弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

松橋事件最終報告書

日本弁護士連合会のサイトに「松橋事件最終報告書」が掲載されました。

https://www.nichibenren.or.jp//library/pdf/activity/human/human_rights/report/report_matsubase.pdf

長文の報告書ですが、教訓等について以下のとおりまとめています。

「松橋事件がもたらした教訓
松橋事件の経過の中で、極めて重要だったのは、証拠の保管を事前に請求し、その上で証拠物の開示を求めたところ、全ての証拠物について開示されたことである。なぜ、全ての証拠物が開示されたのか理由は分からないが、この証拠物開示がなければ、燃やしたはずのシャツの片袖を見つけることもなかったし、凶器の正確な形状を知ることもなかった。
しかし、同じ頃に請求した未提出の証拠書類については、開示が拒否された。これについては、再審請求審において、三者協議が丁寧に開かれ、証拠開示についての勧告が出され、検察官がこれに応じるなど、比較的広く証拠が開示された。
「再審格差」が言われる中で、証拠開示の点では松橋事件は恵まれていたと言えるかもしれない。証拠開示は是非とも必要な手続である。

松橋事件の場合、特に時間がかかったのは再審請求までの準備だった。証拠物の開示で、巻付け布を切り取って燃やしたはずのシャツの左袖が完全な形で現れた時、立ち会ったメンバーは一瞬息を飲んだ。この事実は宮田さんの無実への確信を一層強いものにした。しかし、誰もこれだけで再審が実現するとは思っていなかった。「きっと別の布を使ったのだろう」と言われかねなかった。私たちはさらに新たな新証拠を探さなければならなかった。再審開始決定のハードルが高すぎるのである。この高すぎるハードルは他の多くの事件でも、立ちはだかる壁となっている。再審決定の要件についても見直されることが必要である。
松橋事件においても、他と同様、検察官は再審開始決定に対し即時抗告を行い、それが棄却されるとさらに特別抗告を行った。このため、再審開始決定が確定するまでに2年半もかかってしまった。既に高齢に達している請求人にとって、2年半という時間は長すぎる。しかも、検察官の抗告はいずれも理由のないものであり、これが単なる引き延ばしに過ぎないということは明らかだった。
(中略)
終わりに
本事件は、証拠物に関して、再審請求の準備の段階で閲覧をすることができ、それが重要な証拠となったことと、創傷を形成したとされる凶器についての法医学鑑定が決め手となったことが、無罪の判決を得ることができた大きな要因の一つである。
この過程で捜査側における証拠隠しという重大な問題が存在している。それ以外にも、捜査の過程で、もっと捜査が予断なく徹底的に行われていれば、このようなえん罪事件が起きていなかったと思える状況も多々見受けられるのである。
また、本事件は違法な取調べにより自白の強要がなされた。えん罪防止の観点からも取調べの録音・録画を徹底すべきである。
現在、この事件は、国と県を被告とした国家賠償請求訴訟として熊本地方裁判所に提訴され、審理が係属している。このようなえん罪を起こさないためにも、また、被告人とされた者とその家族が、えん罪事件により、多大な困難を負わされた責任を明らかにするためにも、この訴訟において成果を得るための動きが継続中であることを付言してまとめの終わりの言葉としたい。」



谷直樹

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by medical-law | 2025-02-05 00:19 | 弁護士会