日弁連「国立ハンセン病療養所の具体的な将来構想の策定・実行及び同療養所の一体的な永続化を求める会長声明」
「 当連合会は、2024年10月24日、全国ハンセン病療養所入所者協議会から、国に対し、ハンセン病問題の解決の促進に関する法律(以下「ハンセン病問題基本法」という。)を踏まえた全国の国立ハンセン病療養所(以下「療養所」という。)の将来構想の構築及び永続化に向けた取組を求める意見を提出すること、並びに引き続きハンセン病問題の全面解決のために尽力することの要請を受けた。
日本では、90年もの長きにわたり、国による隔離政策の下で、ハンセン病の患者が療養所に強制的に隔離収容され、断種、堕胎を強制されるなどの重大な人権侵害が行われてきた。その過酷な環境を生き抜き、被害の回復を希求してきたハンセン病の患者であった方々も皆高齢になっており、2024年5月1日現在、全国の療養所の入所者718人の平均年齢は88.3歳である。
国は、憲法に違反する強制隔離政策を遂行した法的責任に基づき、最後の一人まで入所者の療養生活を保障する義務を負い(ハンセン病問題基本法7条)、将来にわたって入所者を意に反して現に居住する療養所から退所又は転所させてはならないこと(同法10条)はもとより、入所者が地域から孤立することなく安心して豊かな療養生活を営むことができるように配慮しなければならない(同法3条2項)。また、国には、療養所において、入所者、退所者及び非入所者に対する医療及び介護の提供体制を整備し、充実していくことが求められている(同法11条、16条)。
しかし、現在の療養所は、医師の定員割れの状況が続き、入所者の高齢化のため介護等のケアの必要性がより一層高まっているにもかかわらず、看護師及び介護員の定員の継続的な減少により看護及び介護の深刻な質の低下を招いているなど、入所者の現在及び将来における療養生活を保障するには程遠い状況にある。国が前記の義務を確実に履行し、最後の一人まで良好かつ平穏な生活を営むことができるように療養所の具体的な将来構想を策定・実行することは、喫緊の課題である。
また、療養所は、強制隔離政策による重大な人権侵害が行われてきた場所であるとともに、人権回復のために闘ってきた入所者らが生きてきた場でもある。そして、強制隔離政策により作出、助長されたハンセン病に対する差別・偏見は今日もなお社会に根強く残っている。入所者が高齢化し、入所者数も減少していく中で、たとえ将来入所者が存在しない状況になっても、国が今後同じような過ちを二度と繰り返さないためには、過酷な人権侵害の歴史を後世に伝えるとともに、人権教育の場とするため、各療養所における歴史的建造物・史跡・資料等(以下、合わせて「歴史的建造物等」という。)を一体として永続的に保存・管理していくことも喫緊の課題である。
この点、ハンセン病問題基本法18条は、ハンセン病の患者であった方々の名誉回復措置として歴史的建造物の保存等の必要な措置を講ずる旨規定し、同条等を踏まえて、厚生労働省は療養所内の歴史的建造物等の保存・管理を検討する歴史的建造物保存等検討会を設置し、同検討会ではようやく2022年から各療養所が策定した保存対象リストの検討が行われるようになった。しかし、保存対象リストの策定に至っていない療養所も少なくなく、歴史的建造物等を一体として永続的に保存・管理していくための具体的な方針については検討さえなされていない状況にある。このような状況が更に続けば、時間の経過とともにこれらが失われることは不可避である。それゆえ、国が、各療養所における歴史的建造物等を一体として永続的に保存・管理することを視野に入れて、ハンセン病問題基本法の改正を含む抜本的かつ迅速な対応を行うことが求められている。
よって、当連合会は、国に対し、療養所の具体的な将来構想を速やかに策定・実行するよう改めて求めるとともに、歴史的建造物等を一体として永続的に保存・管理していくための具体的な立法や行政上の対策を速やかに講じるよう求める。
当連合会は、引き続き、ハンセン病問題の早期かつ全面的な解決を目指し、全力を尽くす所存である。 」
谷直樹
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