう、貴所におかれては、ウェブ会議システムの配備についても対応されるべきである。
3 結論
以上により、警告の趣旨に記載したとおり警告する。」
以上
谷直樹
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