確立している注意義務からの逸脱行為
医療事件では、ガイドライン、ランダム化比較試験(Randomized Controlled Trial:RCT)等の研究報告、医学文献等から確立している注意義務を主張、立証します。
最判昭57・ 3 ・30(集民135号563頁)は、「注意義務の基準となるべきものは,診療当時のいわゆる臨床医学の実践における医療水準である」と判示しました。しかし、今では、「医療水準」という用語を新規の治療法が普及するときに◯年には医療水準として確立していたという形で使われることがありますが、それ以外の局面で用いることは少なくなっています。医療機関の性格に応じた医療水準も問題になりますが、その施設では扱えない患者については高次の医療機関に転医させる義務がありますので、医療水準を理由に責任を否定することは難しくなっています。
原審判決が「医療水準」と書いたものを、最高裁判決が「医学知見」と言い換えていることもあります。また、「医療水準」、「医学知見」の用語を用いない最高裁判決もあります。
裁判例は、裁判所の考え方を知る上で参考になりますが、医学、医療の内容が進歩しているため、今であればその事案での解決と異なるであろうと考えられるものも多いです。
なお、医療事件で、転倒、誤嚥、自殺等患者自身の行為が関与するものを除けば、裁判所が医師の行為について予見可能性・結果回避義務という枠組みを用いることは少ないです。
谷直樹
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