日弁連「日本学術会議法案に反対する会長声明」
・第217回国会(常会)に提出された日本学術会議法案
「政府は、本年3月7日、「国の特別の機関」とされている現在の日本学術会議(以下「学術会議」という。)を廃止し、国から独立した法人格を有する組織としての特殊法人「日本学術会議」(以下「新法人」という。)を新設する日本学術会議法案(以下「本法案」という。)を閣議決定し、衆議院に提出した。
しかし、本法案は、当連合会がこれまでの会長声明(2023年2月28日「政府の「日本学術会議の在り方についての方針」に反対する会長声明」、2024年6月19日「日本学術会議の独立性・自律性の尊重を求める会長声明」)において指摘してきた問題点を払拭していない。そのため、本法案が成立すれば、時の政治権力から独立した立場で、政府に対し、科学的根拠に基づく政策提言を行うナショナル・アカデミーとしての学術会議の根幹をなし、学問の自由(憲法23条)に由来する独立性・自律性が損なわれるおそれが大きい。
本法案の最大の問題点は、学術会議が職務を「独立して」行うという現行法3条の文言が踏襲されず、政府を含む外部の介入を許容する新たな仕組みが幾重にも盛り込まれていることである。その仕組みとは、アカデミア全体や産業界等の会員以外の者から会長が任命する科学者を委員とし、会員の選定方針等について意見を述べる選定助言委員会(本法案26条、31条。以下の条項は本法案のものをいう。)、会員以外の者から会長が委員を任命し、中期的な活動計画や年度計画の作成、予算の作成、組織の管理・運営などについて意見を述べる運営助言委員会(27条、36条)、内閣府に設置され、内閣総理大臣が委員を任命し、中期的な活動計画の策定や業務の実績等に関する点検・評価の方法・結果について意見を述べる日本学術会議評価委員会(42条3項、51条)、内閣総理大臣が任命し、業務を監査して監査報告を作成し、業務・財産の状況の調査等を行う監事(19条、23条)、という各機関の設置である。これら各機関の設置は、活動面における政府からの独立性、及び会員選考における独立性・自律性というナショナル・アカデミーとしての生命線ともいうべき根幹を損なうものであり、学問の自由に対する重大な脅威ともなりかねない。
さらに懸念されるのが、新法人の会員の選任方法である。会員は「優れた研究又は業績がある科学者」のうちから選任されるが(9条2項)、会員候補者の選定に際しては「会員、大学、研究機関、学会、経済団体その他の民間の団体等の多様な関係者から推薦を求めることその他の幅広い候補者を得るために必要な措置を講じなければならない」とされ(30条2項、附則7条3項)、諸外国の多くのナショナル・アカデミーが採用している標準的な会員選考方式であるコ・オプテーション(現会員が会員候補者を推薦する方式)による選考方式が損なわれるおそれがある。その上、新法人が発足する際の会員については、現行の学術会議の推薦に基づいて内閣総理大臣が会員予定者125人を指名すると定められているところ(附則3条1項)、その会員予定者を選考する候補者選考委員会の委員を会長が任命しようとするときは、内閣総理大臣が指名する有識者と協議しなければならないとされている(附則6条5項)。他方、新法人の発足時点で任期を残している現会員は、新法人の会員となるとされるものの3年後に再任されることはなく(附則11条)、上述した会員の選任方法が実施されることにより、新法人は現在の学術会議との連続性が途絶えることとなる。このような選考方式で選考された会員によって構成される新法人が、時の政治権力から独立した立場で科学的根拠に基づく政策提言を政府に行うという、これまで学術会議が果たしてきた任務を遂行することができるのかについては、大きな懸念を抱かざるを得ない。
また、これまで国の特別の機関とされてきた学術会議を特殊法人にすることにより、政府の財政措置は補助にとどまるとされ(48条)、その結果として、新法人には自主的な財政基盤の強化が求められ、ナショナル・アカデミーとしての安定した財政基盤を維持するための国家財政支出が確保されなくなることも強く危惧される。
加えて、2020年10月に学術会議会員候補者6名が任命拒否されて以降、当連合会はその違法性を指摘して、速やかにその是正を図るよう繰り返し求めてきたが、その問題を放置したまま学術会議の法人化を進めていくことも看過できない。
本法案からは戦後間もなく制定された現行法の前文に相当する規定もなくなっているが、そこにうたわれた科学者の初心に基づく学術会議の使命が見失われることを危惧する。
よって、当連合会は、政府に対し、あらためて2020年10月の学術会議会員候補者6名の任命拒否を是正してその正常化を図り、相互の信頼関係を構築することを求めるとともに、学術会議の独立性・自律性を損なうおそれが大きい本法案に反対する。 」
谷直樹
ブログランキングに参加しています.クリックをお願いします!
↓
