弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

愛知県弁護士会「国際刑事裁判所の独立性と公正性を守ることを求める会長声明」

愛知県弁護士会は、2025年3月 7日、「国際刑事裁判所の独立性と公正性を守ることを求める会長声明」を発表しました、

「国際刑事裁判所(International Criminal Court: ICC)は、「二十世紀の間に多数の児童や女性、男性が、人類の良心に深く衝撃を与える想像を絶する残虐な行為の犠牲者となってきた」ことを受け、ジェノサイド犯罪、人道に対する犯罪、戦争犯罪及び侵略犯罪といった、国際社会共通の価値を毀損する特定の重大な犯罪である「国際犯罪」(コア・クライム)について、「不処罰の文化」を終わらせるために作られた国際刑事司法機関(裁判所)である。ローマ規程採択後、ICCは常設の国際刑事司法機関として誕生し、国家が関与することが多く領域国の国内裁判所による裁判が困難なコア・クライムについて、個人の刑事責任を追及する役割を担っている。「国際社会全体の関心事である最も重大な国際犯罪」の被害者の苦しみに光をあて、法に則った司法手続を行うことで、人類全体の平和と安全と人間の尊厳を維持することが、ICCの使命である。

 近年、国家によるICCに対する非協力的な動きや制裁が活発になっており、ICCの活動が重大な危機に直面している。

 2023年(令和5年)3月、ICCは、ロシアがウクライナの占領地域から子どもたちをロシア側に移送したことは国際法上の戦争犯罪にあたるとしてプーチン大統領らに逮捕状を発出した。これに対し、ロシア政府は、逮捕状を発出したICCのカリム・カーン主任検察官や赤根智子ICC判事(現ICC所長)を指名手配した。なお、モンゴルは、締約国であるにもかかわらず、同国を訪問したプーチン大統領を逮捕しなかった。

 また、2025年(令和7年)1月9日、アメリカ議会下院は、ICCが2024年11月に、ガザ地区での戦闘をめぐり、戦争の手段として民間人を飢餓に陥らせたり、殺人、民間人に対する意図的な攻撃指示をしたなどとして戦争犯罪や人道に対する犯罪の疑いで、イスラエルのネタニヤフ首相などに逮捕状を出したことへの対抗措置として、ICCの関係者に制裁を科すことを可能とする内容の「非合法裁判所対策法案」を可決した。この法案では、アメリカや同盟国の個人に対するICCの捜査に関わった人物らが資産凍結などの制裁の対象となるとされた。この法案は、同年1月28日にアメリカ議会上院で否決されたものの、2月6日に、トランプ大統領が同内容の大統領令に署名をし、同月10日付の同大統領令の付属文書において制裁対象者として、ICCのカリム・カーン主任検察官の名前が記載されることとなった。

 さらに、同年1月21日、イタリア政府は、ICCから戦争犯罪容疑で指名手配されていたリビアの容疑者を逮捕したものの、ICCに引き渡さずに釈放のうえ送還した。

 これらICCに対する非協力的な動きや制裁は、コア・クライムについて、ICCが司法判断を下すことのみならず、捜査を行うことも困難とすることになりかねない。

 ICCは刑事司法機関であり、法律と証拠に照らして手続が進められる。裁判官の独立は堅持されるべきであって、その判断は、司法判断そのものであり、尊重されるべきものである。にもかかわらず、ICCの関係者に対する制裁が現実に行われることによって、ICCの存続すら危ぶまれてしまう。

 日本は、ICCの最大の分担金拠出国であると同時に、裁判官を輩出し続けるなど、同裁判所の活動を支えてきたのであり、ICCが危機に直面している今、ICCがこの困難を乗り越えて存続し、独立性を保ちながらその任務を遂行し続けるために、当会は、日本政府に対し、以下のことを求める。

 1 ICCの判断は、独立した司法判断として尊重する旨を表明すること

 2 ICCに対する非協力的な活動及び制裁の実施に明確に反対する立場を示すこと

 それと同時に、当会は、基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とする法律専門家団体として、ICCの取組を広く支援し、あらゆる形での協力を惜しまないことをここに表明する。」



谷直樹

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by medical-law | 2025-03-11 13:08 | 弁護士会